レコードにゆっくりと置かれたカートリッジ、Wanda Jacksonの『Funnel Of Love』は流れ出し、ターンテーブルは45回転で静かに回り出す。まどろみの奥では、アダム（トム・ヒドルストン）とイヴ（ティルダ・スウィントン）の真上からの俯瞰ショットも静かに回り出している。やがてレコードが終わると、2人はほぼ同時刻に起き、窓の外の景色を眺める。アダムは財政破綻した街デトロイトに潜伏しながら、アンダーグラウンド・シーンでカリスマ的な人気を誇る伝説のミュージシャンとして活動していた。イヴは16世紀末に死んだとされる異端の作家クリストファー・マーロウ（ジョン・ハート）の庇護の下、モロッコのタンジールに滞在していた。彼らは有に数百年の時を生きる吸血鬼の生き残りで、アダムとイヴは数百年のロマンスを続ける恋人同士だった。O型RH-というレアな血液だけが、彼らを生き永らえさせる。アダムは必要な物の多くはイアン（アントン・イェルチン）という男に調達を依頼。時折、素顔を隠してワトソン医師（ジェフリー・ライト）の病院を訪れ、密かに血液を入手していた。イアンに頼んだ木製の銃弾、死期を悟った男の元に、タンジールから夜行便で最愛の女イヴがやって来る。

　21世紀に生きる吸血鬼たちは、血液をマリファナのように闇で売り買いし、みだりに人を襲わない。青白い顔をした夜行性の彷徨者たちはそれぞれが地球上で人間たちの為に創作意欲を燃やし合う。ティルダ・スウィントン、トム・ヒドルストン、ジョン・ハートという英国俳優のトライアングルは聡明で気品さえ溢れる。タンジールからデトロイトへの長旅、距離や時空さえも軽々と超えるヴァンパイアのバイタリティは、ロサンゼルスからイヴの妹エヴァ（ミア・ワシコウスカ）が2人を訪ねて来たところから歯車が狂い始める。87年前にパリで起きたある因縁、マーロウが見たLAで堕落し生きるエヴァの夢、聡明な姉イヴとは対照的な破天荒なファム・ファタールを演じたミア・ワシコウスカの危うさが素晴らしい。ヴァンパイアとして生まれた宿命を背負い、ひっそりと生きるカップルは自由奔放なエヴァの登場で人生の危機に直面する。ブラウン管テレビとi-phoneによるSNS的繋がり、2人がフル充電で車を走らせたデトロイトの夜景は、21世紀の夜間撮影の魔術師の異名を持つヨリック・ル・ソーの手で美しく生まれ変わる。ステーヴィー・ダラス（!）とデイジー・ブキャナン（!）という偽名で国境を渡る2人の行方、ひっそりと生えたベニテングダケ、レバノン人のヤスミンの美しい歌に魅了された2人がカフェ千夜一夜で目の当たりにする吸血鬼の生と死。地下に生きるヴァンパイアたちの純愛物語は、狂おしく残酷で儚くも美しいメロディを奏でる。

【ヴァンパイア映画のススメ】
『オンリー・ラヴァーズ・レフト・
　アライヴ』(2013)

◆本作のポジショニング
ヴァンパイア← (恋愛) → ヴァンパイア
　↓
(軽蔑)→人類

〈見処〉
①芸術派監督ジャームッシュが描く、
　ヴァンパイア同士の果てなき恋愛！
・『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』(「生き残ったのは恋人だけ」)は、2013年に製作された恋愛映画。
・本作の舞台は現代のデトロイト。吸血鬼でありながらミュージシャンとして活躍するアダム(トム・ヒドルストン)は破滅的な人間たちに憂いを感じながら、密やかに生活していた。
・そんなある日、何世紀にも渡る恋人である、吸血鬼のイヴ(ティルダ・スウィントン)と久しぶりに再会。しかし、イヴの妹エヴァ(ミア・ワシコウスカ)が2人のもとを訪れたことをきっかけに、3人の運命がゆっくりと変わっていく…(eiga.comより抜粋)。
・本作は『ストレンジャー・ザン・パラダイス』『ナイト・オン・ザ・プラネット』の芸術派監督の雄、ジム・ジャームッシュによる本作は、資金調達に苦戦し、脚本化から製作開始まで７年を要した意欲作品。第66回カンヌ国際映画祭ではコンペティション部門で上映され、パルム・ドールを争われた。

②結び…本作の見処は？
まるで『トワイライト』の二人の500年後の姿？
○: 延々と続く退廃的な日常のなかで、生の欲望を見出だしていく異色の人間ドラマ。作品の抑揚がなく退屈に感じるであろうが、何度も鑑賞を繰り返すとクセかななりそうな作風。
○: 本作のヴァンパイア設定は「血液を食料としていること」「夜の描写だけであること」「途方もなく長寿であること」だけ。吸血シーンのない稀有なヴァンパイア作品として、オリジナリティは高い。
○: アダム役のトム・ヒドルストン(本作公開時32歳)とイヴ役ティルダ・スウィントン(52歳)のマーベルシネマ俳優同士の「年の差」カップル。キャラクター設定(アダム: 500～600歳、イヴ:2000歳)に沿った絶妙のキャスティング。
▲: スリル・バトル・アクションを期待の人には、相応しくない作品。

• #ヴァンパイア映画のススメ

『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』
原題 Only Lovers Left Alive.
(今作品は、1964年のデイヴ・ウォリスのSF小説で、ローリング・ストーンズの映画企画として実写化が検討された1970年代、ニューヨーク大学の大学院生だったジム・ジャームッシュを指導したニコラス・レイが監督したタイトルと同じ。)
映倫区分 G.
製作年 2013年。上映時間 123分。
ジム・ジャームッシュの監督作。
ミュージシャンと吸血鬼を題材に描くラブストーリーで、トム・ヒドルストンとティルダ・スウィントンが、孤独な宿命を背負った吸血鬼のカップルを演じた。
共演にミア・ワシコウスカ、ジョン・ハート、アントン・イェルチン。
アメリカ・イギリス・ドイツ合作。

吸血鬼でありながら、マルチミュージシャンとして活躍するアダムは、自己破滅的な人間たちの振る舞いを憂えていた。
そんなある日、何世紀にもわたり愛し合ってきた恋人で、吸血鬼のイヴと久しぶりに再会。
しかし、イヴの妹エヴァが2人のもとを訪れたことをきっかけに、3人の運命がゆっくりと変わっていく。
(今作品ヴァンパイアちゅう言葉を一切使わないヴァンパイア映画でありながら、ヴァンパイアが普通の人を指す言葉として『ゾンビ』という言葉を頻繁に使っているユニークな面がある)

ジム・ジャームッシュの描くヴァンパイア作品は、他のヴァンパイア映画とは違うということは分かっていた。
実際、今作品をヴァンパイア映画として分類するのは不親切かもしれない。
今作品は、偉大なロックンロールとヒッピーの時代の終焉を嘆く、高度に様式化された雰囲気のある作品でした。
万人向けではないかもしれないけど、その味を覚えた人なら気に入る可能性大かな。
個人的には好みのジム・ジャームッシュの面白味の今作品。
他のどのヴァンパイア映画とも違うが味でした。
アート系映画ファンのためのヴァンパイアとも云えますし、スマートで面白く、セクシーな夜の生き物と表現したらいいかなぁ（全編が夜で、昼間のショットは1つもない）。
ジャームッシュは、孤独な二人が互いを唯一の慰めとして、永遠に一緒にいるか、どちらかが杭や木製の銃弾を心臓に受けるか、『悪い血』を飲むまで一緒にいる運命にある、ちゅう奇作を創り上げたと思います。
アダム（背が高く、ダークでセクシーなトム・ヒドルストン）とイブ（魅惑的なティルダ・スウィントン）は、何世紀もの間、何度も結婚していたようだが、別々の人生を送っていた。
名前の語尾のトンもしゃれてるように響くトン。
脚本によると、イブは推定2,000歳で、ケルト族のドルイドの家長だったそうです。
アダムは推定500〜600歳。
脚本・監督のジム・ジャームッシュは、アダムとイブはお互いの本当の年齢を知っているだろうと判断し、今作品でそれを述べる理由はなく、単に登場人物の年齢をキャスト陣に伝えただけだと主張しました。
また、アダムとイブがドルイド教(霊魂の不滅を信じ，主神を中心にして系統づけられた動植物や天空の自然神を崇拝)とのつながりについても示唆されてる。
彼はデトロイトで引きこもりの音楽家として、彼女はタンジールでもう一人の古いヴァンパイアと友達として暮らしていた。
彼はクリストファー・マーロウ（そう、あのクリストファー・マーロウ）であり、ジョン・ハートが目を輝かせて演じている。
イヴが夜間飛行でデトロイトのアダムを訪ねたとき、（飛行機で、何を期待したのか、コウモリの翼か）イヴのセクシーな妹（素晴らしいミア・ワシコウスカ）が、牙を隠しきれずに大混乱に陥った。
ジャームッシュ監督に期待するように、今作品は面白く、知的で、常軌を逸している。
トム・ヒドルストンは非常に洒落たコメディアンであることを証明し、ティルダ・スウィントンは永遠に続くとわかっている人生からできる限りのことをするイヴを見事に演じていました。
個人的にはジム・ジャームッシュの味にはかなりクセになってます。
今作品にはロックと文学、ヴィンテージ・ギター、年代物の機材、レコード、ポートレート、家具、骨董品の数々など、拘り抜かれた美術が見所とも云えます。
文学少女タイプのイヴは、モロッコのタンジールで無数の古書に囲まれて過ごす。
友達になりたいし、所蔵の書物を読ましてほしい。
少しの血液なら提供する覚悟はあるかな。

また、デトロイトのアダムの部屋の壁面には、また、各時代の芸術家らのポートレートが飾られてる。
ざっと記載すると、

歌劇の作で知られる19世紀のドイツの作曲家リチャード・ワーグナー、　

アメリカの画家でグラフィティ・アートをモチーフにした作品で知られるジャン・ミシェル・バスキア、個人的に彼の作品レプリカを小生も部屋に飾ってる。
ニューヨークのオークションで、アメリカ人作家の作品としては過去最高額の123億円で作品を競り落としたのも日本人（前澤友作・前ZOZO社長）のニュースも記憶に新しい。

シュルレアリスムの巨星マックス・エルンストとと、彼と30余年過ごした、女流画家ドロテア・タニング、

フランス生まれの美術家マルセル・デュシャン、
19世紀中期から20世紀中期の電気技師、発明家ニコラ・テスラ、

これ以降は経歴は所々割愛🙇。
アイザック・ニュートン、

クリストファー・マーロウ（この映画ではジョン・ハートが演じてる）、

イギリスの詩人、画家、銅版画職人ウィリアム・ブレイク、

嗚呼、親愛なるフランツ・カフカ、小説『変身』など映画化もされてるが難解な作品が多い。
個人的には、アルベール・カミュー関連から彼を知り、こよなく愛してます。

昔良く読んだエドガー・アラン・ポー、小説家として知られてるが、詩詠んでて、音楽的諧調を重視した耽美的な詩はすばらしい。
個人的には小説家兼業で詩を詠むのはビクトル・ユゴーの次にポーがすき。

マーク・トウェイン、彼は『トム・ソーヤーの冒険』の原作者としてしられてる。
人生で必要なものは無知と自信だけだ。
これだけで成功は間違いない。
と名言を吐いてたなぁ。

アメリカ合衆国の小説家ウィリアム・S.バロウズ、ビート・ジェネレーション(第二次世界大戦後のアメリカ合衆国の文学界で異彩を放ったグループ)を代表する作家の一人やったかな。

オスカー・ワイルド、耽美的・退廃的・懐疑的だった19世紀末文学者といやぁこの人かな。

ゴシック小説『フランケンシュタイン』の原作者で知られるメアリー・ウルストンクラフト・シェリー、

ジャーナリスト、作家、活動家のナオミ・クライン、

思想家・評論家・作家等様々な分野で広く活躍したスーザン・ソンタグ、『暴力を嫌悪すること。国家の虚飾と自己愛を嫌悪すること。』って彼女の言葉が好き。

不条理演劇っていやぁアイルランドの劇作家、小説家、詩人サミュエル・ベケット、

『高慢と偏見』とか映画化もよくされてる作家のジェーン・オースティン、

エミリー・ディキンソン、

尊敬するフランスの詩人アルチュール・ランボー、

イギリスのロマン主義の詩人ジョン・キーツ、

これまた尊敬するフランスの詩人チャールズ・ボードレール。

ペルシャ語文学史上最大の神秘主義詩人とも云えるジャラルディン・ムハンマド・ルーミー、

アメリカインディアンのラコタ・スー族のオグララ族に属するハンクパパ族の戦士、呪術師シッティング・ブル、

同じくネイティブアメリカンのブラックエルクとジェロニモ、

パンク・ロックバンド『ザ・クラッシュ』のボーカル兼ギタリストジョー・ストラマー、

伝説的なブルースシンガーロバート・ジョンソン、

クイーン・オブ・パンク・パティ・スミス、

Fenderテレキャスと云えば個人的に思い浮かぶクリッシー・ハンデ、

カントリー界のカリスマかなハンキー・ウィリアムス、

コウモリ齧っちゃうし死んじゃうんやのジミ・ヘンドリックス、

レディ・デイことビリー・ホリデイ、

モダンジャズを代表するサックスプレーヤーでジャズ界なら巨人やねジョン・コルトレーン、

ジャズ・ピアニストのセロニアス・モンク、

音楽の父尊敬してまっせのヨハン・セバスチャン・バッハ、

ドイツ歌曲(リート)の王フランツ・シューベルト、

交響曲と歌曲の大家グスタフ・マーラー、

最も優秀なイギリス人の作曲家の1人ヘンリー・パーセル、

映画監督、脚本家、俳優のニコラス・レイ、

フランスの映画監督クレール・ドゥニ、

フィンランドの映画監督・脚本家・編集者・プロデューサーのアキ・カウリスマキ、

スペイン出身、のちにメキシコに帰化した映画監督、脚本家、俳優のルイス・ブニュエル、

オランダ出身の撮影監督のロビー・ミュラー、

オーストリア出身の映画監督フリッツ・ラング、

截拳道の創始者ブルース・リー、

チャールズ・チャップリン、ハロルド・ロイドと並び『世界の三大喜劇王』ことバスター・キートン、

コメディアン・俳優・声優ロドニー・デンジャーフィールド、

オーストリア・ウィーン出身の女優・発明家で1930年に女優としてデビューし、1933年の『春の調べ』で全裸シーンを披露したへディ・ラマーなどなど。

と、まぁ視聴者の多くのが数人は目に止まるはず。
このポートレートを見るだけで、個人的にはぞっこんになりますし、多分話し始めたら一人一人話はつきない芸術家だし、アダムの話を聞いてみたい、きっと楽しいだろうなぁと。