フリードキン！プドフキン！などと叫びながら行進する映画学校の学生たちの姿や、John(どのJohn?),Ghatakなどの名前が並んだアジ看板が映る数分間が最も面白かったと正直に言うと、心ある観客には眉を顰められてしまうのだろうか…。
黒か白かで分けられてしまう時代をあえてモノクロを基調に描いた青春映画。

カースト制度が壁となり会う事も叶わなくなった恋人に宛てた手紙（架空）の朗読とただそれだけであればエモで消費されてしまいそうであるがそこに現実世界の運動とそれに対する弾圧とが乗ってくる為に一気に切実さが増す。独創的な構成の中にメカス的なプライベート感溢れる幸福な瞬間な記録とそれこそグスマン的な抵抗の記録とが重なって来る。正直インドがこんな状況になっているのを知らんかったのでマジすまんと言う気になってしまったが、娯楽大作とは対極にあるシネマの形としてとても意味のある作品だと思う。

インドの女性監督パヤル・カパーリヤーの詩的なドキュメンタリー作品。
物語は、監督が卒業した、映像芸術分野の人材育成を担う「インド映画テレビ研究所（FTII）」の学生寮で発見された「L」と呼ばれる女子学生が遠く離れた恋人に宛てた架空の手紙を軸に展開します。

下層カーストに属すると思われる「L」の手紙（日記のようでもある）を読むナレーションと、白黒を基調とした8mmフィルムのアーカイブ映像、ホームビデオ、写真、CCTV録画、印象的なドローイング、複雑なサウンドデザインなどを組み合わせながら、カースト制度という根深い壁、牛を守るヒンズー教徒の自警団による集団暴行事件、学生による政府への抗議活動の弾圧など、インドの社会問題を広範に、かつ詩的に描き出す実験的なアプローチ。これぞ才能！という仕上がり。

『A Night of Knowing Nothing（何も知らない夜）』というタイトルは、撮影中に偶然見つけた学生の落書きからだそうですが、「歴史を書き換え、消去しようとする勢力が存在する。目の当たりにし、経験した時間をとどめておきたかった」という監督コメントと、「L」の最後の手紙に出てくる革命詩人Aamir Azizの「Everything will be remembered（すべては記憶される）」から、自身も含め学生時代は無知な側面もあったかもしれないが、本作に登場する暴力・弾圧・社会問題は決して消え去ることはないという思いが込められていそう。

カンヌ映画祭: Golden Eye（最優秀ドキュメンタリー映画賞）
山形国際ドキュメンタリー映画祭: ロバート&フランシス・フラハティ賞（インターナショナル・コンペティション部門大賞）
ほか