肉屋の作品情報・感想・評価

「肉屋」に投稿された感想・評価

いずみ

いずみの感想・評価

4.2
超傑作。めちゃめちゃ怪奇的で怖い。怖すぎるけど奇妙な愛。シャブロルの映画は大体田舎町が舞台で、そこにいる閉鎖的な人間たちの閉鎖的な闇の心を暴いていく。若くして小学校の校長であるエレーヌは同僚の結婚式で肉屋で働いている男と出会う。結婚はしないのか、と聞かれ10年前に失恋したことがトラウマであると男に話す。男の誕生日にプレゼントしたライター。それが頻繁に街で起こる残虐な殺人事件の事件現場でエレーヌは男にプレゼントしたライターを見つけてしまう。一瞬恐怖に斧めくものの、疑惑であったことが判明。変わらず男は先生を求め、先生は男の奇妙な存在に虜になる。果たしてこれは愛なのか…と問われるが、要は愛情に飢え、血の匂いなや依存した男が女を求めるのではなく母親的な存在を求め、先生!先生!と毎晩のようにエレーヌに会っていたのだと思う。腕にだきたかったのはエレーヌではあるが、愛情だと思う。自殺した男を車に乗せ病院へ運ぶエレーヌはそれを悟って運ばれる男にキスをしたのだと思う。それを全て涙で消し、水とともに流そうとしてラストへ行き着いたのだと思った。超傑作。
roland

rolandの感想・評価

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これも男女を宙吊りにする。光と影、白と黒。一瞬後の明滅に主人公たちを落とし込む見せ方が絶妙に上手い。ヒッチコック、デパルマのような派手さはないのだが無表情が最も怖い。
adam

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3.9
死体発見とラストにかけての一瞬一瞬が凄みしかない。大人の恋物語と見せかけた卓越したホラーサスペンス?
以前、何かのレビューでも書いたかもしれませんが、私がシャブロル、ゴダール、トリュフォーの中で同じ作品を最も多く複数回数鑑賞しているのはシャブロル。
私にとって再見してみたくなる作品が多いようです。
これまた難しい選択なのですが、秀作揃いのシャブロル作品の中で本作と「野獣死すべし」が特に個人的にツボった気がします。
PTSDから生じる破壊衝動に悩まされる男と恋人に捨てられ恋に臆病になっている女との切なくも美しい愛の軌跡が描かれています。
退廃的でリリカルな作風の中に、仄かな輝きが救いとなって舞い下りてくる瞬間がたまらなく好き。
また映画で観た登場人物に対して、コレ間違いなく彼(彼女)のトラウマになるだろうな…と思う強烈なワンシーンがあります(;´Д`)
今回で見るの3回目。我が最愛の映画監督シャブロルの最高傑作のひとつ!タイトルが肉屋ってどうなん!ってなるけど、ホントにすごい傑作なのです。鍾乳洞の壁画をバックに、血文字のようなクレジットが流れ、おどろおどろしい不気味な音楽が流れる。こえ〜って思ってると、フランスのとある平和な村で、みんなが集まって陽気に結婚式を楽しんでるシーンから始まる。画面全体がとても明るく、ユーモアと幸福感でいっぱいの序盤。結婚式に出席してる独身の女校長エレーヌはポポールという肉屋の男といろいろ話をして、その後、だんだん一緒にディナーを作って食べたり、キノコ狩りに行ったりする仲に発展。愛らしい小学生たちに囲まれ、恋に発展しそうな男も現れ、幸せそのもののエレーヌなんだけど、その村で突然、女性のめった刺し殺人事件が発生。そして、鍾乳洞への遠足のときに、小学生を連れたエレーヌが、第2の惨殺死体の発見者になってしまう。女児の弁当に血が滴り落ちてくるこのシーンの何とも言えない気持ち悪さが衝撃的で、しかも、その現場でエレーヌは、いちばん見つけたくなかったとんでもないものを見つけてしまう…。それぞれの出来事が人物に及ぼす心理的影響を、表情や行動などの微妙な変化から隈なくとらえ、心の深層をわかりやすい言葉などでまったく説明することをしないスタイルがめちゃめちゃクール。あくまで事実から事実、事件から事件への推移と、そのリアクションのみを描いていき、そこから絶妙なミステリー感覚を生み出していくこの巧さ! 冒頭からは思いもよらないダークで屈折した結末に向かって、徐々に流れ始める不穏過ぎる空気。たったひとつの小物で疑惑と安心、不安と確信をあやつるミニマルなサスペンス演出。鳥肌が立ちまくり! 終盤は背筋が凍るほど冷たいスリル!足音!錠をかける音!光と影のコントラスト!小刻みなカットバックと胸騒ぎ!身を捧げるように目を閉じた暗転のあとに起こる、不気味だがあまりにも悲しい展開。こんなゾワゾワくるラブサスペンスはマジで見たことがない。似たものも、並ぶものもない、まぎれもなく唯一無二の異色作。大好きです。大好きです。たまりません。こんな変な映画が存在すること、喜びでしかない。
寂々兵

寂々兵の感想・評価

3.6
既に書かれている方がいるが、終盤の切り返しで一気に二人だけの世界になるのが印象的。ゼロ年代のシャブロルの映画に対しよく「洗練」と言う言葉を使ってきたが、60年代で既に洗練されていてヒリヒリした。入手が難しいが『野獣死すべし』『二重の鍵』『気のいい女たち』も観ねば。
やっぱりステファーヌ・オードラン最高。ユペールが苦手すぎてシャブロルをあまり観てこなかったのだけど、それは勿体ないか……?技巧派で結構キメてくる。こういう映画を観るとロメールとシャブロルどっちが好き?とか聞くのもあれかなぁと思わなくもないけど聞くのはやめません。
『主婦マリー』同様、子供に酒を飲ませる描写あり(あんなの飲んだうちに入んないけどね!)。全くもってシャブロルは子供に冷たい……気がする。今後はそういうところを観ていきたいです。
netfilms

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3.7
 鍾乳洞の内部に描かれた原始時代の絵の仰々しいアヴァンタイトルと不協和音、ドルドーニュ川の雄大な流れの川下にそびえる緑豊かな農村地帯、トリュフやフォアグラの産地としても知られるペリゴール地方のトレモラ村では、1組のカップルの結婚式が執り行われようとしている。ケーキ職人は出来た数mの高さのケーキ・タワーに白い布をかけ、3人がかりで会場まで運んでいる。その末尾につけた少年はコンクリートにつまずき、パンを豪快にひっくり返してしまう。会場の料理場では女たちがメインディッシュとなる肉料理の準備をしている。新郎の父親のお馴染みの挨拶。新郎レオン・アメルはこの村にただ一つある小学校で国語の教師をしていた。コの字形に並んだ結婚式の席。中段に座ったレオンの唯一の同僚で小学校の校長先生を務めるエレーヌ(ステファヌ・オードラン)の隣に座ったポポール(ジャン・ピエール・カッセル)の姿(あのヴァンサン・カッセルの父親である)。この式のために特別に持って来た肉を切り分けるポポールの職業は肉屋。15年間の兵役を経て、再びトレモラ村に戻って来た帰還兵である。幸せそうな新郎新婦を見つめるエレーヌの幸せそうねの言葉に対し、結婚はいずれ破綻すると返す現実主義者の冷たい言葉。ワルツは上手く踊れないからとはにかむ男の見送りにエレーヌは久方ぶりのときめきを感じる。

これまでシャブロル映画では、都会vs田舎の図式は度々登場したが、ここまでのど田舎はあまり例がない。現在はドルドーニュ県に統合された映画の舞台になった村には、13世紀から14世紀の間に建てられた歴史的建造物が数多く存在する。豊かな自然に育まれ、子供たちはすくすくと育っている。エレーヌは3年前にこの村に赴任し、以来3年間にも渡り校長先生の職に就き、村の子供たちに勉強を教えている。彼女は小学校の2階を間借りし、昼も夜も校長先生としての務めを果たす。そんな先生のお気に入りの生徒は、わんぱく盛りのプクプクとした男の子シャブロルである。結婚式で出された村の特産品であるペリゴール産のワインを味見する冒険盛りな少年を、エレーヌはメンターとして優しく導く。シャルルという名前は『いとこ同志』から度々使われたシャブロル映画の符牒に他ならない。『いとこ同志』において、主人公のシャルルが売春宿の隣の本屋で、店主に情熱まじりに伝えたバルザックへの思いは、エレーヌによって授業で幼きシャルルに教えられる教材となる。ポポールはあの結婚式以来、肉屋にとびっきりのネタが入った時、エレーヌに届けてくれるようになった。彼は肉屋の長男として生まれながら、父親の全てを憎み、15歳の若さで父親から逃げるように兵役に就いた。それから15年あまり、当然恋など出来るはずもなく、20代の盛りを過ぎた男は父親の死後、この村で唯一の肉屋の仕事を引き継ぐ。ポポールは明らかに現代で云うところのPTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状を抱えている。

冒頭垣間見えた結婚式の模様は、実に見事に種の継承のイメージを体現する。子供たちが元気にはしゃぐ姿には、都会への憧れなど微塵も感じさせない無邪気な生の営みが宿る。エレーヌはこの村の子供たちのメンターであり、同時に聖なる子供たちを未来に導く伝道師のような神々しさで子供たちを照らす。だからこそ当初ポポールは、ジダンのたばこを歩きながら吸うエレーヌの姿をギョッとするような表情で見つめたのである。子供たちと物々しい警察官、ニワトリと物騒な警察犬、牧歌的で伝統的な村の風景と殺人事件という対照的な構図を配置しながら、殺しは静かにやって来る。子供たちの無邪気な様子(聖のイメージ)を明らかにしながら、シャブロルはその聖の光景に俗悪な赤のインクを一滴垂らす。エレーヌが冒頭の鍾乳洞に遠足で来た時、中にはクロマニヨン人が描いたかつての文明の絵が記されている。その意味もわからないまま洞窟を抜けた未来の子供たち、彼女は休憩よと言ってペリゴール地方を一望出来る高台で食事を取る。シャルルの無邪気なちょっかいの後、静寂に包まれた空間に生徒と先生の問答が続く。「先生、雨だわ」「降ってないわ。青空よ」「赤い色の雨だわ」ギョッとするように振り返ったエレーヌの眼前に、タルティーヌの白いパン生地の上に真っ赤な血が滴るショッキングなショットが一度きり挿入される。シャブロルはこの僅か1ショットにエレーヌの絶望を集約する。クライマックス、シトロエンで街に繰り出した彼ら彼女たちの運命の前にあまりにも残酷な結末が用意される。青白い顔の男への最初で最後の口づけ。導入部分に村の青年が歌ったシャンソン『カプリ小さな島よ』の反復が胸を締め付ける。
「フランス映画の秘宝」特集で見た。
これは素晴らしい!
サスペンスだが、ホラーのように怖いし。
血が児童のお昼の弁当にポタッと滴るのサイコーー
小さな島を舞台にひとつしかない学校の女校長先生が主人公。たまたま同僚の結婚式である男と知り合うのだが、彼は戦争にいっていて、実家の肉屋を継ぐために故郷に帰ってきたばかりだった。ふたりは惹かれあうが、しばらくするとその小さな島で陰惨な殺人事件が起きてしまう……

横溝正史は人口が少ない村でミステリーをやるのは不可能だと語り、それの挑戦として『八つ墓村』を書いたと言われているが、この『肉屋』という映画もシチュエーションは一緒で、ミステリーというよりはどちらかというと「もしかしたら私が好きになりかけてる人が殺人犯かもしれない……」という疑心暗鬼を中心に描いていく。

同じようなことを書いてる人がいたが、まさにヒッチコックがやりそうなことをブレッソンのごとく、最小限のセリフと最小限の演出で紡いでいく。そういう作品。派手さは無いがリアルでキャラクターの内面が浮き上がってくるかのよう。

『不貞の女』もそうだったが、前半がややかっタルい。それを後半の対比として、緊張と緩和の緩和として使ってるんだと思うが、そのフリの長さを楽しめるかどうかで評価はハッキリと分かれるだろう。
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