「福田村事件」の描き方がなんとも辛気臭く、映画としての色気が全く感じられなかったところに、遥か昔に見た本作のただならぬ事を思い出した。
広島の原爆については知っていても長崎のそれには疎いものだ。
被爆者部落"海塔新田"を軸として戦後執拗に闇が消える事無い時代の襞を抉る。
原作は未読だが、作者井上光晴と熊井啓共著による脚本により、本作映像化をより表現豊かにしているはず。
筋立てとしての脚本で無く、絵コンテが優れていたはず。
井上光晴と言えば、原一男のドキュメンタリーが有名だが、飄々とした素顔の裏の顔が本作に顔を覗かせる。
檻の中のネズミの群れ。
食い散らかされた鶏。
紅蓮の炎に包まれる。
のたうち回る群れ。
怖しい映像もさることながら、廃墟やバラックだけでなくモノクロ映えのする美しいランドスケープ映画でもある。
不穏なサウンドは松村禎三。
調べてみたら伊福部門下らしい。
我関せずと地上を飛び回る米軍機が恨めしい。
行く当ても無く逃げ惑う若者。
それを見つめるニュータウンの美しい主婦達。
丸焦げのネズミ。
エンディングも凄まじい。