石の微笑の作品情報・感想・評価

「石の微笑」に投稿された感想・評価

netfilms

netfilmsの感想・評価

4.6
 フランス・パリの10区と19区の境にあるジョレス郊外、スターリングラードの先に姿を現わす高級住宅街。淡い乳白色から水色に色彩が変化し、青みがかった美しい海辺の風景が見えて来る。車中からの風景は海辺を映した後、この辺りの住宅街の建物の白い壁を映しながらゆっくりと進む。やがて右に曲がると、赤いサイレンのランプ、物々しい人だかりが見えて来る。乳白色から薄い水色、青、白、赤と刻々と変化する導入部分の色彩イメージの妙。マスコミのカメラはこぞってこの家を好奇の目で見つめている。女性キャスターはこの地で起きた陰惨な事件をレポートする。この家の少女ラファエルが最後に目撃されたのは、豪邸の前のジョレス通りだった。まるで『嘘の心』の冒頭の少女誘拐事件のような醜悪な事件を、テレビを通して見つめる長女ソフィ・タルデュ(ソレーヌ・ブトン)と次女パトリシアの姿に、この家の長男で大黒柱でもあるフィリップ(ブノワ・マジメル)は苛立つ。テレビのスイッチを消した兄の姿に、2人の妹がブーイングをする頃、美容室から母親クリスティーヌ(オーロール・クレマン)が戻る。今日は母親の新しい恋人ジェラール・クルトワ(ベルナール・ル・コク)との初めての顔合わせの日。母親は少女のようにウキウキとした様子で家に戻ると、フィリップの亡くなった父がクリスティーヌにプレゼントした石像「フローラ」をジェラールにプレゼントしたいと息子に話す。命の次に大事な石像を知らない誰かにあげることに内心、複雑な気持ちだったフィリップだが、母親のたっての希望を断ることなど出来ない。

市役所に勤めるジャッキー(エリーク・セーニュ)と23歳で早々に結婚を決めた長女ソフィに対し、建築事務所で働く兄フィリップには婚期が訪れる気配がない。彼にはマリオンという美しい彼女がいたが、自然消滅的に恋は終わった。一家の大黒柱であるフィリップは、軽薄な母の恋人ジェラールが捨てて行った石像「フローラ」を深夜の闇の中、1人家に持ち帰る。仕事で遅くなるからと母に嘘をつき、善人であるフィリップは満を辞して、精一杯の覚悟で家主の居ない庭先から愛する石像を盗み去る。その姿は明らかに常軌を逸している。シャブロルはフィリップ役に、ミヒャエル・ハネケの『ピアニスト』でカンヌ国際映画祭男優賞に輝いたブノワ・マジメルを起用する。『悪の華』から3作連続の起用である。ジュリエット・ビノシュの元夫としても知られるマジメルは、長身でイケメンの美青年だが、内向的で妹たちの好奇の目に苛立つようないたって真面目な善人である。職場ではモンスター・クレイマーであるクレスパン夫人(シュザンヌ・フロン)の注文を軽くいなしながら、実生活では石像「フローラ」に妄執する。彼が自分のベッドで石像と見つめ合い、口づけを交わす様子は明らかに母親クリスティーヌへの近親相関的な関係を想起させる。シャブロルは2000年代に入り、『甘い罠』と『悪の華』において、常軌を逸した近親者の血縁の濃さを描いてきた。今作でもマザー・コンプレックスなフィリップは、『甘い罠』の息子ギヨームや『二重の鍵』の長男リシャール、『主婦マリーがしたこと』の夫ポールを真っ先に想起させる勃起不全で偏執的な病理を抱えている。

シャブロルの映画には往々にして勃起不全の男たちが出て来るが、『嘘の心』においてデモとの不倫のヴァカンスを知ったルネが、皮肉にも生来の画家としての本能を呼び覚ましたように、フィリップが偏愛し続けた母親の失恋と偶然戻った石像が、皮肉にも彼に久方ぶりのロマンスをもたらす。妹ソフィーの晴れの席で、花嫁介添人たちがソフィとジャッキーに祝福の表情を見せる中、フィリップは列の左端に陣取った女ステファン・"センタ"・ベランジェ(ローラ・スメット)に心奪われる。あろうことか彼女の顔は石像「フローラ」と瓜二つなのだ。彼女の水色のドレスが見えた時、初めて我々観客は導入場面のアヴァン・タイトルが乳白色から水色に変化した意味に気付く。ファム・ファタールな女が突然彼の住居を訪ねた時、外にはおびただしい雨が降っている。名コンビとなったエドゥアルド・セラのカメラは最初のセンタの侵入にたった一度だけズームを取り入れる。びしょ濡れになった女は不躾にもシャワールームを借りた後、真っ白な裸体を晒しながらフィリップに迫る。こうして愛に免疫のない男はいとも簡単にファム・ファタールの罠に落ちて行く。

彼女と結んだ4つの約束。「木を植えること」、「詩を書くこと」、「同性と寝ること」、そして「誰かを殺すこと」。2つ目までは承服出来ても、3つ目以降は堅物で倫理観のある善人フィリップには到底理解出来ない。しかし古今東西あらゆる犯罪映画において、理性を保とうとする主人公の善行を、ファム・ファタールの狂気の愛がいとも簡単に打ち砕く。結婚というゴールに結びつく長女、破綻した母親、堕落した次女のレイヤーを丁寧に描写しながら、制御不可能になった争いごとを好まない気弱な美青年に訪れる苛烈な運命を、シャブロルはじっくりと丁寧に描写する。かくして全てのショットは淀みなく、散りばめられた伏線は見事に回収され、モンタージュは奇跡のような結び目を見せる。前作『悪の華』において、弟分フランソワ・トリュフォーの寵愛を受けたナタリー・バイを初めて主役に起用したシャブロルの極私的「ヌーヴェルヴァーグ」総括は、トリュフォーが天国に旅立つ1年前に生まれたナタリー・バイの愛娘ローラ・スメットを遂にスクリーンの前に引っ張り出す。シャブロル映画史上、最も悪女なセンタの暴れぶり、平和な郊外の街に起こる波紋。その手触りはジャンル映画の範疇に収まりながらも、シャブロルの強烈な作家性を見せつける。シャブロルのフィルモグラフィに留まらず、2000年代のフランス映画においても忘れることの出来ない傑作である。
HappyMeal

HappyMealの感想・評価

4.3
ブノワ・マジメルが時々伊勢谷友介に見える
クロード・シャブロル監督作品。
原作は英国ミステリーで有名なルース・レンデルによるもの。

終幕の後、鳥肌がぞわぞわ立っていた。
ラストの嫌な感じが素晴らしい。
これが真実の愛だと証が欲しい女。常軌を逸してます。

美しいサムシングブルーの結婚式。
ブライドメイドとして訪れたセンタと、自宅の庭にある美しい彫像と面影が似たセンタに魅入られた男、激しく惹かれ合う二人。

この男がエキセントリックなセンタと対照的に常識人な男。
それは会社員風のトレンチコートだったり、普段の発言からもわかるように描かれていて。
なぜセンタが主人公に惹かれるのか違和感があるんだけど、実は案外普通を望んでいたのだろうか。

前半は二人の恋の盲目っぷりにちょっと引いてたけど、後半センタがイカれた事を言い始めたあたりから、サスペンスのるつぼへ。
優美で不穏な劇伴で落ち着かない気分にさせられます。

センタが恋人に愛の証として要求したこと4つ。
「詩を書く」
「木を植える」
「同性と寝る」
「人を殺す」
前半はなんとか…でも後半はハードルが高い!そりゃ普通なら冗談だと捉えかねないけど…
でも、この前半の証もなかなか聞かないユニークさを感じますね…。

シャブロル監督の他の映画の結婚式シーンにも、今作と同じようなシュークリームを山盛りにしたウェディングケーキが出てきました。
あれはほんと美味しそう。
フランスの伝統菓子、クロカンブッシュというケーキです。
LA DEMOISELLE D'HONNEUR
ヌーヴェルバーグ巨匠の官能サスペンス。
妹の結婚式で、運命の鍵を握る女性と出会ってしまったハンサムなフランス青年。
シャブロル監督の描く青年はナイーブで、美しいものが好きで、愛に翻弄される。
二人の一目の愛。両方とも危うい魅力だ。
花嫁付き添人のセンタを演じるローラ・スメットがぽってりと無表情で、冷たくスリリングな空気が伝わってきた。
自分を愛してくれてることの4つの証を迫る。木を植えて、
詩を読んで、・・・、 ・・・
こっちもセンタの不可解な魅力と狂気にだんだんふりまわされていった。
監督のパッションはいくつになってもとどまるところがなかったのね。
この監督って上げて落とす?ような作風があるのねと以前に親が言ってたことを急に思い出した。 『いとこ同志』を見なくちゃ。
とし

としの感想・評価

4.3
センタが本当に美しくて魅力的でそれでいてゾッとするほど怖い。こんな人に魅了されたら骨の髄まで吸われるんだろうなと思う。 冷静に考えたらと「私の半分はあなたで一心同体なの。』だなんてとてつもなく重いんだけどね。 フランス映画の中でもとりわけわかりやすいサスペンスだけど濃密な演出のおかげで一流のサスペンスに仕上がっている。文句なしの傑作。
他人の悲しみに巻き込まれる空虚。オープニング凄いしラストはブラックなギャグすぎる。
えす

えすの感想・評価

4.0
怪しげな色香を放つローラ・スメットの不安定な存在。彼女が住み着く半地下、義理母がタンゴを踊る2階、施錠された3階と異様な空間の配置が面白い。冷たい色調も好み。特に意味ありげなシーンが回収されなかったりで(気付いてないだけかもしれないが)嫌な後味が残る。至高の扉映画。
リヴェットとかより映画論的でなく、ラブサスペンスというテーマに従ってる構成であった。石像以外のモンタージュに目がいかず、右左上下という方向に意味があるというように感じる。
行きと帰り、家とおじさんの家、中継点が途中までなく、唯一の中継点がセンタであった。それが、このままセンタと愛を育むことを阻止しようとしている。センタとの情事がフィリップの中では中継点かのように描かれる。
初シャブロル。変な映画だが面白い。最初は主人公がマザコンっぽくてヤバいのかと思いきや、全然別次元のヤバいやつが出てくるという笑 意味ありげなショットが特に回収されなかったり、階段の登り下りの反復もあんまり説話論的機能を持ってるようには思えなかったが、それがまた良いのかもしれぬ。突然女が全裸になるのはフランス映画らしいですな。
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