山間地帯に面した人里離れた大きな池にある釣り堀。背の高い男ヒョンシク(キム・ヨソク)は軽装と僅かな荷物でこの地を訪れる。この辺りはヒジン(ソ・ジョン)という女性が管理しており、女は男を筏に誘いながら、黄色い外装の家へと迎え入れる。湖畔にぷかぷか浮かんだその家は背の高い彼には不似合いで、狭い場所に押し込められたという言葉がぴったりだが、どういうわけか彼は与えられたその場所をすんなりと受け入れる。キム・ギドクの処女作『鰐』とは対照的に、ここでは死に場所を探し求める男を女が受け入れる。『鰐』ではワニと呼ばれた男が、自殺者の金品を強奪し最後には非道なレイプまでしたが、今作のヒロインは金品も盗まなければ、野蛮な男のように簡単に強姦もしない。女はただ純粋に男に大切にされ、愛されたいと願うのだ。

　後の傑作『春夏秋冬そして春』のように、今作は登場人物たちを寄りで捉えず、引きの絵で映す。男が娼婦を強姦しようとする場面の長回しは図らずもキム・ギドク作品の中で最も美しい場面に数えられる。これまでの主人公同様に男は、針金を器用に曲げながらブランコや自転車などを作ってみたりする。しかし仮初めの針金でこしらえたブランコも自転車も、湖面の上では何の効力も発揮しない。正面上の釘にくくりつけられた白い鳥籠の中の鳥は、女が取って来た陸地の動物の肉に微動だにしない。死に場所を探していた男にとっては、この狭い小屋は針の筵でも袋小路でも何でもない理想的な破滅基地だ。用を足そうと思えば内側に奇妙な蓋があり、寝顔を懐中電灯で照らされようが、じっと眠っていられるのだから。

　西洋風に言えばファム・ファタールで、日本的に言えば女郎蜘蛛のようなヒロインの狂気は、鈍感な男を鈍いまま永遠にフレームの中に幽閉し、戯れる。池そのものが彼女の子宮のメタファーであり、雨は涙雨で幾つも刺さった釣り針はヒロインの心の痛みに他ならない。ホラーホラーと口々に叫ばれるが、何かの冗談に違いない。今作は狂おしいほど大胆で、ひたすら残酷な純愛ドラマだ。

• #追悼キム・ギドク
• #1960-2020

うわあ、これはこれまで見てきたキム・ギドク監督作品の中でも、遺作「人間の時間」と並んで嫌いな人は全く受け付けることができないであろう怪作だなあ。

個人的には、やはり、監督の強い意思を感じられる作品にはどこか惹かれてしまうので最後まで見ることが出来たけれど、R-15設定であるのは、エロ描写というよりも、むしろ動物虐待や中盤以降の釣り針とかグロ描写に引っかかっているのかと・・。下手なホラー映画よりも見ていてキツい！と感じるシーン多々あり。

全編を通して一言も台詞を発さない釣り池の管理人であるヒロインを演じたソ・ジョンの存在感は圧倒的。「リトル・マーメイド」や「オンディーヌ」で描かれる純真な人魚姫や水の精霊のアンチテーゼ的なキャラクター設定は、むしろ、男を惑わす邪悪なセイレーンやローレライに近い。

鱗のごとくボディラインにピッタリと合ったタイトスカートや長い髪は湖から上がった際には、まさに人魚・・もとい、セイレーンやローレライのイメージそのもの。

彼女が偏執に近い一方的な愛情を注ぐ釣り客を演じたキム・ユソクという俳優も、なかなかの好演。でも、何故に彼が自殺願望を秘めているのかは、数秒のフラッシュバックシーンを挟んだだけではさすがに分からずストーリーを読んで初めて納得。あまりにも唐突過ぎるエンディングも含めて、キム・ギドクと言えども、さすがにこの作品は視聴者に解釈を投げっぱなしにした感も否めない。

それでも、９０分間たっぷりと監督ならではの世界観に浸れたので、個人的にはまあ満足かな。湖上の釣りハウスという設定自体どこか寓話的だし雰囲気が凄くある。

ただし、この邦題・・掴みとしては有りだけど本質的に間違っているね。

【生と死を彷徨う不思議な世界観】73点
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監督:キム・ギドク
製作国:韓国
ジャンル:ドラマ
収録時間:90分
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やっぱりキム・ギドクの作品は変わってるよ笑 合う合わないがはっきりしそうな監督です。個人的には今の所『the NET 網に囚われた男』がこの監督のベストですかね。さて今作、ジャケと邦題からして怪しい雰囲気しか出てきません。それはある程度当たってはいますが、やはり予想できない不思議な展開になっていきます。

釣り場の女管理人であるヒジンは、釣り客を浮き小屋舟に案内し、釣りをさせては体を売って生きていってる人物である。ある日、自分の浮気をする恋人を殺してしまったヒョンシクという男が現れるのだが。。

セリフは少ないし終始暗い雰囲気を保ちます。しかもエログロ要素もそれなりにあって、体を売るということからそれなりのことはしますし、排泄シーンもカットせずにこの監督は撮ってしまっています。また、誰もが目を覆いたくなるルアーのシーンでは、ヴェネツィア国際映画祭で失神者がでたほどで中々の問題作であります。
自殺を試みている男と、行く末がわからず途方にくれている女。最初男が女を求めますが女は拒否。しかし、物語の後半になると逆の展開になってくるのです。これはなんというか生物の気まぐれの交尾と似ている感じがしました。魚と寝る女となっていますが、この女こそ魚。しかし、あるシーンを見たら男が魚であると捉えることもできそうです。

変わった映画なので印象に残りやすいものですが、伝えたいことは抽象的でやや難解。ラストのシーンも人によっては「は？」と思われるでしょう。ただ、なんとなくこの監督が伝えたいこともわからないわけでもない。先日見た『メビウス』が「性の執着」であれば、今作は「生と死の執着」を強調したものであると同時に、人間も自然界の生き物の一員であるのだということを伝えている作品なのかもしれません。

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