名作を月替わりでお届けすると謳ってる「12ヶ月のシネマリレー」、またハズレ。どこが名作だよ。
劇中に小津の映画や本人のポスターが出てくるのはちょっと面白いけど、それだけ。

ノーベル文学賞受賞作家ペーター・ハントケの自身の同名小説の映画化。
ハントケの盟友ヴィム・ヴェンダースが製作を務め、ハントケが初監督するのを一緒に取り組んだ作品。

ヴェンダースが手伝ったのがよ〜く伝わって来た。だって小津安二郎の『東京の合唱』が劇中の映画館で使われているし、自宅の部屋には小津の大きな写真が飾られていましたから。

オープニングから好きな予感がして、ラストまで"あ〜良い映画を観れてるな〜"という、都度小さな多幸感に包まれました。


専業主婦マリアンヌ（エディット・クレバー）は夫ブルーノ（ブルーノ・ガンツ）に、突然「啓示を受けたから別れましょう」と切り出して、8歳の息子を引き取り自立して生きていこうとする物語。


身体のサイズに合ってないよね？と思う大きめの毛皮のコートを着て向かった先は、夫が出張から帰国する空港だった。
荷物を2つ受け取ると夫から抱きしめられるが、手は塞がり目は他所を向いていて白けている。この表情一つでこの作品を物語っているかのようだった。

ブルーノはそんなに嫌な男とは思えない。ちょっと気が利かないけど、そこら辺にいるつまらない夫よりマシとさえ思える。仕事も持っているし、息子を気にとめるし、そして彼なりに妻を愛している。
まぁ、それが一方通行なのが問題なんだけど。

もうマリアンヌの心はしっかり決まっていたのだ。
夫に出て行ってと言い、かつて務めていた出版社を頼り仕事を得る。
好きな人がいる訳でもないし、友人に心配もされるけど、マリアンヌは自由が出来た喜びの方が大きいのだ。

一人息子は親をよく観察している。
「その笑い方やめてよ。作り笑いだ。ママは幸せだったことがない。僕のことでずっと不幸だった。大笑いしたのはぼくが初めて泳いだときだけ」
「覚えてない」
「僕は覚えてる、覚えてる...」

こんな風ににドキッとする言葉を子供に言われ、自分の態度を初めて気付いたり、時たま元夫と会うときは他所他所しいながらも少しは余裕が持てるようになる。

女の自立、夫婦って？子育ては？
などのテーマはあるものの、この作品は実はコメディ要素がふんだんに盛り込まれている。

マリアンヌが通りを走って、ズッコケで転んだり、部屋の中で突然竹馬に乗って楽しんだり、意表を突いた笑いを誘うシーンが全面に盛り込まれているのがとても面白い。

ラスト近くではマリアンヌを心配して田舎から父親が訪ねてくる。昔話を話したり、一緒にプリクラを写したり、なんとマリアンヌのカーディガンのほつれを見つけ直してくれたりする。ユーモアも持ち合わせている。凄く穏やかで優しい人柄に自然と涙が溢れ出た。

ドイツの街中が美しくて、出来たらリマスターして欲しい。

ブルーノ・ガンツは36歳。髪もあるし、妻と出掛けてウキウキして、芝生で前転したりするチャーミングさがありました。素敵だった。

あらら？マリアンヌは別に"左利き"じゃなかった。
マイペースで頑固で迷わないって比喩なのかな？

これは面白かった。

とても好きな映画であることは分かったが、ただ何を書くべきなのかが全く分からず、彼女が街を彷徨う様に、なんだかんだと3回くらい繰り返し観てしまったのだが、結局何を書くべきなのかは分からずに前に進めずにいる。例えばアラフォーなんて言う領域にもう少しで片足を突っ込むわけで、それを迎えるにあたっての正しい焦燥や、諦観や、絶望なんてのがこの映画の中にある様な気がするのだが、勿論俺は女性では無いし、結婚もしてないし、子供もいないし、これ以上何かを失うことすら出来ないくらいに何も手に入れていない人生過ごしてしまっているので、今更何とやら…な訳だが…。ただこの映画に出てくる彼女以外の登場人物、それもいい歳こいた大人達のそれっぽい表情と言うのは身に覚えがある物だし、このはっきり言ってただの究極鬱状態の世界観の中で、ただの1人も死なずに終幕を迎えたのは残酷で奇跡の様にも思える。それこそ何度となく通り過ぎていく列車に身を投げてしまえば、向こう見ずに道路に飛び出してしまえば、二階の窓から突如人が飛び降りるとこなどまさにだし、子供達2人が徐々に相手により強いダメージを与えていく謎の遊びをしているのもなんだが意味深なのだが、ただある日突然死ぬわけでも無いなら自分で死ななければ人は死なないのであって、死なないのであれば月日は流れあれよあれよと季節は巡り歳を取るのである。そんな当たり前の事を突き付けられた気になったが、最後のあのメッセージはきっとポジティブな物と捉えた方が良いのだろう、嫌んなるくらい生きてやがる。とりあえずお子ちゃま2人がずっと良い、うんこはしっこと踊る、しっこはうんこと踊る、意味は分からないが最高のフレーズだ。後ろ向きに歩いてみたって、時計は半時計回りには回らない。