同じ記憶
雨、あがったんだね。同じ朝のやり取りは続く。
自分だけが記憶を積み上げていくとしたら、自分の時間だけが進むことがないとしたら。
原作を読んでからの再鑑賞。しっとりした時間にうっとりした。…
記憶。
視覚、聴覚、味覚、触覚。
記憶はとても美しく、時に残酷。
いい思い出も悪い思い出も鮮明に覚える。
覚えておきたい思い出も、そうでないものも、心の奥底に残るか消えるかはだれも予想できない…
親しくなりきる前の段階で関係性が固定されてしまったふたり。
記憶が毎朝リセットされてしまうから、これから毎日いっしょに過ごしたとしてもこれ以上深い関係にはなれない。
その現実に少しずつ疲弊していく様…
宮下奈都・文藝春秋