シンガポールが生んだ偉大なるピアニスト、現代音楽家、そしてジョン・ケージの最大の理解者の1人であり、世界で唯一なるプロトイピアニストであるマーガレット・レン・タンの足跡を辿るドキュメンタリー、とそれ以上にレン・タン先生の現代音楽入門講座との側面の方が強い非常に有能な作品。彼女が「20世紀の3C」として、演奏家とピアノそのものの可能性を無限に押し広げたとして挙げる名前がヘンリー・カウエル、ジョージ・クラム、そしてジョン・ケージ、特にケージは彼女の音楽的な師でもある訳で、彼との長年に渡る交流とその功績を熱く讃えるレン・タンの目は輝きに満ちている。他にも東洋圏の現代音楽作家、佐藤聰明、タン・ドゥンらとの接近であったり、トイピアノをおもちゃかられっきとした楽器へと進化させるべく取り組む彼女の活動に密着した十年の記録は非常に興味深いものがある。ピアノを単に白鍵と黒鍵を弾くためだけの楽器だと思っている人にこそ観て頂きたい作品、ピアノは弦楽器であり打楽器であり、そして竪琴でもあるのだ。もちろん現音好きにも、内部奏法にプリペアドピアノと自在に操る彼女の驚異的な演奏風景には圧倒されるし、トイピアノの軽く鮮やかな音色に癒される、少女性と狂気性を併せ持つ稀代の鬼才の姿に刮目せよ。ケージ本人も出てるよ。