開巻早々、女性とまぐわう1人の男性が大写しで映し出される。彼はそのまま果てることなく、未遂のまま船内からデッキへと登る。そこには船内以上に人々が密集し、寒空の中を寄り添うようにかがみ込み、小さく丸まるようにして寄り添っていた。その船の名前はケドマという船だった。今作でケドマという船は、ナチスによるホロコーストから、辛くも逃れてきた人たちを乗せている。彼らはナチスによる迫害のトラウマを抱え、1948年に遂にパレスチナの地へ上陸を果たしたユダヤ人である。これは歴史的に知られる「シオニズム」運動に起因する流れである。ユダヤ人は元来、ユダヤ教を信じる人々でキリスト教徒とは信条も心念もまったく違う教義を基にしている。彼らの中には中世の時代から相容れない部分があり、それが宗教対立として顕在化した例が最悪な事態を引き起こしたホロコーストということになる。過酷な長旅を経て、小さないかだに小分けにされ何とか上陸した一行だったが、上陸早々イギリス軍の兵士の銃撃にさらされ、その波を辛くも逃れたユダヤ人達はユダヤ人ゲリラ組織に帯同する形で、エルサレムを目指し逃げる。その過程で一組のアラブ人との遭遇が待ち構える。

　ロバを奪われ、捕虜になったアラブ人の心の叫びが我々観客に突き刺さる。彼の抵抗への思いは、もともとこの地に住んでいたアラブ人たちの思いを代弁する。しかしながらユダヤ人たちは進行を止めようとはしない。彼らは純粋にエルサレムを目指し、時には戦闘をも辞さない。そのことが更なる悲劇をもたらしてしまう。その過程で彼らは遂に大した装備もない私服のままで戦闘に駆り出される。彼らは戦闘服も着ず、私服のまま銃を持たされ、見えない敵に突撃させられる。紛争という愚かな行為にやっと上陸したばかりの民衆が駆り出され、右も左もわからない中で小銃を持ち、あっけなく殺されていく。これをアモス・ギタイは象徴的な長回しで撮っていく。半狂乱に陥った登場人物の独白がこの空間では寒々としているが、クライマックスのユダヤ人の叫びの中で思いは粛々と実行される。彼の主張は掻き消され、有耶無耶にされ無理やり荷台に乗せられる。累々と浮かぶ屍の中で彼が感じた強い憤りは十分に理解するが、我々が認識する歴史としてはそれとは真逆なベクトルに舵を切っていったと言わざるを得ない。

パレスチナ問題を描いた衝撃作

この事実に関し、いかに自分が無知で無関心であったか、痛感しました。

教科書に載っている事程度。
文字でしか知らなかった…

長回しでドキュメンタリの様に描かれる、ユダヤ人とアラブ人の関係。

終盤、各々が空に叫ぶ場面が心に突き刺さります。



1948年5月7日。

ホロコーストを生き延びたユダヤ人達が、"ケドマ号"に乗ってパレスチナへやって来る。
迫害される事のない国を作り上げる為に。

しかしそこは、先住のアラブ人と委任統治をするイギリス人、そしてエルサレムを目指すユダヤ人による内戦状態。

上陸したユダヤ人達も、その戦闘に巻き込まれ……



迫害される側から、迫害する側へ。

譲り合えない、分かり合えない彼等は、相手を排除することしか考えない。

とにかく重苦しい作品でした。

説明が一切なく、台詞も少ない為、中東情勢を知らないと、ただただ取り残されます。

たまに歌われる民謡だけが唯一の癒し。

これは、きちんと歴史を学び直してから再視聴したいなぁ…

歴史の授業で流すべき良作。

まぁタイトル通りの作品である。迫害を逃れたユダヤ人がケドマ号に乗り込みパレスチナの地に辿り着く→イギリス軍に追いやられる→現地ゲリラに半ば強制参加させられる→アラブ人を迫害する側に回る→なんでこんな事に…と悔やむ、と今日に至る争いの最初の段階に焦点を当てている。けどまぁ、これが別に面白くない。衝突が起きるのはラスト30分くらい、この作品の真髄はラスト15分に込められているが、それまでの半分くらいは固定カメラで所謂ドキュメンタリータッチの独白、ひたすら眠くてここを乗り越えるのに3日を要した。けどまぁラスト15分はしっかり主張が込められていて、ユダヤ人に課された歴史的宿命と、それがもたらした現代社会の歪みをズバリと突いていると思う。安住の地を手に入れたいだけのユダヤ人と、自分達の生活を護りたいだけのアラブ人の先の見えぬ争いの起源、流石にアラブ人目線での描かれ方になるが、流浪と迫害を宿命づけられたユダヤ人の悲しみにも向き合っている。ちなみにこの作品、中古DVDは2000円くらいするのに、新品はなぜか500円くらいで買える、けどまぁ別に買わんでもいいと思う。