ごんす

SHE SAID/シー・セッド その名を暴けのごんすのレビュー・感想・評価

4.3
大物プロデューサーのハーベイ・ワインスタイン。
彼が手掛けた作品の一覧などを見ると普通に映画を観る人なら何かしら必ず観ている作品がある。
そんな彼が行った最低最悪の悪事には吐き気がするが、しかし本作は彼を深掘りするような映画でもないし彼を追い詰めていく様なサスペンスも感じない。

観ているこちらはあくまでもその記事を出すまでの二人の記者の取材を見守ることしかできない。
そして気が付くと性暴力を振るった加害者の方が法によって守られるシステムが構築されていることが恐ろしい。

彼女達の取材を通して語られる被害者の言葉から人を支配すること、尊厳を踏みにじるということの残酷性がひしひしと伝わってくる。

キャリー・マリガンが主演しているし性暴力という言葉が頭から離れなくなる点で『プロミシング・ヤング・ウーマン』を想起させられる。
物語を使って完全に現実世界と地続きにある問題だと思い知らされるあの作品と本作はアプローチが全然違うけれど鑑賞すると今までと同じ自分ではいれなくなる所は共通。
性暴力について自分はそんなことしないからで思考を止めないことが大切だと感じる。
彼のように権力を持っていないからという話でもない。

この映画はワインスタインに迫りつつもワインスタイン自身を描き込んでいない所が良い。
取材がメインでどうしても台詞は多くなるし、字幕を読んでいるだけで反吐が出るような気持ちにさせられる彼の悪事。
こんなことする人ってどんな人だったの?という所は他者からの言葉のみで深く描かない。

加害者と被害者の立場でありながらこれは『プロミシング・ヤング・ウーマン』で被害にあったニーナの人となりをあまり描かなかったことに通ずる。
他の犯罪に比べて性暴力の被害者は生活態度を持ちだされたり「本人にも
責任はある」という最悪な表現を未だに耳にすることがある。
どんな人だろうが性暴力が許されて良いはずがない。

この映画で加害者であるワインスタインを強く描いてしまうとこんな悪魔の様な男が捕まって良かったと完結してしまう恐れがある。
映画が終わったと同時に今生きている自分達の話だと持ち帰るにはこの描き方が正しかったと思う。
ごんす

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