後期のキェシロフスキ監督は幻想的な映画にもなっていきますが、初期は社会派のリアリズム映画が多かったです。
本作も前科のある男が労働者となり、非情な葛藤に苦しむことになります。
まるでケン・ローチ監督やダルデンヌ兄弟監督の映画のような世界観の映画ですね。

• #キェシロフスキ監督を語りたい

ドキュメンタリーからフィクションへと移行した時期のキェシロフスキのテレビ映画。
3年間の投獄を終えて出所した男が、仕事を得て家庭を持つ平穏な暮らしを手に入れようとするも、職場で雇用者と労働者の対立に巻き込まれてしまう物語です。
組織の中で理不尽に潰されていく個人というテーマはこの時期のキェシロフスキらしくてとても良かったですが、設定をストーリーにまで昇華しきれていない印象で、その点後の傑作「アマチュア」はやはりよく出来ていたと感じさせられました。
身重にも関わらずフットワークの軽い妻が印象的でした。

障害で三年服役し、仮釈放となったアンテク・グララク。
故郷クラクフを離れ、シレジアの建設現場で働くことになった彼が求めるのは、まともな仕事に、マイホーム、そして家族、そんな当たり前の平穏。
表題の平穏とは、主人公が渇望しているものである。

基本的に娑婆に出た後のアンテクは波風を立てない努力はしていたが、時々傷害罪でパクられたのも頷ける粗暴さは出てはいる。
下宿先の人は親切で、同僚との関係も良好、(あとあと物資の横流しなどで私腹肥やししていることが発覚する)上司との関係もまぁ良好。
服役時代に親切にしてくれた女の子ともデキ婚することになり、アンテクが欲しがっていた平穏が手に入りそうになった矢先に、いよいよ同僚らと上司らの争いが表面化し、どちらにもいい顔をしてきたアンテクも決断を迫られる事態がやってきて――と言うお話。

公開当初は検閲を喰らって、約四年お蔵入りになっていた(後半のストライキがポーランド政府の逆鱗に触れたとのこと)。
だが、キェシロフスキが醸し出す不条理的息苦しさはここに来てより無慈悲さを頂き、力強さも増している。
既に触れてるアンテクの素の粗暴さが、ストレスから妻に向けられることが増える終盤なんか、その力強さは感じる一方で観ていられない、とも感じさせられる。

キェシロフスキは「特別なことは望んでないのに何故かそれを手にすることが出来ない男の話」と、この作品を説明したらしいし、実際その通りであるとは思うけど、その通りすぎて人の心もなかったわ。