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海辺の一日
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『海辺の一日』に投稿された感想・評価

海
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エドワード・ヤンがあやつる時間の波に身をゆだねていると、わたしはわたしの持つ最も古い記憶のもとまで戻って、そのまま、名前もかおも知らないだれかの中にはいっていきそうになる。たった一時間や二時間で、はじめて会ったあなたの、悲しみのいちばん深いところに触れる。あなたの声や表情や仕草がわたしをつれていく。あなたの手がわたしの手を引いてゆく。悲しい女ばかりを見てきた。光に照らされる幼い子を、ながめて微笑んでいるときも、薄暗い部屋の中で、テレビを見ながら眠くなるのを待っているときも、悲しげで、疲れていて、孤独な女性ばかりを見てきた。彼女たちは死を知っていて、憎しみを知っていて、怒りを知っていて、深すぎる愛を知っていた。そういうときの母を見るとき、わたしはいつも、泣き出したいほどの不安に駆られた。だから母が、次の日の朝に、いつもどおり顔を見せて「おはよう」と言ってくれるのが、夢みたいに感じた。ずっとそれが世界だった。生きてて、悲しんでて、泣くように微笑んでて、どんなに傷ついても何かのために怒ってて、楽には生きていけないひとが、わたしにとっての世界だった。明日、死ぬかもしれないひとだけが、わたしの世界だった。雨がわたしたちのはだかの手を洗って、陽がわたしたちを砂のようにやわく戻す。月がみてる、わたしがあなたをみているように。風がきてる、わたしがあなたをさわったように。天国がもしも本当にあったら、そこではじめて見るものは、きっと海だとおもう。
長年、劇場で観られる日を夢みてましたがよようやく観てきました。最初に本作を知ったのは欲望の翼が日本で公開された年だから1992年で34年越しとは!なんとも権利関係はむずかしいものです。エドワード・ヤン監督初の長編にして個人的にはベストです。

制作は1983年の台湾戒厳令解除前の4年前の作品にして、監督エドワード・ヤン×撮影クリストファー・ドイルで侯孝賢監督が写真のみ出演でなんとまぁすごいこと!作品としては回想シーン(下に少し纏めました。)をとんでもなく重ねてきますが、完璧主義のエドワード・ヤン監督ですので、初回作品ならではストーリーは丁寧すぎるくらいわかりやすく作品内に散りばめてくれています。回想を丁寧にみていけば、本作がほろ苦いながらも美しいアート作品と気ががつくと思います。

ストーリーだけでなく、エドワード・ヤン監督の演出はすさまじく、家族の呪縛から始まり、ディスコミュニケーションの象徴の電話、繋がりを示す写真、ピアノ、鳥籠、割れ物、生け花、解剖書、鏡、夜の闇と室内照明の対比、近代的な高層ビルと日本家屋の対比などモチーフの使い方は匠といっていいかもしれません。後の
「恐怖分子」、「台北ストーリー」、「独立時代」
、「カップルズ」に至るまでのモチーフがここにありました。最初の作品なだけに家族作品として呪力が強く、現在から過去にかけての5層構造はという領域展開はすごすぎました。(呪術廻戦ネタですみません)
おまけに実家や夫というすべての呪縛を自らの力で祓い落としている点で呪術廻戦ネタも完結します。

撮影のクリストファー・ドイルの撮影が夜景、海、コンサート、暴走シーン、至る所の室内の逆光シーンまで美しすぎました。

本作は現在から過去の年代の5層構造の中で現在シーンから回想させ、そこに回想させ、更に回想させ、そこに回想させるという……現在大人である主人公が子供のシーンに行き着くという4段重ねとなっているようにみえました。(レビュー見た方で5段目を見た方教えてください!) 「インセプション」など異世界を含めて階層を重ねる作品はありますが、異世界ではないマトリョーシカ状態の作品は稀にみる作品だったのでは無いでしょうか。

個人的には最初に書いたように、長年、王家衛監督の「欲望の翼」のマスターピースを探していました。プイグや村上春樹、ゴダール、トリフォー、ドゥミは公式にはありますが、本作からの影響を与えているような妄想が膨らみます。現在(第一階層)から13年前で主な舞台である1960年代(第二階層)だけでなく、鳥籠やラストシーンやモノローグ、クリストファー・ドイル印の撮影に至るまでキリがないくらいですが、真相は彼の死と共に藪の中ですね。
長編デビュー作という事だが、この時点でひたすらにペシミスティックで怖すぎる。どういう生死感してるんだこの人…撮り方は以降の作品と比べるとアップが多くて意外であるがとても面白かった。冒頭の海辺で光る瓶のショットが忘れられない。

兄貴が死ぬ場面で冷たいであろうベッドの枠を手で触っていくのが妙に良い。
妹が母に連れられて散歩から帰ってくると床に倒れ込む兄貴と割れた食器がぬるーっとカメラ移動で写り込むあのショットも忘れられない。

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