作品そのものがまるで魔術書のように、摩訶不思議な世界に囚われてしまう、ピーター グリーナウェイだからこそ作り出せる世界観。
テンペストを書くプロスペローと、本にかけられた魔力によって孤島の支配者となったプロスペローの時間が交差する。
ピーター グリーナウェイと言えば、この後に監督をしたジュリア オーモンドとレイフ ファインズを起用したとんでもないエログロ作品「ベイビー オブ マコン」をかなり若い時観てトラウマになったのだけど、こちらの作品はあちらよりはエログロ部分は控えめ。
まるでヒエロニムス ボスやブリューゲルの絵画のような、シュールかつ美しい映像が印象的。
異彩を放つ島の妖精たちの出で立ちや踊りには独特のセンスを感じずにはいられないがこの一つ一つにWHYを突きつけていくと、ストーリーに追いつけなくなってしまうので、ここははじめから感覚で体に染み込ませていこう。深く考えようとせず、台詞をありのまま受け取って、映像もありのまま受け入れて。
グリーナウェイの作り出す映像芸術は、まるで
「これ、本当に食べれるの？」っていう奇妙なお菓子のようなもので、でも食べてるうちに変てこな味なんだけどその味がクセになって、食べた後は不思議な満足感で満たされてしまう。
きっとこの人には見せたい映像が沢山あって、それが伝えきれないで地団駄踏んでいるのかもしれない、、そう思う。
万人には勧められないけど、
摩訶不思議
奇想天外
エログロナンセンス
シェイクスピア
神話
なんていうキーワードに引っかかったら是非是非お試しを。

3月2日よりシアター・イメージフォーラム他で開催予定の名匠「ピーター・グリーナウェイ レトロスペクティヴ　美を患った魔術師」の特集で上映される『プロスペローの本』をご紹介。

これ以上ないというほどの豪華絢爛、摩訶不思議な『テンペスト』。

イギリスを代表するシェイクスピア俳優ジョン・ギールグッド。このギールグッドの当たり役が『テンペスト』のプロスペローで、ピーター・グリーナウェイがそのギールグッドのプロスペローを映画にして永遠に残そうと、本作を製作したとのこと。

ともかく、最初から最後まで、豪華絢爛。西洋絵画から抜け出してきたような、全裸の男女と豪華なセット。

どのシーンにもこの全裸の男女が踊っているが、その数おそらく100人以上。どれだけダンサーやエキストラを雇ったのだろう？

全裸と言っても胸だけというわけではなく、男女とも性器まであらわ。どこを取っても乳房と性器。毎度のこととは言え、ピーターグリーナウェイ作品に出るなら、俳優は全裸になることは覚悟しておかなけりゃならないらしい。

本作の特徴は、プロスペローの台詞だけではなく、全ての台詞をジョン・ギールグッドがナレーションのように読んでいること。実はこれがわかりにくくしているのだが、グリーナウェイが敬意を表してということらしい。他のキャストの台詞の時は、そのキャストとギールグッドの声がダブって聞こえる。

また、原作にはなかった「24冊の魔法の本」という設定が加えられ、よりファンタジー色の強い映像となっている。

弟に裏切られ、ミラノを追われた元ミラノ大公プロスペローが、24冊の魔法の本の力で、復讐を果たそうとするグリーナウェイ版『プロスペローの本』。

豪華過ぎるセット、原色、全裸のダンサー、全裸のエキストラ、ずっと絵画の中にいるような癖になる映像美！これはカルトなファンにはたまらない作品だろうなぁ。

『プロスペローの本』は3月2日以降、HDリマスター版にて上映予定です。

2020年６月７日
『プロスペローの本』　1991年ｲｷﾞﾘｽ・ﾌﾗﾝｽ制作
監督、ピーター・グリーナウェイ。

１７世紀。
ミラノ大公プロスペロー（ジョン・ギールグッド）は、
実弟アントーニオとナポリ王アロンゾーから追放される。
娘ミランダと共に離れ孤島に漂着する。
その島で譲り受けた魔法の本24冊を読み、
プロスペローは絶対な力を手に入れる。
それから１２年後、魔法の力によってプロスペローは
孤島に王国を築いていた。
更にプロスペローは復讐を実施し、アントーニオや
アロンゾーらが乗った船が転覆するように、嵐を起こす。


1612年に発表したシェイクスピアの劇「テンペスト」が
元になっている映画。
テーマは復讐、そして和解。

復讐とは、一般にひどい仕打ちを受けたものが相手に
対して行うやり返す攻撃行動の総称と辞書にある。
復讐された側が復讐した側に再復讐すると報復が繰り
返されやすく、長期全面紛争に発展することがあるという。
昨日見た映画『シティ・オブ・ゴッド』のバスの車掌だった
マネがそう。家族を殺された恨みからギャングの仲間に
なり、敵の一味を殺したが、以前に父を殺された息子から
マネは射殺される。

復讐を考えるよりも、追放された、左遷された…時の
その根拠となるものは何か？
相手だけが悪いのか？　自分に非はないか？

プロスペローの場合、追放されたのは、プロスペローが
本ばかりを読んでいて王国の政務をしていない、弟が
代わりに王国の執務を執り行っていたという。
王なのに、やるべきことをせず本ばかり読んでいた
プロスペローはまるで悪くない？
だからと言って、追放しなくても良さそうにも思う。
それ以前に、話し合い、こうして欲しい希望を相手に
言うべきだ。

ところでこの映画、王や家臣が来ている服の襟巻トカゲの
ような襞襟（ひだえり）が凄い。
昔は衣服を頻繁に洗濯しなかった為に、一番汚れやすい
袖口や襟はそこだけ洗えるように取り外していたという
実用性からの襞襟だったが、次第にその大きさや仕上げの
精巧さが競われ、蛇腹状の円盤が首を覆う大きな物になった
という。映画で着用している襞襟は凄く大きくて驚いた。
襞襟を取り外す場面もあったね。

映画は、人間のみ服着用。
裸は妖精や精霊。
演劇の舞台のような雰囲気。実験的舞台映画のよう。
プロスペローの魔法により、精霊が舞う、妖精が用を
こなす世界。