リル・バック ストリートから世界への作品情報・感想・評価

リル・バック ストリートから世界へ2019年製作の映画)

LIL BUCK REAL SWAN

上映日:2021年08月20日

製作国:

上映時間:85分

「リル・バック ストリートから世界へ」に投稿された感想・評価

@試写
 写真を見てもらえれば、リル・バックがいかに驚異的なダンサーかがうかがえるだろうか。
 ポイントは足元のスニーカー。彼は「爪先から本当に血が流れて靴から滲み出るまで、毎晩ダンスを練習した」と振り返っている。
 アメリカ合州国テネシー州メンフィスのストリートから生まれた「ジューキン」と呼ばれるダンス。ルーツになった舞台はローラースケート場。そこに集う少年少女たちが、スケート靴を脱いでもローラースケートで滑るように踊ったのだ。

 リル・バックは1988年、シカゴ生まれ。母親はパートナーから暴力を受け、2つの仕事を掛け持ちして働いていた。8歳でメンフィスに引っ越す。ダンスが好きでいつでもどこでも踊っていた彼は、よそ者で学校ではいじめられてもいたという。
 メンフィスは19世紀には奴隷の大市場が開かれ、白人の比率が80%近いテネシー州にあって、アフリカ系アメリカ人が60%以上。1968年、ストライキの応援に訪れたキング牧師が暗殺された地でもある。リル・バックのような少年がドラッグにはまったりギャングの一味に加わったりしても不思議はなかった。が、彼にはダンスがあった。やがて彼は、メンフィスの少女少年たちに本格的なバレエを教えるカンパニーのレッスン生になり、その芸術監督の導きで「瀕死の白鳥」をだぶだぶのTシャツにズボン、もちろんスニーカー姿で踊った。

 2011年、その動画に目をとめた世界的なチェロ奏者ヨーヨー・マに招かれ、リル・バックは彼のパーティで彼の演奏で「白鳥」を踊った。そこに居合わせた映画監督スパイク・ジョーンズが携帯で撮影した動画をYouTubeにアップ。これが彼を世界の檜舞台に連れ出した。

 サンサースの名曲がアンナ・パブロワのために振り付けられた「瀕死の白鳥」(1907年初演)は、3分間にプリマの生きてきた人生そのものが凝縮されるような演目だと言われる。本作ではリル・バックがヨーヨー・マの伴奏で中国・北京の舞台で「白鳥」を踊ったかと思えば、メンフィスのだだっ広い駐車場でも踊る。後者は彼に実にふさわしい舞台で、彼ならではの「白鳥」はまぎれもなく現代を象徴するひとつの芸術だと感じられる。

 監督はダンサーで振付家のバンジャマン・ミルピエと仕事をしているときにリル・バックに出会った。ミルピエは1994年ローザンヌ国際バレエコンクールでの受賞を経てニューヨーク・シティ・バレエ団に参加、2002年プリンシパル。2010年ダーレン・アロノフスキー監督『ブラック・スワン』で振付を担当、主演のナタリー・ポートマンと結婚。2011年にはロサンゼルスで自身の会社としてあらゆる形式のダンス公演を行うクリエイター集団を設立。2014年にパリ・オペラ座の芸術監督に史上最年少で大抜擢されるも、1年半足らずで解任される。歴史上初めて黒人ハーフのダンサーを主役に選ぶなど、ダンサーの自由と多様性を尊重する彼は「あまりに急ぎすぎた」とも言われた。
 そのミルピエは、リル・バックらをバッハの曲で踊らせたり、携帯でジョージア(グルジア)の民族舞踊団の舞台を彼らに見せて、その回転技に「すげぇ! 軸が全然ブレない!」と感嘆を共有したりする。
 
 パリ・オペラ座はエトワールを頂点とする厳しい階級制度でも知られている。そうして受け継がれてきたバレエの伝統を奉じる立場からすれば、リル・バックが踊る「白鳥」は〝冒涜〟とさえ見られかねないのではないか、とふと想った。まことに創造とは大いなる破壊を前提とするのかもしれず、それが容易に受け入れられないことも多いだろう。が、リル・バックの身体はバレエとは全く異なる形で、しかし、バレエのように、重力に対して挑戦しているのだ。ミルピエをはじき出した〝伝統〟と、リル・バックが体現した〝脱構築〟のどちらがどのように生き残るかは、歴史の審判に委ねられていると言うべきか。

 リル・バックは「身体表現を通して世界を変える」ことを目指す社会的な活動を始めている。

 
ヨーヨー・マとコラボしたダンサーのドキュメンタリーすんごいカッコよくてクリエイティブ!
足首の柔らかさが素敵。 頂点への渇望というか、鍛錬だ。
すべての表現者に観てほしい。
KTNB

KTNBの感想・評価

3.5
冒頭から動きにもっていかれる。
カメラアングルも良かったと。

なによりリル・バックの足(特に足首)の動きと、表現の自由さに魅了された。

ジャンルに拘らず、ジャンルに縛られず、それでいてジャンルへのリスペクトもあり、地元へのリスペクトとスタイルもあり、カルチャーへのリスペクトもあり…という熱い側面もやはりヒップホップのなせる術なのだろうかとニンマリしてながら観ていた。

ヨーヨー・マの登場も◎

彼のことは正直言って全然知らなかったけど、これは観て良かったと思う。
マサル

マサルの感想・評価

3.0
黒人ダンサーの生い立ちを追うドキュメンタリー。メンフィスのローラースケート場から主人公の生涯を追体験する。ストリートダンスにクラシックバレエを加えて、世界で認められる有名人に!
僕はこの人のことまるで知らなかったので、もう少し紹介部分が欲しかった。登場したスパイク・ジョーンズやヨーヨー・マはわかるけど。
i

iの感想・評価

3.5
80年代テネシー州メンフィスで発展したストリートダンスのジューキングという地面を滑るようなスタイルのダンサー、リル・バックことチャールズ・ライリーの半生を描くドキュメンタリー。マイケル・ジャクソンのムーンウォークをトリッキーにしバレエ要素を加えたような滑らかなダンスがいい。貧困な中、1週間でシューズを履き潰す息子を支えた母も立派だ。
Gaumont

Gaumontの感想・評価

1.2
事前情報無しで鑑賞(それが映画祭の楽しみなんだけどね)。
冒頭メンフィスの治安の悪さ、地元ローラスケート場思い出、ジューキングなる舞踏について… 自分音楽と舞踏、特にストリート、ヒップホップ系が苦手な上に社会環境でグレました系はうんざりもんでコリャ外れ?と思いきや。
ストリートダンスからクラシックバレエに進んだリル・バック、昔見たスパイク・ジョーンズのYouTube投稿に驚いた思い出あります。あのダンサーだったのねと懐かしさ覚えた辺りから集中。
ジューキングなる舞踏、不勉強な私には面妖奇怪動作としか思えないが、バッハ、ヨーヨーマとシンクロはなんとも言えず引き込まれる。

でもね。
アーティスト、それもライブ系人物のドキュメンタリーで常々感じるんだけど。対象の人物・パフォーマンスが凄いのか、映画として構成、撮影や編集音楽が優れていているのか? 観手としてはどっちに心動かされたのか? 悩むんだよね。

とはいえ
映画祭でなければ出会えなかった作品。
第17回SKIPシティ国際Dシネマ映画祭
国際コンペティション
ジャパン・プレミア