大傑作。2024年ベルリン映画祭エンカウンターズ部門選出作品。カジク・ラドワンスキ(Kazik Radwanski)長編四作目。カナダ新世代の筆頭であり開祖ともいえるワドワンスキが遂に新世代のミューズたるデラ・キャンベルと組んだのが前作『Anne at 13000 Ft』でのことだったが、5年ぶりの新作となる本作品では彼女に加えて同じ新世代の筆頭監督で一番の出世頭であるマット・ジョンソンまで登場するという豪華仕様となっている。しかも、マット・ジョンソンはアメリカで活動する売れっ子作家マット・ジョンソン役で登場するのだ。演技に関しても愛すべき人誑しというあまりにもマット・ジョンソンすぎるので、この強烈な存在をどうやってラドワンスキ的な繊細な世界観へと料理するのかと思ったら、やはりそれが出来るのはデラ・キャンベルしかいないのである。物語は大学でクリエイティブ・ライティングを教えるマーラの下に、学生時代の恋人マットが帰って来るところから始まる。二人の間の失われた恋が再燃…することはないが、どれだけ時間が経っても互いのリズムを忘れていない二人はすぐに話が弾んで止まらなくなる。序盤のカフェでの会話シーンでは、マーラの繊細さや頑固さ、マットの調子の良さや人当たりの良さが、小気味のいいリズムであっという間に提示されるのがやはり上手い。マーラには実験音楽家の夫サミールとの間にエイブリーという幼い娘もいて、結婚生活も講師としての生活も文句はないのだが、どこか刺激のない毎日を送っていた。しかも、彼女はそもそも音楽があまり好きではないので、夫の仕事に関しては彼やそのバンドメンバーの感情を共有することが出来ない。一方で、同じ物書きであり成功しているマットとは、話は合うけど衝突も多めで…という対比も興味深い。映像としてもサミールとの関係は静的に、マットとの関係は動的に撮られていることが多く、サミールと動的な関係を結ぶ瞬間(ランニング)、及びマットと静的な関係を結びかける瞬間(自宅への招待)にマーラはその場から逃げ出している。マーラの友人が真顔で忠告する通り、マットとは違う波長、サミールとは同じ波長という感じで、短期間ならマットの違う波長を楽しめるとは思うけど、長期間ならサミールといた方がマーラにとっては健康的かなぁと思いつつ、衝突しつつも自分の全てを曝け出せそうなマットとの生活も疲れるけど充実してそうっちゃしてそうだよな。