ベルサイユ製麺

STAR SAND 星砂物語のベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

STAR SAND 星砂物語(2017年製作の映画)
3.3
星の形の抜き型で、ランチパック(メンチカツ)を星型に抜き続ける男。見た目は某ECサイトの社長に似てなくもない。
“星型サンドイッチ!インスタ映えバッチリ!!”
冴えた考えだと思えたが、一つ750円という強気の値段設定の為か一向に客が寄り付かない。見た目も良くない。ただの星型の食パンだ…。
「どいつもこいつも食いもせず写真ばっか撮りゃーがって、バエル!バエル!ってバカじゃねーのか!」と不恰好に型抜きされた“スターサンド”を床に叩きつけると、一瞬辺りが光に包まれてモウモウと黒い煙が立ち込める。
ひどい瘴気と吐き気を催す轟音に包まれて、“カエルやネコ、男の顔などが溶け合い絡み合った姿”の怪物が現れた。
カエルの眼が蠢き、猫の口はゆっくりと開く。
《《《我が名はバエル。》》》

…とか、そんな話じゃないです。


(単に情弱なせいですが)全く知らない邦画に出会うとワクワクします。事前に良いとか悪いとか聞かずに鑑賞に臨めるのが嬉しいのです。
タイトルはそのまま“星の砂”の事のよう。パッケージアートが印象的で、監督はなんと外国人です。モーリー・ロバートソンみたいな?

1945年、太平洋戦争も佳境、米軍が沖縄に上陸。…そこから遠く離れた小さな島。透き通る美しい海に素潜りし星の砂を集める少女、ウメノ16歳。
砂浜を散策中、岩場で人影を見かける。こめかみに小銃をあてた兵士?を日本兵?が組み伏せその銃を奪う。兵士はそのまま気を失ったようだ。
岩場の洞窟に潜む、脱走した若い日本兵イワブチ。同様に米軍から脱走して島に流れ着いた米兵ボブ。ウメノは出自の関係で英語を話せ、また持ち前の柔らかな雰囲気のおかげもあって、ボブとウメノ、ウメノとイワブチは直ぐに打ち解け、やがて洞窟に隠れるボブとイワブチのところにウメノは足繁く通うになります。

…という辺りで前触れなく舞台は現代。
女子大生のホサカ(やや無愛想でラフな雰囲気)が教授に卒論のテーマの相談を持ちかけたところ、沖縄の歴史に関する書籍を勧められる。

再び1945年。島。イワブチにこっそり食糧を分け与えていた彼の親戚が島を離れる事になり、食糧はウメノが届ける事になった。また、重い怪我を負ったイワブチの兄も洞窟に匿う事になるのだが…。

再び現代。ホサカは教授の勧めで“洞窟で死んだ少女の日記”を読む事に。

1958年
島の洞窟 。米中尉 が日記を発見…

ストーリーは概ね二つの時代を行き来して語られます。過去パート、戦場から遠く離れた島の出来事なので、戦闘描写などはありません。二つ国から逃げたもの同士の心の交流と、ウメノの仄かな恋心を中心に繊細で素朴なタッチで描きます、が…。
現代パートは基本的には大きな出来事が起こらずお話のブリッジとしての機能が主です。後半から締めにかけて現在の物語も動き出します。
どちらのパートも共通してタッチはとにかく素直で、かといって甘っちょろいって事もなく、万人に受け入れ易いバランスだと思いました。
反戦メッセージが主であるのは間違いないのですが、もっと根本的な人間同士の触れ合いのお話です。戦時のリアルとは程遠いのかもしれませんが、重大な事実誤認を流布するような物で無い限りは、戦争映画の語り口は多彩な程良いと思います。
個人的には、物語の優しさや役者陣の魅力、島の侘しい風景など相まってなかなかに気に入りましたが、なんとなくキネマ旬報のクロスレビューでは★2、3個が並んだのではないかな?なんて想像してしまいます。でも、間違っている、良くない映画じゃ無いと思う。ただ薦め方は思いつかない…。

ウメノ役の織田梨沙さん、新人なのかしら。凄く佇まいに魅力があります。俄然注目。
イワブチ役、満島慎太郎さん。確実に怪物の血が流れているのが感じられます。物凄く重要な役者になると確信してます。
ボブ役、ブランドン・マクレランドさん。レスリングそこそこやれそう🤼‍♂️
それと、現代パートの女子大生ホサカ役の女の子!演技は覚束ないけど、顔が綺麗だし、磨けば光るのでは?とか思ったのですけど、この方、吉岡…里帆さん…ですか。あー、まあ演技というか、現代の日本人のコミュニケーション不全性を幾重にも織り込んだ巧みな役づくりが、なんだ、あの。…きっとレスリングそこそこやれるんじゃないかな🤼‍♀️

観て損とか徳とか無いですし、為になるとかも言い切れません。でもこの空気感にめちゃくちゃハマる人もいる気がするのです。自分は観て良かったと思いましたよ!