監督・脚本は、ミーガン・パーク。
2024年にAmazonプライムビデオで公開されたSFドラメディ映画です。
※アラスジを最後まで。その後に感想を。⚠️
【主な登場人物】🍁🫎
[エリオット]主人公。
[キャシー]母。
[スペンサー]下の弟。
[チェルシー]恋人。
[チャド]危険人物。
[トム]父。
[マックス]弟。
[ルーシー]親友。白人。
[ロー]親友。黒人。
【概要からアラスジへ】🏞️🏘️
パーク監督は、1986年生まれ。カナダ出身の女性。
子役の頃から女優で、主戦場はシットコム。
音楽を担当しているタイラー・ヒルトンと2006年に結婚して、二児の母に。
2021年のPTSD女子高生の無気力映画『フォールアウト』につづいて、長編映画監督は2作目です。
前作だと、
軽いタッチだけど、金のかかる映画製作への不安から、題材については勉強熱心。
他人に影響受けやすい性格だから、自分の周辺情報は遮断する、などナイーブな側面を持っていた。
まだ作風が固まっていないので、どんな風に変化したのか楽しみ。
🚣🏼♀️〈序盤〉🔥🍵
8月。カナダの夏休みは、新学期を控えた季節。
オンタリオ州。その東の端に位置し、半島のように突き出したトロントの北。マスコーカ地方は広大な森に覆われている。
人口5万人に満たない田舎で、大小数えると、1600の湖が点在する、水の豊かな土地である。
行楽シーズンは観光客でにぎわい、そのためのコテージやボート乗り場が多数用意されている。
エリオットは今日が誕生日の18才の女性。友人のルーシー&ローと一緒にエンジンボートで湖を移動する。
3週間後にはトロント大学に通うために地元を離れる予定だが、その前にレズビアンの彼女と結ばれるのを目指している。
3人はモード島に渡って森でキャンプ。ローがアフリカの親戚から仕入れた乾燥キノコを煎じてお茶にして飲む。
夜は丸太に座り、焚火を囲んで夢を語る。
「やっと本当の人生がはじまる。クランベリー農園の3代目はごめんよ」
ローは踊りながら森の中へ。ルーシーが白目でぶっ倒れると、エリオットの隣には中年女性が座っていた。
女は「39才になった貴方よ」と焼きマシュマロを食べながら言った。
髪がぱさぱさで前髪をつくっているのが信じられないが。トラクターから落ちた時にできた脇腹の傷を持ち、左胸が右胸より小さいなど、やけに詳しい。
明るい話を聞きたいが「今、博士課程の学生なの」と、絶望的なネタばらしが。
中々助言してくれないから、エリオットは「何かやり直したい事はないの?」と食い下がる。
すると「チャドだけは避けて」と知らない男の名前が出てきた。
一緒にテントに入って並んで眠る。エリオットのおねだりでキス。
「私の年とった尻を触らせてよ」
都会の生活は忙しい。年をとると時間が過ぎるのが早くて、いまは感謝祭ですら地元に戻れない。エリオットが眠そうにしているから、39才のエリオット(エリー)は、彼女の携帯に連絡先を入れてから姿を消した。
翌日は彼女であるチェルシーとボートで肌を重ねて。その後はトラクターで畑仕事。
汗を流したくて裸で湖を泳いでいると、見知らぬ髪の長い男が水中から現れた。
同世代で細身。端正な顔立ちをしている。喋ると控えめで、優しくて中世的な物腰。
父が雇ったらしく、今日から農園で働いているらしい。父を褒めてくれて印象はとてもいいが。名前を聞くとチャドだった。
携帯にはエリーの連絡先が登録されていて、電話もメッセージも繋がり、「家族と過ごして」
マイク付きイヤホンでよく喋る仲に。時々未来の話を聞いては、彼女のアドバイスに沿って行動するように。
🚣🏼♀️〈中盤〉🏌🏻🩳
「マックスとゴルフをして」に従い、次男の趣味につきあう。いつも知らん顔してきたから、怪訝そうな表情。
僕は農業とスポーツが好きなストレートで、姉さんの好きなタイプじゃない、と卑屈。
「ごめん」と姉。別れが近いからだろう、偏見があった、と素直に謝っていた。
湖で泳いでチャドとばったり。蛇がいたから、と逃げようとするが、捕まえてあげる、と調子を合わせてくる。君のボートに乗せて、と言うから「壊れている」と断ると、「直してあげる」
エンジン修理を眺めながら将来の話に。農園は弟に任せるつもりだけど、やりたい事はまだ見つかっていない。
チャドは優しくて穏やかで退屈なくらい。エリーに危険な理由を聞きたいが、
「彼とボートには乗らないで」と誤魔化された。
指示されるまま、ママにまかせっきりの家事の手伝いも。
あんなに求めていたはずの彼女とのセックスにも違和感。
エリーとの会話を通して、クズな自分を振り返る切っ掛けができた。
チャドとセックスしている夢をみて目覚めると、朝食の席に彼が座っていて、「パパを手伝ってもらってるのよ」と母から紹介された。
大学を卒業した後は、薬学の博士号を取り、抗がん剤の研究がしたいのだとか。
チャドとマックスがゴルフに出かけて、楽しそうな2人をランドカーから眺める。
跡継ぎの話題から、「農園は売られる」と初耳の情報が。
驚いて父を説得するエリオットだが「お前は興味がないと思ってた」
上京まで残り1週間に。
チャドに付き合わせてボートを売りに湖を移動する。
実家が無くなると思うと、景色も違って見えた。
彼が、ごっこ遊びをした最後の日を覚えている? の話題から低い橋を避けるために折り重なる体。仰向けの体に乗られ重なる唇。暗い橋げたの隙間から格子状に光が降り注いでいた。
エリーに会いたくて、ローに乾燥キノコの残りを貰いに。
心配したのだろう、夜のモード島までついてきてくれる。
焚火を見ているとローが消えて、彼女に呼ばれた、とチャドが現れて。丘の上でドラマーが中タムを叩いている。
エリオットは、ジャスティン・ビーバーで『ワン・レス・ロンリー・ガール♪』を熱唱する。
翌朝、湖畔のレストラン。親友のローに「男に対して妙な感情をいだいている」と告白。
ストレートでも何も変わらない、と真剣な顔で言われるから、吹き出し笑い。
「カテゴリーに意味があるなら使えばいいし。邪魔なら無視すればいい……自分の本能に従いな」
🚣🏼♀️〈終盤〉🌧️🛖
夕暮れの庭。母と並んで椅子に座り、湖の景色を見下ろしながら2才頃の思い出話に。
寝つきが悪くて、おねだりが多くて手がかかった。きらきら星を45分歌って揺さぶりつづけた。手も脚もしびれて。けど、それから数日して急に1人でベッドで眠るようになったの。
誇らしかったわ。
けど、あの時気づいたの。もう貴方を揺らすことはないんだってね。いまも同じ気持ちよ。
翌日。ボート乗り場に出向き、チャドに友人たちを紹介する。錆びだらけだったボートがぴかぴかに。
「ポッドキャストを聞きながら6時間こすった」
別れの前に2人で最後のボートデートへ。
雨が降って近くのコテージに入った。広いベランダに座り、湖を眺めながら、彼がトロント大学に通っていると聞いて浮足立つ。
寒さをしのぐように寄り添う体。
「私、いままで自分を同性愛者だと思ってた」
ゲイリーに出会ってバイかもって。まだ分からないけど。けど、ある友達に「ゲイリーはやめとけって」
君はどう感じているの、そのゲイリーって男について?
「正直、かなり惹かれてる」
初体験の後に家に送ってもらい、別れた帰り道。
木陰からエリーが現れて驚くエリオット。未来から葉っぱでトリップして、過去に飛んでいることが判明するw
家族とちゃんと向かい合うアドバイスは聞いたけど、チャドを避けられなかった、と正直に告白した。
どうして彼に近づいてはいけないのか問いただすと「死んだの」
もう他人は愛せないくらいに貴方がどっぷり填まり込んでから死ぬ。
欠点が見つからないのは当然よ、だってチャドは完璧だもの。
貴方には経験させたくなかったのよ。
チャドが忘れ物を届けに来てくれて、エリーとばったり。まるで生き別れた弟にでも再会したようにじっと見ているから、空気を察してくれる。
泣きながらその場を立ち去ろうとするエリーを心配したチャドが両手を広げて呼び込んだ。
長いハグ。
愛する人の体から離れると、エリーは振り返らずに森に姿を消した。
それから数日して。39才の私から最後のメッセージが。
若い貴方から教えられた。
貴方がチャドと恋に落ちてよかった。
最高に幸せな時間を楽しんで。
貴方はいまのままでいい。ありのままの自分を愛して。
【映画を振り返って】📱🌿
高校を卒業して上京するまでの短いモラトリアム期間で起きるちょっと不思議な体験。
前作と比べるとかなり明るい。
車の代わりにボートで動きのある絵が多数。マスコーカの特性を活かした絵がいくつも有り、他作品との差別化に成功している。
🍄キノコトリップを極める。
2幕の味変に使うのではなく、縦軸に使うことで、
同種が大量発生している中では頭ひとつ抜きに出ている。
正直「この手があったか」と驚かされた。
18才の主人公の前に、未来から40手前の自分が会いに来る。
湖のほとりを舞台にしたひと夏の体験で、
レズ版『君の名前で僕を呼んで』
自堕落な影が主人公で、社交用に綺麗に仕上がった光が彼。
自分を大きくみせたがる男性監督との違いが如実に表れている。
女性らしいテーマである「もうすぐ40才」という、現在の心境とも絡めてある。
👙ナルシスト・レズの振り返り。
若い頃の自分に会って色々アドバイスしたい。なんだけど、現代を生きる18才にして、SF調にしてある。
・現代の若者を書いておきながら、古臭く思われるのでは?
・未来からのメッセージが的外れかも。
この2つの恐れから嫌煙されるハードルを、いともたやすく飛び越えている。
「笑われる」がプラスに変換されるコメディの強みが出ているとも言えるし、
幼少期から人前にたち、羞恥心を捨てた強みともとれ、
モノマネと、ぶっ飛びが共存する独特なデザインが生み出されている。
監督が若い子が大好きで、2作品つづけて青春もの。共感のメールも相当届くらしいので専門分野ではある。
🤔疑心暗鬼。
羞恥心は捨てているが、将来への不安は残っている。
不安神経症モドキで、疑り深い。
だからやたらと確認したがる。
未来がどうなっているのか聞きたがるので、ずっと語尾に「?」がつく。
そして何だか未来が不穏。
電話の向こうから別の女性の悲鳴が聞こえて『ターミネーター』のようなディストピアを彷彿させる。
監督の話だと、気候変動しているらしい。
🔮未来からのナビゲーター。
メンターのように電話でアドバイスしてくれる。
一見心強い味方ができたかのような演出で暖かな曲が流れるけど。ちょっと待て。
自分の思い通りにしたい人の欲望でしかなく、あやつり。
ぜんぜんいい話じゃないから気づいて。
🏫○○のせい。
・家を出て行きたがっていたから、実家の事情には興味がないと思っていた。
・未来の自分に言われたから。
のように責任転嫁する登場人物たち。自分で考えて行動し、決断しているのに、責任だけは他人に押し付けてくる。
言い訳が多い人は、他人に厳しい。
自分が普段から責任を追及しているから、自分も追及されるのでは? が無意識で働いて、誰も聞いていないのに、理由を説明しはじめる。
自分の影に怯えている。
政治家に詳しくないので分からないが、野党議員が陥りやすい症状かも。
😰へたれエゴイスト。
理由を説明して騙せるのは自分の脳みそだけ。社会じゃ通用しない。
けど、意識的なのか、無意識なのか、ぜんぶ自分に跳ね返っている。
『ボーはおそれている』のように。
クズは自虐ネタで中和されるのでやり得ではある。
「10代の時は誰だってクズよ」
(でたよ、都合の悪い時だけ「みんな」って言うやつ。他人の意見全然聞かないくせに)
♂️異性愛の目覚め。
自分はレズだと思っていたら、好きな男ができる。
ティーンエイジャーの悩みとしては、けっこう深いところへ。
モノマネ系なので、オリジナリティ。唯一無二への憧れが強い。=クィアだったらぎりぎり許せるけど、
自分は性的マジョリティかもしれない、という仮説に行き着く。
LGBTQ+ですらない。
「普通の人」を馬鹿にしていた、痛かった頃の自分を正直に告白する。
クィアが声高に叫ばれる今の時代にぴったりなテーマ。
中二病の10代への啓発としてこれ以上の作品もない。
異性愛者である自分をほこれ。
「これはやられた」「その発想はなかったわ」がいくつもある映画。
お金もかけず、他作品と微妙なニュアンスの違いで先を行く。
🍑尻つぼみ。
1作目につづけて3幕が弱い。
とちゅうまで4.2つける気満々だったのだが、の感想が前作と全く同じ。
それまでミステリアスだった彼の秘密が解き明かされて、想像力が一気に収縮した。
旦那のいる2児の母が独身女性の心理を描くのはちょっと。
おそらく、少女が心に描いていた理想のパートナーが大人の階段をのぼることで消滅する、の比喩だと思われる。
あと、とつぜん会話に出てきたゲイリーも誤字ではありませんw
衝突を避ける女子が本人に向かってよくやる「遠回し」表現です。
前作もそうだけど、勉強して他人の物語にトリップするのが特徴なんだけど、実際はそこには自分しかいない、という風変わりなスタイル。
女優で監督である特徴が反映されている。
出会わなければよかった。
考えたことないけど、よく聞くフレーズなので、そんな風に発想する人もいるのだろう。
けっきょく「それでも付き合いたい」へと舵を切るので「何度生まれ変わっても」と、運命を感じさせる落ちへ繋がってゆく。
自分をハグして思い出をハグする。
セラピーセミナーの経験豊富。不安症の監督が自信を持っている部分。
オーソドックスだけど原点。大切なので、悩み多き若者へのメッセージとしては他にないのかも。迷える子羊を未来に導いてくれる。