symax

ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイのsymaxのレビュー・感想・評価

3.4
"曲を封印しろって…"
"あんたの孫は、『奇妙な果実』を歌うよ…"

"ビリー・ホリディを止めろ!"
1947年、公民権運動の黎明期、人気絶頂にあった黒人ジャズ・シンガー"ビリー・ホリディ"…

虐殺され木に吊るされた黒人の死体を果実として例え、人種差別を告発したビリーの代表曲"奇妙な果実"は、"レディ・デイ"の唯一無二の歌声と相まって、人々を惑わせ誤った方向へ向かわせてしまうと考えた政府は、あらゆる手段でビリーを破滅させようとしました。

政府の命を受けた麻薬捜査局長官のアンスリンガーは、ヘロインの常用者であったビリーを逮捕すべく秘策を練るのです…しかし、逆境に追い込まれる度にビリーのステージは輝きを増していきます…一方でビリー自身は薬物・アルコール・そしてどうしようもない男どもによって、その身はボロボロに…

不出世の天才ジャズ・シンガーであるビリー・ホリディの壮絶な生き様を見せつける本作…自身は公民権運動に積極的に参加していた訳ではありませんが、"奇妙な果実"を歌う事によって、公民権運動を鼓舞したシンボル的な存在であったのではないのでしょうか?

ビリーの生い立ち、麻薬や酒、そして関わる男…全てが壮絶で、作品の印象も非常に重いのです。
また、劇中ビリーがワザとダメな方ダメな方と自ら破滅に向かうかのような選択をしてしまう姿が居た堪れなくなります。

姑息な手を使う麻薬捜査局を始めとして、出てくる男どもがどーしようもないクズばかりで、こういった伝記物って、どーしてこーなんでしょうか?"リスペクト"もそーだったような…本当に辛くなります…

ですが、全編に流れるビリーを演じるアンドラ・デイの歌声は凄まじく、ビリーが乗り移ったかのような出立ちは素晴らしいの一言です。

劇中、アンドラが歌う数々の名曲は鳥肌モノに凄いです…これは音の良い映画館での鑑賞をオススメします。

ただ、ストーリー展開がややごちゃごちゃしていて、今一つ物語に入り込めない部分があるのは、ビリーの人生というよりも人種差別がテーマのメインとしてあるからかもと思える部分がチラホラ…

アメリカにおける黒人差別は、作品内でも説明されていますが、リンチ法が今もって議会を通過しておらず、人種差別的事件が今だに起こっているところからも、1940年代から全く変わっておらず根が深いのだと痛感させられるのでした。
symax

symax