レインウォッチャー

アフター・アワーズのレインウォッチャーのレビュー・感想・評価

アフター・アワーズ(1985年製作の映画)
3.5
スコセッシさんって、わたしの中では「ディカプリオとヤクザの人」なイメージがすっかり出来上がってたのだけれど、過去にはこんな変わり種も作ってらしたのね。

毎日に倦怠を覚えているらしいワープロ技師の男が、ある女との偶然の出会いをきっかけに、一夜の地獄巡りに巻き込まれる。
After Hours=時間外=深夜のNY、アパートやらバーやら色んな場所を訪れることになるのだが、だいたい入りたいときには入れず出たいときに出られない。そうこうしている間に、いわれのない容疑が雪だるま式に増え続け、彼におっかぶさっていく。雨が降ったりやんだり、もう家に帰って寝たいだけなのに帰れない…

この不条理劇は、現代に生きる労働者にとってのブラックな寓話のようでもある。彼は何かしら刺激的な非日常を期待して夜に臨んだのだろうけれど、振り回されまくって精魂尽き果てた挙句、退屈な「いつもの場所」に戻される。ところが、疲れ果てた彼の表情には諦めと同時に安堵が浮かんでいるようでもある。

行く先々で頻出するアイテムに「鍵」と「電話」がある。どちらも、他者とコネクトしたり、あるいは自分のプライバシーを守ったりすることと関連があるものだ。
しかし、劇中のこれらは主人公の思い通りにならない。投げ渡される鍵を受け取れず、電話で助けを求めても信用されない。ひとたびコントロールを失ったこれらの存在は、主人公をむしろ排斥するように機能する。社会の大きなシステムの構造からの逃れられなさ、その代謝が、ルーティーンから外れようとした彼を異物と見做して攻撃するかのように。

もっと昔は、きっとこれらのアイテムがなくても生活は成立していただろう。他者をどこまで信用するか、自分の領域をどう守るか。しかしいつの間にか、より豊かに・より便利を追求した結果、人間は自らを縛るように追い込んできたのかもしれない。

もしいま、『アフター・アワーズ2023』が作られたらどうなるだろう?鍵や電話に替わるものは?
もしかすると、家から出ることすらなく物語が成立してしまったりして。そう考えると、なかなかぞくっとしないだろうか。
5件
  • Cineman

    →レインウォッチャーさん。 この作品は知りませんでした。 スコセッシ監督は『ヒューゴの不思議な発明』が素晴らしく良かったです。何本かの3D映画を観ましたが『ヒューゴ』 程3Dの特性を発揮した作品はなかったです。多くの3D作品は広大なスペースを強調していますが、スコセッシ監督が狭いスペースをステディカムを使って存分に動き回る映像は、まさにこれこそが3Dの醍醐味!と思わせるドキドキする映像でした。何度も観返しています。

  • Cinemanさん コメントありがとうございます。ヒューゴ〜は、リアルタイムくらいのタイミングで観た記憶があります。スコセッシなんて名前も意識してないくらいの頃でした。 内容の記憶を相当失っているので見返してみたいです。とはいえ、3dの魅力を体験するには自宅だと難しいでしょうかね。

  • Cineman

    →レインウォッチャーさん。 幸い初回はアイマックスシアターで、その後自宅で何回か観ています。 チャンスがあれば是非映画館のスクリーンでご覧いただきたいです。

  • 湯っ子

    「アフターアワーズ2023」…「サーチ」みたいな映画になるんでしょうかね〜。

  • 湯っ子さん コメントありがとうございます。 サーチ!確かにそれっぽいですね。1、2ともに観られてないのですが…ただ少なくともオンラインなら、彫刻に閉じ込められるおそれはないですよね笑

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暗い嵐の夜だった…。 ・奇妙で余白のある映画が好きで、主張の圧が強いマジメな映画が苦手。 ・アトロクリスナー、たまに投稿、まれに採用。 ・お気軽にフォロー大歓迎です。 <スコアリング基準>★3.…

暗い嵐の夜だった…。 ・奇妙で余白のある映画が好きで、主張の圧が強いマジメな映画が苦手。 ・アトロクリスナー、たまに投稿、まれに採用。 ・お気軽にフォロー大歓迎です。 <スコアリング基準>★3.5がおすすめライン。 5.0:無敵 愛してる 二言目にはこの映画の話をする 4.5:超スゴイ 大好き フェチに刺さる 4.0:スゴイ 好きな作品として心に残る また観たい 3.5:ステキ 優れたところ・得られるものがある ---人におすすめしたくなるライン--- 3.0:人間並 ふつう、総合±ゼロ 一年後忘れてそう 2.5:ニガテ 明らかによくない 2.0:超ニガテ やる気がない 1.0:地獄 映画以外の何か 個人的な拒否反応 0:その他 記録のみ 途中リタイヤしたアニメやドラマ等 基本スルー:戦争、差別、政治、スポーツ