美しいイタリアのシチリア島を舞台に、偏見と差別が根強い時代背景で実際に起きた悲劇をベースに描いたアブノーマルロマンス。MOVIX京都で鑑賞。

「ジャッレ事件」ミステリー専門の私も観るまで知らなかった。1980年10月31日、2週間前に家から失踪した2人の若者、ジョルジオ・アガティーノ・ジャンモナ25歳とアントニオ・ガラトーラ15歳が、手を繋いだまま死体で発見され頭に銃弾も有った。村では二人の少年の事は誰もが知っていた。ジョルジオは16歳の時に別の若者と一緒に警察に捕まり、同性愛を公言。犯人は甥のフランチェスコと思われたが当時13歳で罪に問えない。殺害を脅迫されたのは被害者2人と主張、しかし、2日後に近隣の住人カラビニエリの脅迫を受けたと認めた。事件は何度も小説化、映像化され本作が初の長編映画。

シチリア出身Giuseppe Fiorello監督は元々俳優で「堕天使」「海と大陸」出演、駄作なので見なくてOK(笑)、初の監督作品。イタリアの映画祭で映画初主演Gabriele PizzurroとSamuele Segretoが最優秀新人賞。青い空と碧い海、少年が新緑のトンネルをバイクで走り抜ける、シチリア島の美しい風景と様々な歴史が刻まれた街並みのヴィジュアルも見所の一つ。80年風のカラフルなファッション、初耳だったがイタリアで著名なシンガーソングライター、Franco Battiatoの名曲が儚い2人の恋に彩りを添える。

シチリアと映画と言えば「ゴッドファーザー」。イタリア映画の全てのプロポーザルは「家族」。マフィアも家族愛の象徴、人との信頼関係を重んじるイタリア人は個人主義のフランス人とは正反対。本作も家族の絆を描くが、EXクリスチャンの私から見ても保守的で「男はこう在らねば為らぬ」。本作は兎狩りから始まるが、男は女性や子供を養う力も求められる。最初は死んだウサギを恐がるが、終盤の狩りのシーンで獲物を得意げに持ち上げた。鉄板の保守派の思想に異端の同性愛が付け入る隙は無い様にも見える。

私はEXクリスチャンですが、キリスト教は同性愛者を認めない。「種を残す」キリストの教義と反する、逸脱した「異端」。ヨーロッパ全土でLGBTQへの偏見は顕著。信心深い人が暮らすシチリア島なら尚更、同性愛者への嫌悪と偏見のプレッシャーもハンパない。改革派のカトリックはLGBTQを容認する流れに変化。神が万人を兄弟と認めた、平等無差別に慈しむ精神は「人類は皆兄弟」モーターボートは関係ない(笑)。

シチリアは元々ヴァンダル王国から始まる独立国家、現在もイタリアの特別自治区。本土は戦後の高度成長で復興したが、シチリアは完全に見放された。ソレが経済が豊かなアメリカへの移民に繋がり「ゴッドファーザー」へと繋がる。仕事が無く若者は不満や鬱憤が溜まり、犯罪組織マフィアが誕生。本作の1982年のシチリアは、工業地帯や商業施設が整備され失業率も改善。ジャッレ事件は現在も未解決のままだが、事件を契機に2016年に同性愛を認める法案がイタリアで成立した事も報告に加えたい。

スリラー的な形容で言うなら「動物の狩りとHomophobia」命の剥奪の同一性。事件の直接的な描写は避ける代わりに、Homosocialは雨霰の如くマシンガン的に描く。日常的に受けた差別は「有害な男らしさ」空気感に満ちたシチリア島を覆う有象無象の圧力。同性愛者が嫌われるトリガーが、少し古い話に為るが「HIV/AIDS」誤った情報が蔓延、同性愛者には地獄の日々。本作は迫害を受けた同性愛者の悲惨な事実を語り継ぐ上でも、映画化される価値は有る。重いテーマをイーズする為に、肝心要の恋愛描写はストロベリーパフェの様に甘い。私は京都人なので西尾さんの八ッ橋パフェが好き(笑)。

【ネタバレ】物語の核心に触れる考察へ移ります。自己責任でご覧下さい【閲覧注意！】

ジャッレ事件と本作では年齢が異なる(後述)。イタリア全土に衝撃を与えたので、圏外に居る私達にも許される改変だと思う。秀逸なのはハリウッドの様に後の顛末や社会に与えたインパクトに直接言及しない。殺人の現場も一切映さないので「死」センセーショナルに暴くアプローチを監督は意図的に避けた。此の2点を私は高く評価したい。ウケ狙いのエンタメに振って自身のキャリアを持ち上げたい監督が多い中、地元シチリア出身で現役の俳優らしいキメ細やかな心遣いが初監督で出来た事を手放しで褒めたい。

皆さん「プライド・パレード」ご存じだろうか？。LGBT文化を讃えるパレードで、同性愛を認めないアメリカが発祥で詳しくはRoland Emmerich監督「ストーンウォール」見て欲しい。ハリウッドの破壊王はゲイでLGBT運動の寄付に人一倍熱心。京都でも立命館大学のパレードが始まり。シチリア島のプライド・パレードには本作の主演2人も参加。俳優は文化を伝えるのが仕事、演技だけすれば良いってモンじゃないんです。

イタリアも形式上同性婚が認められたが、異性愛カップルと同等な結婚が出来るかと言えば、ソウは為って無いのが現実。本作が訴えたいのは「世間は人が死なないと動かないのか？」美しい風景と相反する監督の激しい憤りも感じた。差別や偏見が蔓延るから映画化されたが、映画化されるテーマを生み出してるのは私達自身。マイノリティの犠牲で社会が動く事は「歪」以外の何者でも無い。マジョリティで有る私達の責任で、同じ事件を繰り返してはダメだ。2人の少年は夜空に輝く花火の如く美しく散った。

事件は25歳と15歳、映画は17歳と16歳。改変した意味が貴方には分かりましたか？。

原題: Stranizza d'amuri (愛の不思議)。ニーノ(👦🏼(16))とジャンニ(👦🏻(17))の数奇な出会い💥🛵とその顛末が、残酷なほど瑞々しく描かれるノスタルヂックな佳作📽️✨題材は🇮🇹44年前に起こった実話だそう🎇。事前情報を入れず観る派のアタシ、本作の鑑賞にあたり情報の遮断がホント難しかったー( ´;ﾟ;ё;ﾟ)💦✨だってあらすぢを読むだけで『悲恋💔』てネタバレしとるん…

【🇮🇹ゴールデングローブ賞(イタリア)(最優秀初回作品賞)、イタリア映画ジャーナリスト協会賞(新人監督賞・男優賞)など各賞４部門受賞🏆✨🇮🇹ダビッド・ディ・ドナテッロ賞(新人監督賞)など各賞５部門ノミネート】

🎆👨🏼‍🤝‍👨🏻出会わない方が幸せだったのかなあ。美しい２人の天使🪽がキャッキャと戯れる眼福からの→観終わって放心(いやマヂで💬✨本作の詳細な背景を知りたい方向けに(鑑賞後推奨)産経オンライン🗞️のリンクを貼っておきま✋🏻
https://toyokeizai.net/articles/-/711326?display=b

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【バイクと花火と夏の君】

ジュゼッペ・フィオレッロ監督のシチリアが舞台のジュベナイル作品

〈あらすじ〉
1982年、イタリアのシチリア島。17歳のジャンニはバイクで走行中に衝突事故を起こす。そこで彼は16歳の青年ニーノと出会い、友情を育み、やがて恋に落ちる…。

〈所感〉
BL系なので正直抵抗あるなぁとちょっと思って見たが、これは良かった。ラストでこれが実話であってほしくないなぁと思ったら案の定実話モチーフということで、なんとショッキングで憤慨すべき出来事でしょう。マチズモが支配的で閉鎖的なシチリア社会において、村民たちの白い目、偏見に晒されながらも、友情・恋愛を育んでいく二人の青年の姿が健気で切ない。けど、ずっと見ていたいものだった。二人で一緒に乗ったバイク、自分達の力で打ち上げた花火、美しき労働、シチリアのノスタルジックな原風景、すべてが青くて甘酸っぱくて最高なのになんでこうなってしまったんだろう？とやり切れなくなってしまった。周りがクソすぎる…がなんとなくそういう空気感とか受け入れ難さも理解できてしまうので自分は偽善者だなぁと思う。しかし、本作の実話元である2人の青年の遺体が果樹園の木の下で発見されたというこの事件をきっかけに、今日までイタリア最大のLGBTQ団体として活動を続ける「ARCIGAY（アルチゲイ）」が設立されることになったというから彼らの死は無駄ではなかったと信じたい。多様性が叫ばれる昨今、彼らがもし今の時代に生まれていたら少しは生きやすかったのではないか。ただのBL映画とは思う勿れ、純粋な愛の物語でした。