玄海つれづれ節の作品情報・感想・評価・動画配信

「玄海つれづれ節」に投稿された感想・評価

tak

takの感想・評価

3.2
吉永小百合主演の「玄海つれづれ節」を初めて観たのは大学生の頃だった。渡辺淳一ものの某映画と二本立てで「天国の駅」を観た僕は、一夜にして"サユリスト"となってしまう。そして吉永小百合の新作というだけで「玄海つれづれ節」の前売り券を買って公開に備えた。あの頃、前売り券まで買って日本映画を観る、なんて行動をとるのは、角川映画かアニメ映画くらいだった気がする。かなり珍しい行動だった。

もちろん吉永小百合と八代亜紀の大活躍で楽しい映画である。 でも、あの頃「玄海つれづれ節」を観て強く印象に残ったのは、他ならぬ若戸大橋だった。幼い頃からなーんとなく北九州地区には関心があった。それは松本零士の出身地があること、五木寛之の「青春の門」を夢中で読んだこと、そして東洋一と言われた立派な橋があるんだと父親から聞かされてきたこと。当時、まだ北九州に足を踏み込んだことがなかったので、若戸大橋をちゃんと観たのは実は「玄海つれづれ節」が最初だと記憶している。洞海湾に架けられた真っ赤な橋。そこを闊歩するヒロインのイメージは僕の中に強く刻み込まれた(注・現在は歩いて渡ることはできません)。

少し前に北九州市若松区のロケ地マップを作成するお手伝いをしたことがあって、久しぶりに「玄海つれづれ節」を観た。この映画をひと言で表現するならば、気丈なヒロインが活躍する人情喜劇ってとこだろう。でもこの年齢で改めて観ると気づかされることがある。

ひとつは、この映画に込められた強い映画愛。劇中、銀映館という古い映画館が登場する。その経営者である元俳優を演じているのは、かつて時代劇スタアだった伏見扇太郎。この作品が実に30数年ぶりの映画出演だったそうだ。公開当時の80年代末期"斜陽産業"などと言われた映画業界。地方の小さな映画館主を、東映時代劇の全盛期を支えた人物が演じているなんて、リスペクトを感じずにいられない。また、劇中その銀映館は解体されるのだが、この建物は実際に若松区にあった映画館。「ニューシネマパラダイス」同様に、映画館が壊される映画にはいろんな意味で泣かされる。

もうひとつ気になったのが、主人公の女性二人をとりまく男たちだ。前述の伏見扇太郎もそうだが、今の自分の年齢で見ると男たちに共感できるところが随所にある。まずは
「30年来の思いを叶えさせてくれよ~」
と吉永小百合に迫る風間杜夫。情けない男やなぁ、とあの頃は思って観ていたけど、改めて観ると彼の懸命さと報われない思いが実に切ない。3人だけの同窓会の席に、岡田裕介(プロデューサー)が復縁を申し入れに来る場面の、風間杜夫の真剣な表情。映画のラストに思いを遂げられずに「ごめんね」と言われる場面もいいね。愛すべきダメ男。

一方、地元の実力者を演じた三船敏郎がやたらかっこいい。初めて観たときは大御所を脇に据えてるなという程度しか思っていなかった。しかし、産業と街を支えてきた男の自信と信念が感じられて素晴らしい役柄。若戸大橋の上で、
「この橋を架ける時には多くの人が反対しやがった。でもこうして車もたくさん走るようになったじゃないか」
と語る場面。かつて石炭の積出港だった頃から、若松という街はこうした男達に支えられてきたところなんだ、と思うとグッとくるのだ。
旅は道連れ世は情け。
吉永小百合、風間杜夫、八代亜紀という僕にとって最高のキャスト。また九州に行きたいなあ。主題歌もグッド。ただ、浜辺で正座のシーンだけ感性が合わず。