豚飼いの男の働く姿をただ淡々とモノクロで描くだけの衝撃作。
何も起きない日常を描くだけだが、繰り返しのルーティン、映像美が結構病み付きになる。

北関東郊外の農村を舞台に、年老いた祖母と二人で暮らす豚飼いの男が日々孤独に、黙々と豚舎で働く姿を、極限まで台詞を排したモノクロ映像で綴る異色の人間ドラマ。

栃木県大田原市を拠点に独自の映画製作活動を続ける孤高の異才渡辺紘文・渡辺雄司兄弟による映画制作集団 “大田原愚豚舎”の作品。

『叫び声』は、『そして泥船はゆく(2013)』『七日(2015)』『プールサイドマン(2016)』『地球はお祭り騒ぎ(2017)』『普 通は走り出す(2018)』に続く、渡辺紘文監督の長編劇映画第6作。 

監督の渡辺紘文が豚飼いの男として主演を務め、大田原愚豚舎作品すべてに出演している102歳の祖母・平山ミサオと共演、また渡辺紘文の実弟の映画音楽家・渡辺雄司が音楽監督を務めている。

監督の今は亡くなったというおばあちゃん愛が伝わってきた。
途中で眠くなりそうだったが、あまりの独自性に眠るのはもったいないと気づいた。

『八月の軽い豚』、『七日』、『プールサイドマン』、そして『普通は走り出す』を通過し再び口を閉ざした渡辺鉱文。おそらく『七日』を観た人からすれば「またこれかい…」なのかもしれないが俺は幸運（？）な事に観ていないので「これかっ！！！」となったし、正しく言えば本作は『八日』であり牛ではなく豚である🐷豚を育てる豚とお婆ちゃんの単調な日々、朝起きて飯を食い飯を与え再び飯を食い祖母の入れ歯を磨き文庫本に視線を落とし眠るルーティンワーク、昼のおやつは基本バナナ、雨が降れば屋内で新聞を読む晴耕雨読生活、週末はいつもの誰もいない映画館に足を伸ばしつまらない映画を観て、またつまらない一週間が始まっていく。冒頭に「伝染病注意！」の看板が出るが何が起きるわけでもない、食卓の片隅にたたずむ三ツ矢サイダーは減りもしない。強烈なコントラストに暴力的なノイズ、退屈な日々との戦いに挑む男の背中を後押しする直線的な和太鼓の鼓動、映し出される汚物にふと非常階段『蔵六の奇病』を思い出すし、たしかクリス・ワトソンの『Weather Report』とかこんな感じだった気がする。台詞以上にストーリー性を排除した反復に次ぐ反復と言う大田原愚豚舎の真骨頂炸裂の作品であり、このつまらなさこそが彼らの真髄であろう、なんせ本当に何も起きないから。一言も言葉を発さぬ主人公の代わりに豚と自然は叫び声を上げ続ける、それを通して我々は彼の内なる悲痛な叫び声に到達する事となる。

「あぁ…クソつまんねぇな…」

そんな叫び声が聞こえてくるのは俺だけか？そして再びこの身を包み込む同族嫌悪、分かっちゃいるけどやめられないってこれかもしれない、あぁヤダヤダ…人生なんて本当にクソつまんねぇし、生きてるって本当にクソめんどくせぇ…。

ザッツノイズ映画。豚の鳴き声に風の音。
音の積み重ねと反復のシーケンスの心地よさ。
祖母との食事シーンでカメラに映らぬ第三者のガサゴソという音ですら気になる。
マジで何も起こらない反復映画を土曜の午前中に観てしまったことに心地よい絶望感を覚える。
日曜の夜に観てたら精神崩壊しかねない。
劇中の「日曜」の多幸感ならぬ少幸感。幸せそうに寝そべる一頭の豚の姿が印象的。
亡くなった祖母へのレクイエム。
登壇した劇中に出てた男の子が、この映画をみて何も思わなかった。とコメントしてたのが、純粋無垢かつあまりにも正論で助かった。
渡辺紘文の特集マジで吉祥寺以外でもやってほしい。フォードvsフェラーリを蹴飛ばして豚を拝みに行くか検討せざるを得ない。


2019劇場鑑賞167本目

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