チリのサンティアゴで開かれている子ども映画教室を撮ったドキュメンタリー。
貧しい町のカトリック教会で、5歳から12歳までの子どもたちが半年間、毎週土曜日に映画の仕組みや歴史を学んでいく。
映画のタイトルは、19世紀の終わりに映画が誕生した時、人類が初めて見た作品の一つ、リュミエール兄弟の「列車の到着」に由来する。
原題/Cien niños esperando un tren
(1988、57分)
女性教師のアリシア・ヴェガは大学で映像論を長年教え、チリ映画史の調査著作もある映画研究の第一人者で、1985年からこの教室を始めた。
「映画に行ったことある?」
初めの問いに、ほとんどの子どもたちは「一度もない」「全然ない」と答える。
子どもたちが相手とは言え、アリシアさんは、授業の質を落とさない。
「今日は、この「ソーマ・トロープ」を作ります。ギリシア語で不思議な回るものという意味よ」と、実際に初歩的な装置を手作りさせて、視覚の残像について説明するといった具合…。
舞台になった「ロエルミーダ」は、ちゃんとした水道やガスもない所もあり住宅地とみなされていないから、地図にもない「ぺプラシオン」と総称される貧困地域(地図上の空白地帯)の一つ。空白地帯はサンチアゴの人口の約6割にもなる(当時。今は?)。
「大学で20年間、映画を教えるうちに、貧乏で学校へも映画へも満足にいけないような子どもたちにこそ教えたいと思ったの。この国では子どもたちが一番辛い目にあっているから」
- アリシア・ヴェガ-
子どもたちが、共同作品のテーマを選ぶ場面があり、候補になった「冬」「夏休み」「プロテスタ(デモ)」の中から圧倒的多数で」「プロテスタ(デモ)」が選ばれる。
この映画は、ピノチェト将軍による軍事独裁政権下で作られ、大統領の信任を問う国民投票が予定されている年に公開された(国民投票に敗れたピノチェトは
翌年の大統領選挙にも敗北して、軍政は終わる)。
イグナシオ・アグエロ監督によると、政府への批判を狙ったものではなかったが、公開時、21歳未満は入場を禁止された。
この映画の魅力は、靴や学用品などを買うために普段働いて映画を見たことのない子どもたちが生き生きと勉強し、自分や家族の生活を語る姿と表情。
そして、アリシア・ヴェガさんの真剣な教え方(子どもへの向き合い方)。
私は子どもじゃないけど、こんな映画教室があるなら、ヴェガさんの授業に参加したいな。
「子どもたちは自らの想像力をひきだし、この世でかけがえのない存在だということをつかみとっていきました」
-アリシア・ヴェガ-
なお、子どもたちに見せた映画は
「列車の到着」、ローレル&ハーディのコメディ(タイトルは?)、✳️「赤い風船」、ディズニー映画(「蒸気船ウィリー」かな?)、
✳️「カオス・シチリア物語」、「チャップリンの勇敢」など。
(✳️お勧めです)