「それ前にも言ったよね」
記憶以前の話で普段友人との会話でもこんな台詞は珍しくない。
敢えて言わない優しさってのもある、と学びにもなった。
特に行助が足を引きずっている理由…わざわざ過去を追及しない…
記憶。
視覚、聴覚、味覚、触覚。
記憶はとても美しく、時に残酷。
いい思い出も悪い思い出も鮮明に覚える。
覚えておきたい思い出も、そうでないものも、心の奥底に残るか消えるかはだれも予想できない…
親しくなりきる前の段階で関係性が固定されてしまったふたり。
記憶が毎朝リセットされてしまうから、これから毎日いっしょに過ごしたとしてもこれ以上深い関係にはなれない。
その現実に少しずつ疲弊していく様…
宮下奈都・文藝春秋