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『僕はキャプテン』に投稿された感想・評価

Omake

Omakeの感想・評価

4.5
ヨーロッパに住んでいると様々な国にルーツをもつ人々、文化や言語や宗教の違いを身近に感じるようになる。それもこれも人が移動してくるからだ。私もそんな移民の一人で、イタリアに住み着いてから長くなる。

インターネットで、世界の情報にほぼ境がなくなり、物やお金が行き来している時代でも、未だ国家の枠組みはしっかりとある。

国家という枠組みに最も縛られるのが人の移動だ。移動に制限があるという事は、それをビジネスにしたり、利用したりする人も出てくるということだ。

イタリアでは地中海の海上が穏やかになる春から秋にかけて、アフリカから漁船に乗ってやってくる難民のニュースが流れてくる。

アフリカ北部沿岸の町からは船で一昼夜の距離であるため、船に積載量ギリギリにまで人を乗せてやってくるオンボロ漁船がひきもきらない。

地中海は内海に島々が点在し、古代から海上交通が盛んな地域だ。イタリアの最南端はランペドゥーザ島でここには島の人口を超える程の難民が毎年流れ着く。財政的にも人手的にも既にとっくにキャパシティをオーバーしているのでなんとかしなければいけないのだが根本的な解決策はない。つい先日もイタリア首相が欧州委員会委員長のフォン・デア・ライエン氏を島に招いて視察をしたことがニュースとなっていた。

陸続きであれば壁を巡らせれば国境管理ができるかもしれないが、海ではそうはいかない。海上で遭難した人がいた場合、近くの船には人命を救助する義務が生じるのだ。特にイタリアはカトリックの国でもあるため人道的見地から人命救助を優先する考えが支配的だ。この辺りは欧州国間でも温度差はある。
いずれにしても今までヨーロッパ側の事情でしか物事を見ていなかった。


前置きが長くなりましたが、この作品は、16才のセネガル人少年の視点から語られるヨーロッパを目指す旅の物語です。

なぜヨーロッパに向かうのか、どんな生活があり、何を夢見ているのか、そして実際の旅はどうなのか。

実話というわけではないけれど、多くのアフリカ人が辿った旅の様子を元にしているので、ここで描かれている事は実際に起こっていることに近いと思われます。

中には酷い話や恐ろしい表現も多々ありますが、作者のマッテオ・ガローネが語ったように、ホメロス的なお伽話、という事で、様々な障害に見舞われながらの冒険譚になっています。

見終わった時には、彼らと一緒に困難な旅を終えたような気持ちになります。




もちろん、その先のことはまた別の話になるわけですが。。ともあれ、少年に幸あれ
イタリア版BD。24-34。フランス語・ウォロフ語のオリジナル言語、イタリア語字幕で鑑賞。

ラストで落涙。現代のオデュセイア。多くの語りを聞いて、それを語り直すこと。口承文学が文学の起点であり、オーラルヒストリーが歴史をラディカルに改変しながら原点に戻るのだとすれば、この映画はオーラルヒストリーから立ち上がる。

ここに見る冒険譚は現代の冒険譚であると同時に、ホモ:モビリタスとしてのぼくらが世界を夢見るときの夢の映像化であり、フランコ・モレッティをもじっていうなら「チネマ・モンド」なのかもしれない...

2/7
一夜明けた。いい天気だ。

BDを再び手に取る。ディスクには特典映像がない。けれども美しい写真付きの冊子「プロダクション日誌」が入っている。その4章「砂嵐」(capitolo 4 TEMPESTA ) に村上春樹の『海辺のカフカ』(2002年)が引用されている。見てみよう。

~~~~~~~~~~~~~~
ある場合には運命っていうのは、絶えまなく進行方向を変える局地的な砂嵐に似ている。君はそれを避けようと足どりを変える。そうすると、嵐も君にあわせるように足どりを変える。君はもう一度足どりを変える。すると嵐もまた同じように足どりを変える。何度でも何度でも、まるで夜明け前に死神と踊る不吉なダンスみたいに、それが繰りかえされる。なぜかといえば、その嵐はどこか遠くからやってきた無関係ななにかじゃないからだ。そいつはつまり、君自身のことなんだ。君の中にあるなにかなんだ。だから君にできることといえば、あきらめてその嵐の中にまっすぐ足を踏みいれ、砂が入らないように目と耳をしっかりふさぎ、一歩一歩とおり抜けていくことだけだ。そこにはおそらく太陽もなく、月もなく、方向もなく、あるばあいにはまっとうな時間さえない。そこには骨をくだいたような白く細かい砂が空高く舞っているだけだ。そういう砂嵐を想像するんだ。(新潮文庫上巻 p.10)
~~~~~~~~~~~~~~

「夜明け前に死神と踊る不吉なダンスみたいに」(come una danza sinistra con il dio della morte prima dell'alba)足取りを変える砂嵐。ぼくらは、ガッローネの映像にそんな「不吉なダンス」を見る。たしかに運命なのだろう。自分とは関係なく、別の場所からやってくる災いではなく、自分の中にある運命。だから「死に神」なのだ。

そんな運命を念頭におくからこそ、ガッローネは経済的な困窮や戦争などで住む場所を追われる難民を描かない。そういう移民もいる。けれども、ガッローネが選んだセイドゥー(Seydou)とモウッサ(Moussa)のふたりは、セネガルの比較的平和な暮らしを捨て、ヨーロッパを目指す。あたかもイタリア人や日本人が豊かなアメリカにあこがれるように、このセネガルの若者は自分たちのことを「ヨーロッパが待っている」と思うのだ。

なにしろかれらはスマホを持っている。それは世界へ開かれた窓だ。その窓の向こうがに、自分たちが立っている姿を想像する。そして、その場所へ激しく惹かれることになる。それもグローバリズムなのだ。

この視点が、これまでの移民の映画を転倒させる。ヨーロッパにやってくる移民を、ヨーロッパから見つめる視点は、いくつもの移民映画を作り上げてきた。それが移民映画というジャンルを作ってきたのではないか、とガッローネは言う。自分が撮りたいのは違う。自分自身にも正直でありながら、現実にも忠実なものが撮りたい、そう思ったというのだ。

それは危険な企てだ。どうやってヨーロッパ文化にどっぷり浸かったイタリア人ガッローネが、アフリカの大地からやってくる移民たちの視点に立つことができるのか。どうやって彼らに寄り添うことができるのか。知らない言葉を話す者たちの気持ちをどうやって描くのか。一番危険なことは、わかったようなふりをして、こちらが描きたいものを押し付けること。わからないものを、わからないままに描くことは、どうすれば可能なのか。

ガッローネには経験がある。その初期の作品『Terra di mezzo』はローマの街の移民たちを追うセミ・ドキュメンタリーとして、ローマ郊外で娼婦をするナイジェリアの娼婦たち、アルバニアから来た少年たち、そしてエジプトからの移民に寄り添い、その姿をカメラをおさめている。

その名を世界的にした『ゴモラ』(2008)でナポリの人々に寄り添うのだが、彼らだってガッローネにとっては「わかったふりをすることができない」人々だったはず。その前の『Primo amore』(2004)の細身の女性への妄執的な偏愛に生きる金細工師にしてもしかり、『リアリティ』(2012)にはナポリのカモッラの一員で殺事件に巻き込まれ終身刑の囚人アニエッロ・アレーナとの出会いがある。

『Primo amore』(2004)短評
https://hgkmsn.hatenablog.com/entry/2023/03/26/160203

『リアリティ』(2012)について
https://hgkmsn.hatenablog.com/entry/2015/01/16/005044

ガッローネに、そうした「わかることのできない人々」への眼差しが通底しているとすれば、そうした人々の運命を見つめることで、ガッローネ自身もまた、その運命に巻き込まれてゆく。それが、彼のが言うところの自分自身に正直でありたいという気持ちなのだろう。

だからガッローネの作品には人間が写っている。それはチネマ・アントロポモルフィコ(@ヴィスコンティ)として、ぼくたち観客をも「わかることのできない人々」の運命に巻き込んでゆく。なるほど。だから村上春樹なのかもしれない。上のプロダクション日誌には、さらにこんな引用が続いている。

~~~~~~~~~~~~~~
そしてもちろん、君はじっさいにそいつをくぐり抜けることになる。そのはげしい砂嵐を。形而上的で象徴的な砂嵐を。でも形而上的であり徴的でありながら、同時にそいつは千の剃刀のようにするどく生身を切り裂くんだ。何人もの人たちがそこで血を流し、君自身もまた血を流すだろう。温かくて赤い血だ。君は両手にその血を受けるだろう。それは君の血であり、ほかの人たちの血でもある。そしてその砂嵐が終わったとき、どうやって自分がそいつをくぐり抜けて生きのびることができたのか、君にはよく理解できないはずだ。いやほんとうにそいつが去ってしまったのかどうかもたしかじゃないはずだ。でもひとつだけはつきりしていることがある。その嵐から出てきた君は、そこに足を踏みいれたときの君じゃないっていうことだ。そう、それが砂嵐というものの意味なんだ。(新潮文庫上巻 p.12)
~~~~~~~~~~~~~~

何が起こったのかわからないけれど、ぼくらはそこに巻き込まれ、いつのまにか前とは違う場所に出ている。それを中動態的な経験と言うならば、ガッローネの「Io capitano」でぼくは、まさにそんな経験をしたのだと思う。

追記 2023
忘れないうちに。ネタバレありますよ、注意。

- ガッローネは「Io capitano」と叫ぶあのラストシーンから映画を出発させたのだという。

- セイドゥーのような未成年が船の舵を握らされた背景には、違法移民業者(scafista)を取り締まる罰則強化がある。だからこそ、罰則が軽く済む未成年であり、なおかつ誰もやりたがらない「船長」(capitano)をやらないかと、金のない彼にもちかけられたというわけだ。

もちろん、セイドゥーはそんな取り締まり法があることを知らない。知らずに、目的を達成したことを喜ぶ叫びは、同時に、その後収監される運命を告知する叫びでもあるというわけだ。

- 現在では厳罰化はさらに強化されたというけれど、そんな法律では移民問題は解決されないことは明らか。

詳しくは、この記事などを参照:

1)映画について
https://www.internazionale.it/essenziale/notizie/annalisa-camilli/2023/09/06/io-capitano-film-garrone

2)移民業者(scafista)について
https://www.internazionale.it/essenziale/notizie/annalisa-camilli/2023/03/17/scafisti-italia
壮絶な、現代の奴隷船。しかし命の保証がゼロかつ「自己責任」の世界なので奴隷船より酷そう。イタリアに向かう移民船が沈没するニュースなんて定期的に耳にするが、船場に行き着くまでの時点でこんなことがあるのかと目撃する時私たちの「不法移民」への目線も変わるのでは。社会派だけどどこか清々しさもあるロードムービー。でも突然のファンタジーパートは賛否が分かれそう。もっとリアリズムに振り切っても良かったのでは?

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