ジョセフ・ロージー監督が描く「中年の危機」。脚本家ハロルド・ピンターとの協業二作目。

前作『召使』（1963年）があまりにも傑作だったため、ちょっと肩透かしをくらってしまったのは否めません。撮影監督が天才ダグラス・スローカムから秀才ジェリー・フィッシャーに代わってしまったのも大きいのかも。ジョセフ・ロージー監督とは長い付き合いになるのですが、これが初めてだから仕方ないのかも。

英語の原題はアクシデント。つまり、事故。では、なぜ邦題が『できごと』なのか？それは、冒頭の交通事故だけではないから。「中年の危機」に起きた様々な「できごと」を描いた映画なんだと思います。

ただ、テーマ、ストーリー、キャラクター造形全てにおいて前作『召使』に及ばないのが残念。撮影技法に至っては足元にも及びません。ハロルド・ピンターの脚本らしい悪意はビシビシ感じるんですけどね。

オックスフォード大学の哲学教授スティーブンの生徒のオーストラリアからの留学生アンナとその恋人になっていくウィリアム。何かとアンナが気になりウィリアムを口実に自宅に招いたりするが、実は同僚のチャーリーとアンナは情事を重ねていた。しかし彼を怒る気にはならなかった。彼の若さへの執着はただ空しく響いていたからだ。アンナはウィリアムと婚約するが、できごとにより二人は引き離される。

できごとは冒頭から語られ、そこに行くまでの過程をストーリーは追っていく形になる。冒頭から立派な邸宅を固定カメラで捉え、できごとの音、馬、足音、月を美しく描写する。そこから回想する形で出会いから語られていく。時計の音だったり、会話の中に上回る生活音、ロマンティックな音楽や、音の切り替えを心情の変化に使ったり、音を巧みに操り、いやなナイフとフォークのぶつかる音ですら、心情や不穏な空気感をしっかり描写し寄り添っている。

スティーブンの目の動きを追う。エロティックにアンナの体を横目で舐めまわし、ダメだとわかっていても彼女を追ってしまう。どうしようもないのに、若さに勝てないことを若かっていながら、欲望を持て余してしまうスティーブンの、些細な事に対する笑顔や興奮がじっとりと伝わってくる。印象的なのがボートに3人で乗ってるシーンである。スティーブンの目線はアンナにあるが、その自由な空間は前方にウィリアムの仁王立ちした足の間にしっかり収まってるのだ。ウィリアムには勝てる訳がない、むなしい中年の一瞬の夢であることを残酷にも映像で伝えてくる。その支配下がまるで逆転するように、ウィリアムの家で、キーパーを命じられたスティーブンの足の間からウィリアムが見える。しかしアッという前にそこに突撃され、その構図は崩れてしまう。

しかしアンナ対スティーブンにおいては、冒頭の先生と生徒の距離感でも、力関係を見せつけており、”できごと”の前の回想が現在に追いついた時、そこから見せるスティーブンの足の間に配置されたアンナは完全に支配されているように見える。

しかしそこから突き進むことはできない。彼には家族がいて生活がある。中年の夢物語も自らの気付きにより、元の生活に戻っていく。彼の人生のほんの些細な一瞬に起きた、欲望と悲劇も日常にかき消されるように、しかし日常は繰り返されていく様を、面白くも皮肉なタッチでラストに、冒頭と同じカットをもってくるあたりが憎い。

心情の描写が非常に繊細で、見終わって犬の存在が大きく鍵を握っていることに気づかされる。シンプルな物語でありつつ、その見せ方、画面の中で常に何かが起こってる様、見切れるところに配置されたカップルですら見逃すことができない、画面に食い入ってしまう魔力のある作品である。

オープニングのジリジリ迫るカメラが屋敷ホラー的不穏な空気を醸し出してる。ラストも含めてニクい演出である。（ホラーではないので注意）

『できごと（1967年）ジョセフ・ロージー』

ここにもダーク氏が出てくるせいか、どことなくヴィスコンティ作品っぽく見えてくるのだが、〝貴族ワールド全開〟じゃない分、こっちのがとっつきやすいかも知れない。意味深なカット割りからは、ほんのりニコラス・ローグ臭が漂ってきた。

おっちゃん2人と若い男女。男たちの視線は一点に集中。この駒が揃った時点でゲームは始まっているのである。。

この後、続けて「エヴァの匂い」も観てるのだが、スタンリー・ベイカーがこの2作合わせてかなりキモい。

• #イギリス.
• #ジョセフロージー.
• #ダークボガード.