川の流れは長い時間をかけて岩をも削る・・・的な？

「気が遠くなる程の日常の反復によってのみ辿り着ける境地や変化の訪れがある」っていうのは作品の放つメッセージとしてはかなり崇高だと思うんですが、それをそのまま見せてオモロイのかっつったら・・・それは別な話なわけで。

でも心意気みたいなものは買いたいのよね。凄く。

うーんコメントするのが難しい作品。
あえてストーリーは伏せます。

今までに観た当監督の作品は全て会話劇だったのですが、本作については台詞がほとんどありません。

頭の数分で「いったい何が起きたのか？」と想像を掻き立てられますが、カタルシスを得られることはありません。それはこの映画に必要のないものなのかもしれません。

繰り返しているようにみえる日常。でもよく観ると繰り返しているのではなく、少しずつ変化しています。そしてそこには「愛の予感」が。

「起承転結」の「承」のみが描かれている様な作品なので、観る人によっては非常につまらない作品かもしれませんし、非常に深い作品に映るかもしれません。

個人的な感想は…やっぱり「難しい」…ですかね。

まずですね…たとえ謝罪することが目的だとしても、殺人事件の加害者の母親と被害者の父親が事件後同じ環境で働いてるなんて現実ではとてもあり得ない。ましてや男と女として惹かれ合うとか絶対にあるはずがない。それらの点については極めて映画的な設定としか言いようがなく、その大きなツッコミどころに目を瞑れるかどうかってところで評価は大きく変わってくると思う。

非日常的な悲劇が起こった後の無機質な日常。本作ではその機械的、作業的な日常描写が嫌というほどに延々と繰り返される。けれどもそのミニマルな描写は実際にこういう境遇にいる人たちにとってはある意味ものすごくリアルなものであるかもしれない。

しかし変わらないようでいてじつは少しずつ変化していってる日常と心情。これもリアルだ。
寮の食堂で卵かけごはんと味噌汁以外口にしなかった男が、いつしかその他のおかずも全部平らげるようになる。今までお昼にサンドイッチ1個しか食べてなかった女が2つ買うようになる…些細な変化だが無意識的に生を取り戻していくこういうところにこそこの作品の醍醐味はあるのだと思う。

そして最初と最後以外セリフを排除した演出だからこそ、観る側がこの2人の心情をおもんばかることができるのであって、そういう意味ではこの反復的な映像表現は結果として非常に効果的といえるのかも。

「愛することだけが生きること」
「愛することだけで人は生きていける」