【死を考える①】

※ ヨルゴス・ランティモス特集①

「アルプス」を先に観ていたからなのか、死を演じるとは想像の範囲でしかなく、それを少しでもリアルに近づけようとすると、死をギリギリのところまで追体験するといった（ある意味）狂気を孕んでいくということなのだろうかと思った。

ヨルゴス・ランティモスは人生は演じることと同義と言っていたらしいが、その究極のところを目指すのはどういうことかと考えたのだろうか。

ギリシャは、キリスト教のひとつギリシャ正教の国だが、もともとはギリシャ神話からわかる通り、多神教の国だ。
おそらく死に対する考え方や理解も他の国とは異なるのかもしれないと思ったりした。

アルプスとの二本立てで早稲田松竹のランティモス特集で鑑賞。

場内ほぼ満席でした。

まあ、噂には聞いてたので、無理にお話を追うことはせず、ひたすら映像を"感じる"ことに専念。

わけわからないけど、そんなに退屈はしなかった

本作は、ランティモスがリゾート地キネタを舞台に描く大胆で野心的な単独長編監督デビュー作。
　　
ギリシャのさびれたリゾート地。
男たちは命令を下し、女は従い、カメラは記録し続ける。
誰も怒らない。誰も笑わない。
感情は排除され、毎日、殺人事件の再現だけが繰り返される。

なぜ彼らはそんな不毛な“演技”を続けているのか？

ヨルゴス・ランティモスの『キネッタ』は、「自分を保つために“偽の秩序”にすがる人間」の物語だ。
そして精神科的に観ると、これはとてもリアルな「心の防衛のかたち」でもある。
　
　
　
◼️与えられた秩序は、壊れかけた心を支える“仮の骨組み”◼️
　
　
『キネッタ』の登場人物たちは、なぜか“型”に固執する。
・事件の再現という決まったプロトコル
・会話のない、マニュアル的なやりとり
・感情を交えずに、ただ“正しく”こなすことへの執念

これは、精神科で言う「秩序依存型の自己維持構造」に近い。
つまり、感情に触れると崩壊するような人間が、「型」や「手順」に依存して心を守っている状態だ。
　
　
　
◼️“秩序”を与えられると、人は安心する。だが——◼️
　
　
臨床でしばしば出会うのは、「自分で選べる」状況に強い不安を感じる人だ。
「こうしなさい」と言われた方が楽。
「選ばなくていい」「間違いがない」方が安心。

『キネッタ』の人物たちも、自ら作り上げた秩序の中でだけ、かろうじて安定している。

・誰が何をするか
・感情をどう切り離すか
・どこで終わるか

全てが“演出済み”であるからこそ、彼らは壊れずにいられる。
　
　
　
◼️だが、秩序が揺らいだ瞬間、人は崩壊する◼️
　
　
『キネッタ』の終盤、わずかに“決められていないこと”が起こる。
たとえば、死体役の女性が撮影以外の時間に“生活”を始める。
写真屋が自発的な行動を試みる。

それらは、ほんの小さな逸脱。
だが、この世界ではそれが“秩序の崩壊”に直結する。

精神科で言うならば、強固な構造に依存していた人が、それを失った瞬間、自己感覚が一気に崩れる現象だ。
　
　
　
◼️秩序は心を守るが、同時に“檻”にもなる◼️
　
　
『キネッタ』の人物たちは、不気味で無感情に見えるかもしれない。
だがその裏にあるのは、「感情を持ったら壊れてしまう」という切実な恐怖だ。

だからこそ、彼らは演じ続ける。
秩序を保ち、型に沿い、現実を“劇”に変換する。

だが秩序は、永遠ではない。
何かがほころび、壊れたとき、そこには“支えを失った心の破綻”が残される。

そして、それは私たちの誰にも起こりうることなのかもしれない。
　
　

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