『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』 原題I, Tonya.
映倫区分PG12.
製作年2017年。上映時間120分。

米国人のフィギュアスケート女子選手として初めてトリプルアクセルに成功し、1992年アルベールビル、94年リレハンメルと2度の冬季五輪にも出場したトーニャ・ハーディングのスキャンダラスな半生をマーゴット・ロビー主演で描いた米国産ドラマ。
プロデューサーも兼ねるロビーは、スケートシーンにも挑戦。
母親役のアリソン・ジャネイが第90回アカデミー賞の助演女優賞を受賞したそうです。

貧しい家庭で厳しく育てられたトーニャは、努力と才能でフィギュアスケーターとして全米のトップ選手への上り詰めていく。
92年アルベールビル五輪に続き、94年のリレハンメル五輪にも出場するが、92年に元夫のジェフ・ギルーリーが、トーニャのライバル選手を襲撃して負傷させた『ナンシー・ケリガン襲撃事件』を引き起こしたことから、トーニャのスケーター人生の転落は始まっていた。

トーニャ・ハーディングは米国で最も名を知られたフィギュアスケーター。
選手としての彼女を知らない人はいても、スキャンダルの主人公としての彼女を知らない人はいないって云っても過言じゃないかな。
こと米国に限らず、トーニャ・ハーディングは、史上最も悪名の高いスポーツ選手のひとりかな。
今作品は、題名どおり彼女の半生を描く芯に据えられたのは、 もちろんあの『ナンシー・ケリガン襲撃事件』って呼ばれるもので、全米選手権を翌日に控えた1994年1月 6日、前年の王者ケリガンは何者かに警棒で殴られ、膝上3センチの箇所に打撲傷を負った。
警棒はいたい、小生も警棒でどつかれて胸骨を二本折ったことがあり、未だにいたい時がある。
ほどなくして犯人は、ハーディングの前夫ジェフ・ギルーリーに近い人物だとわかる。
ケリガンと五輪出場権を争い､離婚したあともジェフと親しくしていたハーディングは、必然的に事件への関与を疑われる。
同年2月、ケリガンとバーディングはともにリレハンメル五輪に出場した。
まあ、ここまでは小生も知っていた。なら、実情はどうだないやったんか。事件が起こる前、トーニャ・ハーディングはどんな人生を送ってきたんか。
今作品はまず、トーニャのモンスター級の母ちゃんラヴォナ(アリソン・ジャニー)の姿を画面に叩きつける。 肩にインコを止まらせ、鼻から酸素を吸入している現在のラヴォナは異様な印象。
そんな彼女は、1970年代中盤、たばこの煙と四文字言葉を吐きつづけながら、4歳のトーニャをプロのコーチに押しつけている。
娘にスケートの素質があったからだが、愛情から出た行動じゃなさそう。ほんで、トーニャ(マーゴット・ロビー)は伸びる素質があったんやろな。
15歳でスケートアメリカの2位に入り、1989年、9年と同大会を制覇する。
9年の全米選手権でも優勝。
このとき彼女は、米国女子選手として初めて、トリプルアクセルを公式大会で成功させている(世界初の成功者は伊藤みどり)。
ただその前に、トーニャには虫がつく。
15歳のとき出会ったジェフ・ギルーリー (セバスチャン・スタン)ちゅうボンクラ野郎にのぼせ上がり、セックスとDVの悪循環に溺れちまう。
母ちゃんは辛辣な眼を向けるが、わが身を振り返ると制止できない。
忠告するのがやっとだのほど。
結局、ふたりは結婚するんやけど、トー ニャのサンドバッグ状態は変わらへん。
幼いころは母ちゃんに殴られ、長じては好きな野郎に殴られる。
負の連鎖に近いこのいびつな人生を、映画は克明に追ってた。
行き着く先はあの襲撃事件やけど、そこへ至るまでにも、『レッドネック (田舎者)』や『ホワイト・トラッシュ(白人のクズ)』という単語が頻出する。
なにしろ、トーニャの周囲に群れる男女の一団は、並外れ粗野で低俗で無能で強欲やし。
そんな彼らが、知性のかけらもない愚行の限りを尽くす姿は、もはや喜劇に近い。
トーニャ自身も、粗野で面倒なビッチに近い存在やったけど、彼女には犠牲者の匂いがうのは、持って生まれた才能と愛嬌があったさかいやろな。
もしあのころ、少しでも異なった環境に置かれていたら、彼女は、ブルーカラー特有の率直さを武器に、みんなのメダリストとして愛されたかもしれないなんて考えた作品でした。

【実話に基づく傑作映画たち】
　～事実は小説より奇なり

◆ベースとなった史実
〈五輪代表選考を巡るスキャンダル〉
　　～ライバル選手の襲撃 / 1994年
・場所: アメリカ/オレゴン州
・人物: トーニャ・ハーディング

〈見処〉
①記憶に残る「史上最大のスキャンダル」
・『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』は、ブラックコメディ調に描かれた2017年制作の伝記映画。
・舞台は1990年代のアメリカ。1991年の全米フィギュアスケート選手権にて、トーニャ・ハーディング(マーゴット・ロビー)はアメリカ人として史上初めてトリプルアクセルに成功。トーニャの名前と共にこの偉業は後世に語り継がれていくはずだった。
・しかし、1994年に事態は暗転。リレハンメル五輪の選考会となる全米フィギュアスケート選手権で、トーニャはライバルのナンシー・ケリガンを襲撃して出場不能に追い込んだのである。この事件によって、トーニャの業績を正当に評価することが困難になってしまった。
・悪戦苦闘しながらもキャリアを積み重ねていたトーニャが何故このような愚行に至ったのか。その影には幼少時からトーニャに言葉の暴力を振るってきた母親、ラヴォナと元夫のジェフ・ギルーリーの存在があった…(wikipediaより抜粋)。
・本作は、1992年アルベールビル、94年リレハンメルと2度の冬季五輪に出場するも、
元夫のジェフ・ギルーリーが、トーニャのライバルに対する「ナンシー・ケリガン襲撃事件」を起こし「世界でクリントン大統領の次に有名人」と揶揄されたスキャンダルな半生を描いている。
・本事件は、日本でも連日ワイドショーを賑わせていたことを多くの人が記憶しているはずだ。

②美しくないマーゴット
・本作ではプロデューサーを兼務したマーゴット・ロビーにとって、トーニャ・ハーディングを演じることは彼女のキャリアでは最大の挑戦。
・アイスホッケーチームに所属していた経験はあったマーゴットであったが、自身の結婚式の前日も含め、撮影に入る4カ月前から週5回、1日4時間スケートの猛特訓を敢行。本作のスケーティングのシーンにはプロスケーターによるボディダブルとCGも使用されているが、多くの場面ではマーゴット自身がスケーティングを行っている。
・オーストラリア出身のマーゴットがスケーティング以上に苦しめたのは、トーニャによるアメリカ北⻄部なまりの英語と、特徴のある笑い方だったそうだ。
・ブラックコメディとしてトーニャを野暮な人間として描いた本作では、ハリウッドのトップ女優であるマーゴット・ロビーに一秒たりとも美しさを感じないのは、彼女の演技力による賜物だろう。

③結び…本作の見処は？
○: 本人に成りきった俳優たちによるドキュメンタリー調のインタビューパートと、観客に語りかける「第四の壁の破壊」を用いたドラマパートを巧みに織り混ぜた演出がユニークである。
○: 本作の主要人物はクズ人間ばかりであるが、キャスティングが素晴らしく、エンドロールに登場する実在の人物にクリソツ。とくに、本作にてアカデミー賞の助演女優賞を受賞した母親役のアリソン・ジャネイと、本作にて脚光を浴び、『リチャード・ジュエル』主演に抜擢されたポール・ウォルター・ハウザーが印象的。
▲: 実際のトーニャ・ハーディングよりも美しさを感じないマーゴット・ロビー。見たいのは、コレジャナイ感が強い作品で、勿体ない。
×: 「史上最大のスキャンダル」と掲げる割には、ストーリーは凡庸でつまらない。当時のワイドショーのほうがドロドロしていて面白かった印象がある。

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　地面に据え置かれたカメラの前で、リラックスした表情のトーニャ、その母親、別れた元夫がそれぞれのスタイルで話し始める。当然、それぞれの記憶には食い違う場面も散見される。彼らの証言に基づいて組み立てられる今作の語り口は、さながらフェイク・ドキュメンタリーのようでもある。1970年冬、トーニャ・ハーディングはアメリカ北西部のオレゴン州ポートランドで産声を上げた。だが母親の注釈では「彼女は4人目の父親との間に生まれた5番目の子供」だったという。貧しい家庭に生まれ、3歳で母親に連れられリンクに足を踏み入れた最初の場面の倒錯ぶりが凄まじい。オリビア・ニュートン＝ジョンのような70年代の典型的なブロンド美人が教える牧歌的なスケートリンクの上で、その雰囲気をぶち壊すようにトーニャの母親ラヴォナ・ゴールデン（アリソン・ジャニー）は煙草をふかしながら、ふてぶてしい表情でその場の状況を見つめている。ベージュ色3つボタンのコート、足元にはカラー・コーディネイトされたベージュ色のブーツを履いたその姿は、彼女に手を引かれ、不安そうな表情を浮かべるトーニャのお姫様のような白のミンクの帽子とはまるで対照的に映る。『JUNO/ジュノ』の養母ぶりとは真逆のアリソン・ジャニーの毒親ぶりに肝が冷える。

　1994年にリレハンメル・オリンピックの選考会で起きた「ナンシー・ケリガン襲撃事件」を元にした物語は、アメリカ人として初めて、トリプル・アクセルを成功させた稀代のヒロインを、一夜にして醜聞でダーティ・スターに変える。だが今作の描写は主人公の転落が今ひとつ胸に迫らない。学もなく貧しいいわゆる「ホワイト・トラッシュ」出身のトーニャは、幼少時から母親の歪んだ愛情に支配され、人格を歪められる。自分に寄って来る友人や恋人そのものが主人公の合わせ鏡だとすれば、今作で彼女の周りを彷徨く人物たちはトーニャのコーチのダイアンを除き、総じてバカである。冒頭、人工呼吸器を付けながら煙草をプカプカ吸い、左肩にインコをとまらせる母親の姿は、『ラースと、その彼女』で彼女を紹介すると言って、ラブ・ドールと並んで座ったラース（ライアン・ゴズリング）の姿を真っ先に想起させる。中盤以降、トーニャの証言と徐々に食い違い始める取り巻き連中の証言は滑稽というより他ない。中でも今回はトーニャのDV夫だったジェフ・ギルーリー（セバスチャン・スタン）よりも、監督はショーン・エッカート（ポール・ウォルター・ハウザー）に随分熱心な演出を施す。過去から現在までの物語に明確な日付が存在しないのに対し、ショーンの独白が始まるVHS画像には堂々と日付けが刻印され、FBIの聴取にどう答えたのかが明らかにされる。結果としてI, Tonyaという原題通りにトーニャに肉薄するはずの物語は、前半は彼女の母親に、後半はショーン・エッカートの気狂いめいた病巣に迫ることでやや焦点がぼやける。だがトリプル・アクセルはボディ・ダブルだろうが、トーニャを演じたマーゴット・ロビーの演技には惜しみない拍手を送りたい。