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蜷川幸雄シアター2「身毒丸 ファイナル」のgenarowlandsのレビュー・感想・評価

4.7
寺山修司原作、蜷川幸雄演出「しんとくまる」は白石加代子と藤原竜也が魂を削り合い、「胎内回帰」を目指す物語。創造の源泉は混沌。生き難い時代に自然発生し語り継がれてきた説経節を舞台演劇の力で甦えさせ、やり直しできない人生に一縷の夢を与える。深い感動体験だった。

夜叉にもグレートマザーにもなる白石加代子と永遠の少年性を纏う藤原竜也の組み合わせしかキャストは考えられない。

最初は役割としての過度な母性は暴力に等しく、世間体を整えるだけが家族の柱だという空っぽな父性が強調され、空虚に支配された近代的家族をグロテスクに皮肉っていると見ていたが、次第にこれは「女の生き方」と「役割からの解放」がテーマではないかと思うようになった。

寺山修司の劇団天井桟敷で初演されたものを観ていないので想像でしかないが、寺山なら美形の藤原竜也を選ばなかっただろう。なんせ主人公は自身の分身だから。そしてエンディングでは蜷川のように観客に継母に好感を抱かせる形にはせず、最後まで継母を突き放し、まぶたの母を求めて放浪する魂を描いたのではないか、そんな風に思った。

と同時に、中世からの民間伝承や江戸時代初期の説経節、そして芝居(映画含む)へと形を変えて、元ネタが時代を超えて生き続けていることに、(いつの時代も)生きづらいと思っている人々を癒し解放させるエンタメパワーがあることに感動した。心動かす物語は転生するんだなと。

物語は寺山から蜷川へと繋がり、
「女の生き方」と「役割からの解放」は蜷川の解釈であり、母とともに解放されない寺山修司をも解放させようとしたのではと、私は勝手に解釈した。

音楽が素晴らしく、浄瑠璃、民謡もあればムード歌謡もあった。

演出は寺山修司らしいおどろおどろしい世界観が表され、夢と幻の中を漂っていた。やはり今敏監督の『パプリカ』は寺山修司へのオマージュに感じた。

撮影も、舞台のハイライトをうまくクローズアップしたり引いたりでよかったが、ライブで観たかったな。天井桟敷の作品も観てみたい。
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