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ポンペイ、雲の下に生きるの作品紹介

ポンペイ、雲の下に生きるのあらすじ

西暦79年、ベズビオ火山の噴火によって消えた古代都市ポンペイ。火山灰や火砕流によって埋もれてしまった街。埋没した遺跡は長く続く発掘や盗掘によって、元の姿を留めていない。麓にはナポリの街が広がり、垂れ込めた雲の下、人々の営みが今も続く。消防署に届く電話。子供たちの勉強をみるおじさん。船からウクライナ産の小麦をおろすシリア人青年。遺跡発掘にあたる東大チーム。博物館の暗闇には女神の彫像が浮かび上がる。

ポンペイ、雲の下に生きるの監督

ジャンフランコ・ロージ

原題
Sotto le nuvole/Below the Clouds
製作年
2025年
製作国・地域
イタリア
上映時間
115分
ジャンル
ドキュメンタリー

『ポンペイ、雲の下に生きる』に投稿された感想・評価

Omizu
5.0
【第82回ヴェネツィア映画祭 審査員特別賞】
『海は燃えている』ジャンフランコ・ロージ監督の新作。ヴェネツィア映画祭コンペに出品され審査員特別賞を受賞、山形国際ドキュメンタリー映画祭コンペにも出品された。

大傑作!これはもう他の山形コンペ作品とはレベルが違う。ヴェネツィアの受賞も納得だし、ロージならではのこの上なく美しい映像が堪能できる。

ナポリの地下遺跡や地下通路といった過去の記憶、そして頻発する地震といった現在の問題を多層的に描いている。過去と現在が交錯し、ダイナミズムが大きなうねりとなって迫ってくる。

白黒の画面が美しく、静かながらも雄弁な語り口が流石としか言いようがない。ロージは特別好きというわけではなかったが、本作は一番好きかも。イタリアの記憶をめぐる傑作ドキュメンタリー!
[ナポリ、"積層する"歴史との出会い] 80点

傑作。2025年ヴェネツィア映画祭コンペティション部門選出作品。ジャンフランコ・ロージ長編八作目。"ヴェスヴィオ山は世界中の雲を作る"というジャン・コクトーの言葉で幕を開ける本作品では、いつものロージ調の語り口で、山の下に広がるナポリの街の"積層する"歴史を紐解いていく。多くの名前の言及されない人物の物語をモザイク状に構成していくのだが、多く登場するのはポンペイ時代の遺跡を発掘する東大のチーム、消防の通報センターのオペレーター、ウクライナから船で輸送されてきた小麦を降ろすシリア人の青年たち、子供たちの勉強をサポートする商店街のティッティおじさん(頻繁に名前が呼ばれる登場人物は彼だけだ)、博物館の地下保管庫を探る館員たち、である。特にヴェスヴィオ山と関連の深いポンペイの関連挿話は興味深い。逃げ遅れて炭になった遺体を石膏で復元するのは、現在の都市が死者(≒歴史)の上に建っていることを視覚化しているかのようだ。火山の近くなので地震も頻発し、その度に消防の通報センターには"今の地震はどこが震源か?安全なのか?"といった心配の電話が寄せられる。その背景には、2000年も前に起こったポンペイ壊滅の悲劇が共有されているかのようにも見える。また、博物館の館員は地下倉庫に仕舞われて長らく日の目を見ていないローマ時代の彫刻を観察し、上の階にいるのは"成功者だ"と語る。警察は墓泥棒が掘ったというトンネルに入り込み、盗難された遺物の被害を探る。それらはどこか地下=死者の国という共通の認識があるようだ。ローマ時代の地下道に、ブルボン王朝時代の公共工事で空いた穴があり、その傍に墓泥棒が最近開けた穴があるという場所が登場し、歴史の積み重ねを感じさせる。まさに『墓泥棒と失われた女神』への返歌といったところか。主軸となるシーンの合間には無人の列車やポンペイやナポリを舞台にした古い映画(『イタリア旅行』など)を上映する無人の映画館などが登場し、人間がいなくなったあとでもヴェスヴィオ山は気まぐれに噴煙を吐き続けるだろうという、気の遠くなるような未来まで見せてくれる。ウクライナから小麦を運び入れるシリア人青年たちの挿話は、ローマ時代の食糧事情を東大チームの教授が"ローマやアテネなどの都市部で足りなくなった食料をエジプトの小麦地帯から輸入していた"という言葉によって補われている。彼らの行為すらも歴史の営みの一部なのだ。そして、極めつけは海に沈んだ女神像である。不可侵の神秘が未だに眠っているかのようであり、エトルリアの同胞の安寧を守ったアルトゥールの姿勢に倣うようでもあり、なんだか嬉しかった。
4.0
【複製された時間を発掘して】
動画版▼
https://www.youtube.com/watch?v=nH972vQ095o

『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』で金獅子賞、『海は燃えている〜イタリア最南端の小さな島〜』で金熊賞を受賞したエリトリア出身の監督ジャンフランコ・ロージ。フレデリック・ワイズマンのように、特定の領域内の小さな群を捉え、繋いでいくことによって社会の側面を見出すドキュメンタリーを得意とする彼は、『ポンペイ、雲の下に生きる』において時間軸を加えポンペイの地層をスクリーンに投影させた。

閑散とした映画館の中で、ヴェスヴィオ山の噴火、そしてポンペイが火山灰と火山礫で埋まる様がスペクタクルとして提示される。映画は複製性を有するメディアであり、歴史的事実が再発見されていくものである。本作は映画の特性をメタ的に捉えた上で、考古学と結びつけるユニークなアプローチによってポンペイの歴史を紐解く。

ポンペイは1997年にエルコラーノやトット・アヌンツィアータと共に失われた古代ローマ都市を記憶している場所として世界遺産に登録されました。西暦79年にヴェスヴィオ山が噴火したことで埋まったものの、当時の生活様式や文化が良好な保存状態で地中に遺された。18世紀半ばより発掘されていったものの、依然として不明な部分が残っており、ゆっくりと研究が進んでいる。

本作では、東京大学の考古学チームが長年かけて精緻に調査を重ねて古代ローマ時代の生活様式を明らかにしようとする活動が描かれている。一方で、泥棒が違法なトンネルによって文明の痕跡を盗み出す実態も描かれている。『海は燃えている〜イタリア最南端の小さな島〜』において、牧歌的な島の活動と命がけで移民が島を目指していく対極の事象を並べたように本作も発掘のアクションを巡る複数の領域を指し示す。

『ポンペイ、雲の下に生きる』が興味深い点は、火山の噴火によって幕が閉じたポンペイの歴史が発掘される過程を入れ子構造として描いている点にある。映画は緊急センターにカメラを向ける。そこには、放火や山火事の通報が入る。外は業火に包まれる。2020年代のヴェスヴィオ山もいつ猛威を振るうかわからない不気味さを纏っている。つまり、文明が発達した現代が滅亡する空気感が銀幕を揺蕩っているのです。

本作は考古学者が文明崩壊後にこの作品を発掘し、失われた文明の片鱗を目撃することを想定したような作りとなっている。古代ローマは石像や壁画といった物質的なものによって過去と繋がる。しかし、映画は複製された時間によって過去と繋がる。戦争によって終末の気配に包まれた今、映画は何ができるのかを世界遺産であるポンペイを通じて見つめた傑作といえよう。

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