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夏の終わりの訪問者
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『夏の終わりの訪問者』に投稿された感想・評価

[リトアニア、かつての故郷、今はもう…] 80点

傑作。2025年カルロヴィ・ヴァリ映画祭コンペティション部門選出作品。リトアニア新世代の筆頭であるマリア・カフタラーゼやサウレ・ブリュヴァイテなどの作品で撮影監督を務めたヴィータウタス・カトゥクス(Vytautas Katkus)長編一作目。カフタラーゼは脚本に、ブリュヴァイテは端役として参加している他、ローリーナス・バレイシャも編集として参加しているなど、新世代の結びつきの強固さをクレジットからも見て取ることができる(まるでエル・パンペロ・シネのようだ)。8月の終わり、妻子のいるノルウェーからリトアニアの海辺のリゾート地にある故郷に、ダニエリウスは戻ってきた。父親の死後1年が経過したのをきっかけに、実家を売りに出そうと決意したのだ。葬儀には参加すらしなかったらしい彼が、この1年で変わったのは、新たに父親になったと言う事だった。映画は実家の整理をして売ろうとしながら実家の周りをウロウロするダニエリウスの何気ない日常を追い続ける。ダニエリウスの行動は、部屋をさっさと売りたい人間にしてはノロノロしているし、売りたくない人間にしてはサッパリしている。それが故郷への距離感なのだろう。もう二度と"戻る"ことが出来ないという静かな諦めにも似た感情の発露かもしれない。その寂しさや孤独感は、オフシーズンで客が少ないが、まだ海には入れるという短い時間の寂しさにも似ている。やがて、彼はかつて彼を育てたコミュニティと繋がりを取り戻し、まるで長年ここにいたかのような別の人生を少しだけ歩いてみる。すると、映画はダニエリウスから視線を外し、彼を見ていた人々、向かいの部屋の少年トマスや上階の幼馴染ヴィスマンテとその父親などの物語をも語り始める。それはふとした瞬間にダニエリウスの人生と交わり、或いは交わらなかったりする。彼らの人生はダニエリウスがずっとここにいたかのように進み、ダニエリウスの孤独を包み込む。ダニエリウスが父親との繋がりを取り戻すように、ヴィスマンテの父親と関係を深めていくシーンは本当に美しかった。

かなりの頻度で異様な角度の変な眼差しが挟み込まれるのは、監督が撮影も担当しているからだろうか(『トクシック』とほぼ一緒なショットも登場)。特にベランダから下の部屋のベランダにいる新入居者の若夫婦と歌で会話するシーンの、もうダニエリウスが戻らないことが決まった先に新しい日常が始まる瞬間は素晴らしく輝いていた。
Rin
-
夏のエッセンスを純粋培養したような映画。夏って四季の中で最も実在感がなくて、リアルタイムで体感するよりも記憶の中で実感する季節だと思う。例えば冬は実時間の生活と結びついてその瞬間瞬間に感じられたりするけど、夏は仄かな非日常感があるせいか、思い返してはじめて「あの時は夏だった」と認識することが多い。私だけかな。からだと直接つながってなくて、記憶と一緒に客体化されることで輪郭を現す概念というか。夏が舞台というだけじゃなく、この映画の曖昧な虚実や時間軸、そして肉眼の視線から離れた所在なさげなアングルのショットはこれ以上なく夏の在りようだった。良い映画でした。
3.5
【空間と繋がりの曖昧さ】
EUフィルムデーズが始まったので、気になっていたリトアニア映画『夏の終わりの訪問者』を観た。上映後に字幕を担当された上條葉月氏によるトークショーで『トキシック』の撮影監督の作品だと知り、この奇妙な撮影に納得がいった。

ゆるいバカンス映画かと思いきや、いきなり地味ながらもエゲつないカメラワークが展開される。部屋から男女が右へとはけていく。しかし、左側、僅かに見える鏡から死角となった右側が筒抜けであり、この狭苦しい鏡でもって対話の運動が描かれるのである。30代半ばの中年男性ダニエリュスは実家のマンションを売却しに故郷へやって来る。映画は寂れたリゾート地の祭と部屋を往復することとなる。部屋は親密なる場のクリシェとして使われるのだが、そのアプローチは独特であり、生きているような死んでいるような空間、公私の境目が曖昧となった空間として用いられる。つまり、ペドロ・コスタ『ヴァンダの部屋』に近い活用のされ方をしているのだ。リゾート地も親密な場のようでどこかギコちない。景品の気球を手に入れる場面も手に入れるやふくらみを潰してしまうし、不自然なマーヴィン・ゲイへの言及などが行われるのだ。また、演出も時折夢のようなものが挿入され、小島に進出する子どもたちや放置された赤ん坊をランティモス映画的ダンスで取り囲む。ストーリーも曖昧なのだが、そのアンニュイな映像詩が遅効性の面白さを生み出していく。中年の危機だろうか、自分の拠り所を失った存在が彷徨いながら群から群へと移動し、世界の外側に囚われている。バカンス映画でありながらも悪夢のような世界観、でも露悪的な悪夢に陥らないニュートラルな感情を捉えた映像に惹き込まれた。

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