サーモ・グラフィ・スコープで覗いたLAの深夜の街並み。全体的にブルーがかったその中で輝く赤や黄色。その色はぼんやりとした暖色である。やがてフレームは女性のシルエットを映し出すと肌は明るい暖色を示している。イヤフォンで覆い隠した都会の喧騒の中で、身体を小さく屈めた少女は大好きな母親が生まれ育った憧れの地を踏もうとしていた。一方で男は、夜通し改造したトラックの中で眠れない夜を過ごす。その姿はさながら『タクシー・ドライバー』の運転手のトラヴィスのように夢遊病者に見える。ネオン煌めく眠らない街の空がやがて明るく白み始めると、ポール（ジョン・ディール）は満ち足りた様子で静かに今日の務めを終える。といっても誰かに頼まれた夜警ではなく、彼の自主的な警備作業は昼夜を問わず行われていた。あらゆる電波を傍受し、天井に開けられた大きな穴からは360度見渡せる監視カメラが覗いている。監視用機材が所狭しと置かれた車内、短くなったタバコをふかしながら、男がにやつきながらモニターを覗いている。一方、イスラエルのテルアビブ空港を出発した飛行機には、少女ラナ（ミシェル・ウィリアムズ）が乗っていた。テルアビブから一路ロサンゼルスへ。アフリカとイスラエルで10年間過ごし、故郷アメリカへと帰ってきた彼女が見たのは、飢えで苦しむホームレスが溢れる町だった。宣教師の父を持つラナは、ダウンタウンの伝道所で生活を始める。彼女は亡き母から預かった大切な手紙を渡すため、伯父ポールを探していた。

　ポールは今もなお3.11の世界を生きている。2つの象徴的なタワーに飛行機が突っ込んだあの悪夢のような映像から2年経っても決して傷は癒えていない。自称・愛国者の男は自ら率先して立ち上がり、LAの治安を守ろうとするのだがその姿はどこか神経症的にも見え、滑稽に思えてならないのだ。やがてポールはイスラエルから祖国にやって来たラナと出会うのだが、再会の場面もどこか素っ気ないものとなる。ポールは『パリ、テキサス』のトラヴィス（そう言えばタクシー・ドライバーと同じトラヴィスだ!!）のように最初から時代遅れの人間としてフレームの中に居座るのだ。『タクシー・ドライバー』のタクシーが母親の子宮のメタファーだったのとまったく同じように、今作では改造したトラックこそが彼にとって誰にも攻撃されることのない堅牢で平和な空間に他ならない。ある行きがかり上の理由が出来て2人は共にある場所に向かわねばならず、安全圏の中に初めて姪っ子を乗せた途端にポールは饒舌になり、自身の病巣をゆっくりと語り始める。やはりそこには『タクシー・ドライバー』のトラヴィスと同じ症状が見出せるのだが、ヴェンダースは3.11の頃から10数年先のトランプの4年間、つまり白人至上主義や歴史修正主義がここまで蔓延するのを予測していたのだろうか？と思うほど今作のポールの神経症的な世界観はその後のアメリカに巣食い、現在進行形で分断という大きな影響を及ぼしている。

　2000年代初頭のデジタルの質感はやはりかなり酷くて、黎明期のそれは今観てもなおフィルムとの差異に愕然とするのだが、ヴェンダースだってその辺りの事は十分理解していただろう。それでも彼はアメリカで3.11以降の映画をどうしても撮りたかった。心底低調に見えた映画の最後に全てをひっくり返して見せた亡き妹からの手紙。その瞬間、眼前に拡がる文章は走馬灯のような性急なショットの羅列により大いに祝福される。肌の色や宗教でいがみ合うこの世界の愚かさは、実の兄妹の間に起きた亀裂からも明らかだが、天国の妹はポールに過去ではなく未来へ向かわせようとするのだ。ゆっくりとグランド・ゼロ前に立ち尽くした2人の背中は同じ方向を向いている。

ヴィム・ヴェンダース監督による9.11同時多発テロ事件をテーマにした、アメリカ人の闇、偏見、貧困、宗教、そして家族を描いた低予算作品。
撮影期間16日間と言う早撮りらしいが、コンパクトに纏まっていて、一部ロードムービー要素もあり面白く観れた。

監督が当時よく聴いていたレナード・コーエンの曲"The Land of Plenty "がイメージにピッタリと感じ、交渉してタイトルをそのままとし、主題曲として使った。雰囲気がベストマッチしていた♬


9.11の2年後が舞台。ベトナム戦争の帰還兵のポール（ジョン・ディール）は誰よりも祖国愛が強く、アメリカをテロリストから守る信念を持ち、自主的に特殊部隊の曹長と名乗り、バンに機材を積んで街中をパトロールをしていた。

ポールの姪ラナ（ミシェル・ウィリアムズ）は両親が宣教師だった為、世界を転々として成長したが、この度、亡き母（ポールの妹）の手紙を伯父に見せるために10年ぶりに帰国した。

2人とも9･11以降、母国アメリカへの複雑な思いを抱いている。
ポールは偏執的とも言える愛国心で形にし、ラナはその思いを宗教と貧困層への支援で形にしようとしていた。
ある事故によって2人の思いが交錯し、ポールはバンにはラナを乗せニューヨークへと向かう...


ミシェル・ウィリアムズはかの名作『ブロークバック・マウンテン』の1年前で当時23歳。フレッシュで可愛らしい💕
初心で繊細な中に、芯のある力強い演技が既に確率していました✨

箱

アメリカで生まれアフリカで育った少女ラナは、亡き母の手紙を伯父に渡すために10年振りにアメリカに帰国する
ラナと伯父は、ホームレスのイスラム系青年が殺される事件に遭遇
ラナはその青年の遺体を彼の兄に届けるため、叔父はその事件の真相を探るためにアメリカを横断する旅に出る

9.11後の影響

重たいドラマだった

アメリカとテロ
テロとの戦いですね

偵察がスゴい
かなり警戒してます

静かな雰囲気
終わり方も良い

ミシェル・ウィリアムズが印象的でした