[ベルギー、アダムのための抵抗はアダムのためになるのか]　70点

ローラ・ワンデル長編二作目。子供たちの残酷な世界をダルデンヌ的な追い回しで描いた傑作『Playground / 校庭』から4年が経ち、今回はカンヌ映画祭の批評家週間のオープニング上映作品に選出された(前作は"ある視点"だった)。そして、本作品にはなんとダルデンヌ兄弟がプロデューサーとして参加している。本作品も前作と同様、子供に関係のある閉鎖空間として小児科病棟を扱っているが、視点人物はそこで働く主任看護師のリュシーである。彼女は様々な患者のもとを忙しなく動き回り、次々と患者はやって来て、常に誰かに呼び出され、作業は中断を繰り返させられ続ける。そんな中でリュシーは、裁判所命令で入院した栄養失調で両腕骨折中のアダムという少年とその母親レベッカと出会う。レベッカはシングルマザーとして、アダムには過保護気味で、4歳になる彼に未だに離乳食を与えており、病院の出す栄養食を拒絶していた。4歳のアダムには状況が判断できず母親を求め、母親も彼を"守る"べくこれまでの手法を維持し続けるという強烈な共依存状態にあり、同じくシングルマザーのリュシーは二人を助けるべく奔走する云々。レベッカは孤独に一人息子を守る野良猫みたいで、常にシャーシャーと鳴いて周囲を威嚇しているような人物として描かれており、しかしその行動がすべて空回りして裏目に出てしまっている。貴方には助けが必要だ、というリュシーの言葉も届かない。そして本作品でも前作同様に、親子の間に"規則"が入り込み、二人を引き裂こうとしてくる。彼女は助けを必要としているが、ここは彼女を助けるための場所ではない、という矛盾がレベッカを、そしてリュシーをも苦しめる。リュシーはアダムだけを対応しているわけではなく、他の患者も対応しており、あまり時間は割かれないが彼らが提示する問題も興味深い。女性看護師を拒絶する患者の父親は男性医師を希望するが、それは現場で働くのは女性看護師たちだけで、男性医師はほとんどオフィスに引きこもって指示だけ出していることが分かる。移民の患者も多く、患者として来ている子供たちにはフランス語が通じても、付き添いできている親には言葉が通じない。彼らの場合は患者である子供たちと同様に、親たちにも支援が必要なことが示唆されている。アダムの挿話も含めて、ケアの必要な人に適切なタイミングで適切なケアが届けられるか、という一貫したテーマがあり、不必要に悲観的にもならない現実を直視した目線が力強い。ただ、前作で言う教師が視点人物になったような感じなので、息の詰まるような閉塞感までは感じられず、題材と手法もちゃんとマッチしているウェルメイドだけど突出した部分もない映画という印象。カトリーヌ・コルシニ『分裂』の記事で看護師のお仕事映画にしたらいいのにと書いた覚えがあるけど、実践するとこんな感じなのかな。ベルギー映画なので共同親権の話も出てきたが、今年のベルリン映画祭で共同親権を扱ったベルギー映画Arnaud Dufeys＆Charlotte Devillers『We Believe You』で暴力的な父親を演じたLaurent Capellutoが本作品にも登場。レベッカを迷惑そうに扱う男性医師？か看護師役でした。

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