"…3＋5…忘れられない数字…"

薄暗い路地裏に倒れた一人の女…傷だらけにも関わらず、救急車も警察も拒否する…明らかに訳ありの様子…放っておくわけにもいかず、自宅に連れてきたセリグマンに、"ジョー"と名乗った女は"信じてもらえないだろうけど…全てを話すわ…"と自らの半生を語りだす…

最新作"キングダム　エクソダス〈脱出〉"の劇場公開を記念して始まった"ラース・フォン・トリアー　レトロスペクティブ2023"…未見でありました本作をVol.1&Vol.2と連続鑑賞という…ある意味無謀とも言える挑戦…しかも前後編合わせて84分もの未公開シーンを加えた完全版で無修正…8章に区切って描かれるのは、"ニンフォマニアック《色情狂》を自認するある女性の凄まじい愛と性の半生…

過激なセックス描写が有名で、確かに大きなスクリーンに映し出される無修正の世界は、エロというよりも…ドン引き…でもトリアー作品としては案外とっつきやすく、何だか笑ってしまうシーンが多いような気がします。

前編で印象深いのは、ユマ・サーマンの怖い怖い行動と雄叫び…

ジョーが自らの半生を語り、セリグマンがひたすら聞き役に徹しながらも、ジョーの行動に哲学的考察をいちいち入れてくる構成なのですが、セリグマンが神妙な顔つきながらも、ノリノリで話を聞く姿に嫌ーな予感を抱きつつ後編へ…

私 色情狂（ニンフォマニアック）だったの

ちょっと 待て

2歳で色情狂の者などいない

厳格な神も 普通の子供の
行為と見なすだろう

胎児はどうだ？

胎児が性器を触ることは
一般的に知られている

罪深い胎児などいるか？

いるかも

どんな宗教でも
ありえない

先祖から受け継いだ
原罪は別だが

これから始まる宗教なら
ありえるかも

まだ 出現してない神様は
そう言うかも

想像なら
何とでも言えるさ



それが私の唯一の罪ね



父は木や葉の話をするのが
好きだった

よい教育の一環と考えていた

父は私が忘れないように―

子供っぽい お話にして
教えてくれた

父が楽しそうに話すので
私は たまに―

お話を忘れたフリをした



彼はペニスを押し込み
3回突いた

1

2

3

そして ポテトの袋のように
私を裏返した

3＋

お尻に入れて もう5回

3＋1

3＋2

3＋3

3＋4

3＋5



屈辱的な2つの数字を
一生 忘れない

3と5？

フィボナッチ数だ



驚くほど簡単だった

スコアは5対3　Bがリード

彼女の言うとおり
目を見て 微笑むだけ

でも突然 止まったの

川釣りと まったく同じだよ

まったく食いつかないか

一気に食いつくか

食いつく時は
狂ったような勢いだ

だが突然 それが止まる

観測できても
予測するのは難しい

おそらく原因は

天気かも

気圧かもしれない

魚の心理的要因かも

それが存在するなら

雨の降り始めは―

食いつきがいいんだ

安全だと感じるからだろう

雨で川面が乱され
敵に見つからないからだ



つまり オーラル・セックスは
君にとっての―

”フィンランド製
必殺武器”だな



私 そういう人間なの



私が言いたいのは…

翼があるなら飛べばいい

話は脱線するが…

シコルスキーとヘリコプター
に関する本を読んだ

離陸時ヘリコプターを
前傾させると

地面に下降するように見える

だが 効果は反対だ

速度がヘリコプターを
上空へと 上昇させる

パイロットは”ヘリコプターが
飛びたがる”と言う

グライダーに乗っていると
突然 上昇する

なぜなら 熱気流が
発生しているからだ

太陽が地表を温め
熱が発生する

そして上昇気流が起こる

航空機は 飛びたいが
いつ飛べるか予測できない

君も 列車で飛んでいた

君は それに驚いた



私はジョー

セリグマンだ

バカげた名前だわ

ユダヤの名だ

”信心深くないと”

曽祖父は信心深かった

両親が私を
こう名づけたのは―

ユダヤ文化への郷愁からだよ

なぜ信仰を
廃れさせたのに―

郷愁を抱くの？

確かに そうだな

我々はシオニズムには反対だ

反ユダヤ主義ではない

政治的な圧力が嫌いだ

セリグマンとは―

”幸せな者”という意味だ

あなたは幸せ？

幸せだと思う

私なりに

爪は右手から切る男だがね

どういう意味？

人間のタイプは2つ

左手の爪から切る人と―

右手の爪から切る人だ

左手の爪から切る人は―

陽気で気さくだ

人生を楽しんでいる

簡単なことを先に済ませ―

難しいことは後回し

君は どっち？

いつも左手から

選択肢はない

どんな時も快楽が先よ

そして 左手が終わったら―

残るは右手

当たり前のことよ

そう考えたことはなかった

何かを学ぶのに
遅すぎることはない



反抗してたんだな

何に反抗してた？

愛よ

愛？

愛に取りつかれた世の中と
闘っていたの



私は”会”を信じてた
とんだバカだったわ

時と共に 最も強い者でさえ
信条を裏切るのよ



私にとって愛とは
嫉妬の要素を加えた欲望

それ以外 意味はない

愛の名の下に
100件の犯罪が起きるなら―

セックスの名の下には1件よ

それは名言だ

まともな教育を受けたいと
心から願ったわ



私は感傷的じゃないの



だが ケーキ用のフォークは
かなり実用的な道具と言える

いわばナイフと
フォークの中間だ

片手でデザート皿を
押さえて―

もう片方の手で切る

そしてフォークで食べる



彼の力強い手で？

そう…　でも
彼の手だけじゃない

彼のすべてが
違うように思えた

もちろん彼は今までと同じよ

違って見えた自分を叱ったわ

”愛は盲目”か

もっと ひどい

愛は物事をゆがめる

もっと悪い

愛は求めてもいないものよ

エロスは男に
強く求めていたけど

あんな愚かしい愛は…

屈辱的に感じたわ

愛は不誠実なものだから

エロスは”イエス”と言うこと

でも 愛は嘘をまとい
もっとも低俗な本能に訴える

イエスなのにノーと言ったり
その逆も

そんな自分を恥じた

だけど制御不能だった

今 君は何をしてる？

さあ　何かしら？

自分を守ろうとしてる

すべて さらけ出すべきだ



悪いアイデアかしら？

いいえ　いいと思うわ

ただ―

金曜まで待った方がいいわ

なぜ？

彼は金曜になると
機嫌がいいから



なるほど

この章では もう君が悪い人間だ
と証明することは起きないな

言ったとおりでしょ

少なくとも 表面的にはね

嫉妬したのでは？

しなかったわ

そんな感情 知らなかった

嫉妬しない人間なんて
ほとんど超人だよ

つまり 愛の終わりか

そんなに簡単じゃないわ

”その後 いろいろあった”

小説で言うように…

ジェロームは
突然 消えたのか？

そうよ

彼のことを私なりに
心に とどめておきたくて―

電車の中でオナニーしたわ

電車でオナニー？　座席で？

もちろん

本当に できたか？

簡単よ

膝の上にコートを置いて

表情に出さず 静かにイくの

他人に見せたのは…
ほぼ 女性だったけど

イった時に
開いた私の口ぐらいだわ



そこで方法を考えた

すべては運任せ

”1”は
すごく愛情を込めた返事

”2”は
少し醒めてるけど 前向き

その調子で進み
”5”は完全な拒絶

”6”は返事をしない

この方法だと 相手との関係を
気にする必要がない

私の返事が
予測できないため―

男たちをいっそう刺激した



この部屋を覚えておくのよ

特にベッドを

セラピーの時 役に立つから

セラピーだなんて
料金の事も考えずに

せびってると思わないでね

ごめんなさい　悪かったわ

ママったらバカね

紅茶を飲みましょう



じゃあ 私から

彼女は たった1日で―

何人の人生を
破滅させられる？

5人？

50人？

数百人？

最後の人数は
荒唐無稽だけど

意思あるところに
道は拓くのよ



君の人生への影響は？

何もない

まったく？

ないわ

オムレツを作るには
卵を割らなきゃ

確かにな

人によっては―

依存症を非難するが
同情する人もいる

私の場合 原因は欲望よ
欠乏感じゃない

そうだろうな

欲望のせいで
私の周りを破滅に導いたわ

まあな

依存症は時として
共感を得られないものだ

獅子と闘いながら
子供の鼻は拭けない

私にとって色情症は
無感覚と同じ

頑（かたく）なだな

君の気持ちは？

どう感じていたんだ？

快感だったのか？
それとも不快？

おかしなものね

人生を全体で考えると
心地よかった

でも それぞれの出来事を
思い出すと不快なの

どんな風に？

H夫人の孤独の話は正しいわ

孤独じゃなかったと言えば
嘘になる

それだけ男がいても
寂しかったのか？

話したくなかったのに…

あなたの罠に はまった

孤独を感じたわ

何もかもが とても
つまらなく思えた



通過できないゲートを―

たった一人で くぐるような
気がした



まるで私は
宇宙で一人ぼっちのよう

体全体に孤独と涙が
満ちている感覚…



怖くないの？

ちっとも

怖くない

なぜ怖くないの？

多くの死を見た

かつて―

エピクロスが こう言った

”我々が存在する時
死は まだ訪れず”

”死が訪れた時
我々は存在しない”



パパ

冬は どうやって見分けるの？

何度も話しただろ

覚えてないの

トネリコの木が創られた時

森の他の木々が嫉妬した

それは…

森で最も美しい木だった

何よりも強い木

何にでも使えた

北欧神話に出てくる
”世界樹”なんだ

欠点など1つもない

トネリコの葉が落ちて―

黒い芽が出たのを見て
他の木々は…

大笑いした

”見てみろ”

”トネリコに指が生えてるぞ”



父が死んだ時
私は感情を失っていた

よく分かるよ

何が起きたか分からなかった

とても恥ずかしかった

恥ずかしい？

でも なぜ？



濡れてたから



本当か？

ドラマチックな意思表示だな

音楽を聴くのね

そうとも

大好きなんだ

何か聴く？

テープが入ってるわ
それを聴かせて

最近よく聴いているが―

完全な録音とは言えない

何なの？

バッハだ

オルガン小曲集から

「主よ　我 汝に呼ばわる」

元は讃美歌だが―

バッハがアレンジして
見事に仕上げた



これを 私の話と比較すると
色情狂の資質を思い起こす

普段は無視されるけど
やはり重要なこと

それは 様々な性行為の関係性よ

興味深いな

それは 完璧さを創り出すのか？

例えば 握手はどう？

”握手”という1つの概念は
様々な握手から構成されている

良い握手　悪い握手

固い握手　弱々しい握手

普通 色情狂というのは―

”満足できない人”と思われる

だから大勢とセックスすると

確かに そうだけど

正直に言うなら
私としては ただ単に―

”性的体験の総体”としてしか
見ていない

だから私にとっては
男は1人だけと同じ



たとえ それ自体は
意味がなくても―

大事な基礎となる存在だ



私が あれほど
じらされたのは彼だけ

やっと現れ
ドアを開けても―

すぐには入らない

まるで猫のような男

ドアが開かれても
たっぷり時間をかける

いいえ　猫というより―

ジャガーかヒョウのよう

しなやかな動き

私を興奮させる



彼がベッドに横たわると
私が近づいていった

近づくのは彼ではない

彼に触れる時は ためらった

彼の反応は予測できないから

興奮させることが彼の役目



信じられん

話を楽しむ方法は どっち？

信じること？
信じないこと？

そうだな 君の言うとおりだ



セックスに必要な
秘密の要素は愛よ



定旋律か



どうした？

何も感じないの

何も感じない

何も…

何も感じないのよ

映画のような恋でした
https://youtu.be/fDDJnRZ9JdU

• #2025+
• #足すと8️⃣

配信終了間際のU-NEXT駆け込み視聴。

一言で表すなら、性×哲学。

とはいえ、難解ということもなく、意外と映画として面白かった。各章ごとにテーマがしっかりあって、めちゃくちゃな価値観を描いているはずなのに、何故か分かりやすい。

性的な描写はもちろん多いけど、それだけではなく、展開はちゃんとエキサイティング。特に3章の "Mrs. H"はとてつもなかった。エピソードとしては、さほど珍しいものではないんだろうけど、とにかくユマ・サーマンの迫力が凄かったです。

あと、セリグマンの存在のおかげで、こんなテーマなのに不思議と俗物的な感じが少ない。むしろアーティスティックな雰囲気すらあって、性と芸術の親和性の高さを改めて感じました。