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廃用身
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廃用身の作品紹介

廃用身のあらすじ

ある町のデイケア「異人坂クリニック」に通うお年寄りの間で、漆原院長(染谷将太)が考案した“画期的な”治療が密かに広まっている。究極のコスパの良い介護を目指すため、<廃用身」>(麻痺などにより、回復見込みがない手足のこと)の切断を行った結果、「身体も心も軽くなった」、「厳しい性格が柔らかくなった」などと予想外の“好ましい副作用”が現れたという。噂を聞きつけた編集者・矢倉は、老齢期医療に革命を起こす可能性を感じ取り、漆原に本の出版を持ちかける。しかしやがて、デイケアに関するとある内部告発が週刊誌に流出。さらに、患者宅で起きた衝撃の事件をきっかけに、すべてが暗転していくーー。

廃用身の監督

吉田光希

原題
公式サイト
https://haiyoshin.com/
製作年
2026年
製作国・地域
日本
上映時間
125分
ジャンル
サスペンス
配給会社
アークエンタテインメント

『廃用身』に投稿された感想・評価

背骨
3.5
動かなくなった四肢を切断する治療を推し進めてきた医師の末路とそれが巻き起こすいくつもの事件

治療によって生まれる効果や副作用にとどまらず、介護・医療が抱える問題や関係者の心情まで広範囲に炙り出す

テーマやストーリーは興味深いが、全体的にスローなのが気になるし、クライマックス以降の後半は明らかに長すぎる
kuu
3.8
『廃用身』
製作年 2026年。上映時間 125分
映倫区分 PG12 製作国 日本
現役医師の作家・久坂部羊が2003年に発表した同名デビュー小説を、染谷将太が主演を務めて映画化したヒューマンサスペンス。

今作品はお釈迦さんさえ悩んだ生老病死の極限状態における、医療倫理と功利主義の凄惨な衝突でした。
医学の絶対原則たる『身体の不可侵』に対し、患者と介護家族の『生活の質(QOL)』を最大化すべく機能不全の肉体を切除していくアプローチっとのは、生命の尊厳を、維持することと削ることのどちらが本質的な救済なのかって、医療の本源的な矛盾を白日の下に晒してます。
※身体の不可侵とは、自分の身体は自分だけのモンであり、他人が勝手に傷つけたり、触ったり、奪ったりしてはならへんって云う、人が生まれながらに持っているもっとも基本的な権利のことで、"Quality of Life"=QOLは人生や生活の豊かさとか、満足度のことです。

理想論の通じひん在宅介護のキツい現実や、自己犠牲の美徳を他者に強いる社会のクソ無責任さを前に、主人公の漆原医師が倫理的退行を余儀なくされていく過程って、綺麗事では存続できない現場の限界を冷徹に証明しているかもしれない。
日々、心身ともすりきれてく家族の悲鳴に実質的な救いをもたらすその執刀は、残酷な利便性と背中合わせの、狂気的な人道主義に他ならないかな。

​しかし、この効率性の追求って、容易に優生思想へと接続する危うさを孕んでいるのは確かで、機能しない部位の排除って論理は、そのまま社会における生産性のない人間(実際、そないなんはなんびとたりとも居ないが)の排除へとスライドしていく危険性を内包してる、云うまでもなく、人間において生産性の有無などと云う区分や優劣は実際には存在しないし、いかなる人もそのような物差しで選別される筋合いはない。
しかし、その厳然たる事実を無視し、 ちょいスリッパリー・スロープ気味かもしれへんが、機能不全を理由に命や存在をお荷物とみなす論理を一度でも許せば、社会全体の価値観がそこへ滑り落ちていく。
今作品が観る者に強烈な倫理的嫌悪感を植え付けるんはまさにこのためなんじゃないかな。

​この構図は、近年の出生前診断をめぐる議論にも通底してる。 
医療技術の進歩により、胎児の障害の有無を手軽に検査できる環境が整いつつある。
生まれてくる子供や親が苦労しないようにって純粋な善意や、現実的なQOLの追求が出発点であることは疑いようがないけど、もし社会全体が障害のある命は最初から排除(中絶)するのが正しいという無言の同調圧力を形成し始めたなら、それは極めて現代的な優生思想のシステムとして機能することになり得るんじゃないかな。

​今作品が描く架空の医療も、出生前診断という現実のトピックも、決して悪意から始まっているわけではないってことは、重ねて強調しておきます。
苦労や負担を減らしたって、人間として自然な合理性の追求や善意がブレーキを失って暴走した結果、命や人間の価値にグラデーション(優劣)をつけてしまうって恐るべき共通点を、我々は決して見失ってはならない。

最悪のディストピアが、悪意やなく純粋な善意と合理化から立ち現れるという事実こそが、現代社会への鋭利な警鐘として機能しているし、善意が人間を肉体のパーツへと解体する記号化に変貌していくグラデーションを、主演の染谷将太は精緻な演技で魅せてて、純粋な青年医師の瞳が独善的な光に侵食されていく様は、サスペンスとしての説得力をもってた。

さらに今作品の描写は、救済の先で剥き出しになる人間の本能的なエゴと、その帰結としての究極の孤独までを冷徹に見届ける。
介護負担の軽減ちゅう大義名分の裏に潜む、家族側の自身の免責って本音を、映画は一切の容赦なく暴き出していた。
社会や家族から関係性を絶たれ、ただ生存しているだけの肉体へと還元された高齢障がい者の姿は、人間の尊厳が五体満足の維持にあるのか、それとも他者との健やかな繋がりにあるのかという二者択一を迫ってきました。
カタルシスを徹底的に排除した陰惨な結末は強烈な虚無感を植え付け、思考停止を許さない。

​原作の持つドキュメンタリー的な淡々とした凄みに比べ、映画的な演出や警察の介入といったドラマ性が強調されすぎているという批判の余地はあるものの、観る者を安全な第三者の立場に留まらせない社会派エンタメとしての完成度は個人的には高いと感じました。
倫理的な嫌悪と現実的な共感の間で絶えず引き裂かれ続けるため、安易な娯楽としての消費を頑なに拒む一作であり、超高齢化の歪みを鏡のように映し出した今作品は、人間を人間たらしめる境界線がどこにあるのかを沈黙のうちに問い続け重たい爪痕を残します。

​※介護現場の限界や出生前診断の是非と云う、正解のない切実な痛みを伴う問題に対して、多分に手厳しい表現を用いたことをお許しください。
日々すり減りながらも当事者として向き合っておられる方々への敬意を欠く意図は一切ございません。
悪意なき善意の暴走が孕む現代社会の歪みを、映画のテーマに即して真摯に考察した結果の記述ですが、配慮に欠ける文言によって傷つき、不快な思いをされた方には心よりお詫び申し上げます。

あらすじ・キャスト
デイケア施設「異人坂クリニック」に通う高齢者の間では、院長の漆原糾が考案した画期的な治療が密かに広まっていた。コストパフォーマンスに優れた介護を目指すその医療行為は、「廃用身(麻痺などにより回復見込みがない手足のこと)」をめぐるもので、「身体も心も軽くなった」「厳しい性格が柔らかくなった」などと予想外の“好ましい副作用”が現れたという。噂を聞きつけた編集者の矢倉は、老齢期医療に革命を起こす可能性を感じ、漆原に本の出版を打診する。しかし、デイケアに関する内部告発が週刊誌に流出し、さらに患者宅で衝撃的な事件が起こったことで、すべてが暗転していく。

理想を追い求めるあまり合理性と狂気の狭間へと踏み込んでいく医師・漆原を染谷将太が怪演し、編集者・矢倉を北村有起哉、漆原の治療で人生を取り戻した高齢者・岩上を六平直政、漆原の妻・菊子を瀧内公美が演じる。監督・脚本は「家族X」「三つの光」などで国内外から注目を集めてきた𠮷田光希。
ぶみ
4.0
この楽園は異常ですか?

久坂部羊が上梓した同名小説を、𠮷田光希監督、脚本、染谷将太主演により映像化したドラマ。
従来の概念を覆す治療をする医師の姿を描く。
原作は未読。
主人公となるデイケア施設「異人坂クリニック」の院長・漆原糺を染谷、雑誌の編集者・矢倉俊太郎を北村有起哉、施設の利用者・岩上武一を六平直政が演じているほか、瀧内公美、廣末哲万、中村映里子、中井友望等が登場。
物語は、「【廃用身】(はいよーしん):麻痺などにより、回復見込みがない手足とのこと」との説明が入った後、「廃用身」以外の文字が消え、タイトルとなる単語のみが残るというオープニングとなっているが、その「廃用身」なる言葉は、本作品で初めて耳にしたもの。
次には、病室で寝る老女、彼女を無言で見つめる息子らしい男性と看護師が映し出されるのだが、外から入り込む木漏れ日との対比が凄まじく、不穏感は抜群。
その後、左腕を失った女性をインタビューする矢倉の姿となっていくので、導入からなかなか刺激的なシーンの連続に。
以降、老人の不要な手足を切断する「Aケア」を提案する漆原と患者、彼を取材する矢倉という構図で展開、「初年」「第一例」と、漆原が最初に廃用身切断を提案したところから時系列順に章立てで進行するので、話そのものは非常にわかりやすい構成となっているが、本作品の肝は、やはりそのAケアと呼ばれる廃用身の切断。
漆原の提案は非常に合理的であり、患者、介護者双方が所謂Win-Winの関係となることから、そんな治療もありなのではと一定の説得力がある反面、やはり感情的には、どうにも引っかかることだらけ。
これが、例えるなら、機能としては殆ど失っているであろう虫垂を切除すると認知症が治ると言われれば、すぐにでもやろうと思う反面、それが男性の乳首だったらどうなるのかとも考えてしまい、前述のような感情論に倫理観、さらにはルッキズム等々、単純に体重を軽くすることの効用だけでなく様々な面が想定され、本作品を観ることで、今まで考えも及ばなかったような点に気づかせてくれたところ。
何より、医療をサービスとして捉える漆原を染谷が好演しており、また一段役者としてのステップが上がったのではと感じたと同時に、漆原によって左腕、両脚切断となった岩上を六平が、こちらもベストアクトではと思わせるぐらいの渾身の演技を見せていたのも見逃せないポイント。
加えて、ある患者の夫が、介護の「ケアマネージャー」のことを、そのままの「ケアマネージャー」でもなく、よく使われる「ケアマネ」でもなく、「マネージャー」と呼んでいたあたりも、実際にそう言っている人もいるのだろうなと絶妙なリアリティを持たせていた反面、漆原のサイコパス的な趣味嗜好の部分と治療法を結びつかせ、劇伴を極力廃し、ホラー風味の演出があったのは蛇足のようにも感じた次第。
高齢化社会の進行により、待ったなしとなっている介護の領域に一石を投じ、前述のようなホラーのような雰囲気や、イメージビジュアルから想像される閉鎖されたユートピアかのような空気感以上に、観る側の倫理観を抉ってくる作風に、観終わるとどっと疲れが出たとともに、公式サイトにある「異人坂クリニック」のホームページが本物っぽくって面白かったのに加え、気を抜いていたら、まさかの執刀外科医という重要かつ真面目な役で吉岡睦雄が登場してきたのに驚かされた良作。

介護力は限りある資源なんです。

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