完全な候補者の作品情報・感想・評価

「完全な候補者」に投稿された感想・評価

pherim

pherimの感想・評価

3.3
サウジアラビアの女医マリアムは、永遠に終わらない病院前の道路工事へ業を煮やし地元市議へ立候補する。女医より男性看護師の診断が信用される旧弊のもと彼女を阻む壁とその向こう側へ覗く希望を、『少女は自転車に乗って』のハイファ・アル=マンスール監督が活写する。

『完全な候補者』の主人公名マリアムは、マリアのアラビア名。聖母イメージの援用とも。本作序盤で感動的なのは、マリアムが自ら車を運転し通勤している場面。女性が自転車に乗ることさえ不道徳に見られる様を描いた『少女は自転車に乗って』の監督作だけに、このさりげない一幕が熱い。

 『少女は自転車に乗って』:https://twitter.com/pherim/status/484115096273043457

なお主人公の父親はウード奏者で、属す楽団がテロの脅迫に怯える光景も描かれ印象深い。イスラームや海挟むインド文化圏、さらに上座部仏教圏での舞楽蔑視から欧州ロマの苦悶まで、音楽への抑圧の歴史に思い馳せさせられる一幕。
しもむ

しもむの感想・評価

3.8
街で唯一の救急病院。
そこで働くマリアムは病院前の道路の舗装がいつまで経っても行われない事に苛立ちを隠せない。
泥だらけ道路のせいで、一刻を争う時も搬入が大幅に遅れてしまうからだ。
地方議員に直談判するが、適当にあしらわれる。
新天地での生活を望んでいたが、ひょんな事から、次回の地方議員選に出馬することになり…というあらすじ。
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『少女は自転車に乗って』、『メアリーの総て』に続き、一貫して社会の不条理さに立ち向かう女性の姿を描いているハイファ・アル=マンスール監督。
今作は、サウジアラビア社会の男女の不平等さを題材にしている。
サウジアラビアでは女性は何かするにも男性の許可を得なければいけない事が多く、女性が、銀行口座を開くのも、1人暮らしも男性の許可がいる。
同じくイラン諸国の中でも、サウジアラビアがこれだけ厳しいのは、イスラム法そのものを法規としているから(他の国は政治や社会活動は、西欧の法律を規範としている)
ちなみに、この映画で描かれる海外渡航に関しては、今年法が改正されて女性1人でも海外へ行けるようになった。
法改正はされてはいるみたいだけど、国のこの現状に嫌気が差して、亡命する女性も少なくはないみたい。
↑のようは事は映画を観てから、調べて分かった話。サウジアラビアにおける女性の現状を知って驚いた。

映画は、サウジアラビアの社会問題を描きながらも、家族の話に帰結する。
この描き方は、人によっては賛否分かれるかもしれないが、自分は好きだった。
社会に呑まれずに、理不尽な男性社会で強かに生きてる女性の力を感じたからだ。
ラストの意外で展開が素晴らしい。観てて思わず腕組みしてしまった。
『メアリーの総て』もそうだったけど、この監督さん、見終わった後の余韻がとても良い。

この監督の作品の主人公は皆、芯の強い女性だけど、もしかしたら監督の自己投影なのかもしれない。
そんな事も感じた。ハイファ・アル=マンスール監督、今後も追い掛けていきたい。
kyoko

kyokoの感想・評価

3.5
ニカブをつけた女性が車を運転している。
世界で唯一女性による車の運転が許されていなかったサウジアラビアだけど、昨年ようやく解禁になった。ということは、私にとって女性が車を運転するシーンが出てくるサウジ映画はこれが初ということになる。
同監督の「少女は自転車に乗って」から5年、自転車すら乗れなかったサウジの女性が颯爽と車を運転しているとは。

ひょんなことから市議会議員選挙に立候補することになった女医マリアムは、医師としての能力も高く上昇志向もある。常につきまとう女性蔑視に負けない強さもあるけれど、急に突っ走ったりするのでどこかアンバランス。むしろカメラマンの妹のほうに聡明さを感じた。

ウード奏者である父親のツアー場面は、この国が抱える別の問題を映しだしていて、変に緊張してしまった。やっぱり音楽は平和の象徴でなくちゃね。別々に座っているとはいえ、男も女も一様に盛りあがっているのが良かった。

女性蔑視の文化はちょっとやそっとじゃ変わらない。その現実を突きつけつつも、女は寄るな触るなと大騒ぎしていたじいさんとのラストのやりとりにこの国の未来への希望が込められていた。少し甘甘すぎな印象だけどね。でもグッときたなー。

このレビューはネタバレを含みます

第20回東京フィルメックス映画祭にて鑑賞。邦題は『完全な候補者』。ひょんなことから女性医師が地方議会選挙に立候補する物語。
 なかなかお目にかかれないサウジアラビア映画ということで、ストーリーはもとより、現地の行動様式等にも着目して観てみました。特に、女性だけの披露宴のシーンでは、基本的にフロアには男性がいないため参加者はみな髪を露わにしていますが、そこに新郎が入るとなると司会が声を張り上げて警告し、女性陣は慌ててベールで髪を覆うという様子が描かれています。披露宴といえど男女別が当たり前なサウジアラビアの習俗が再現されており、大変興味深く拝見しました。
 ストーリーの面では、クライマックスで頑固なお爺さんが主人公の女医の力量を全面的に認めたシーンが感動的でした。他者に対する"見方"が変わる瞬間を象徴的に描くことで、監督は未来への希望を示したかったのかもしれません。作品全体はやや荒削りではありましたが、いわゆる"男性社会"の中で精力的に活動する女性の姿が活写されており、サウジアラビアのもつポテンシャルを見せつけられた気がしました。なかなか身近な感覚としては馴染みのない国の映画ですので、率直により多くの方に観てもらいたいと思いました。
東京フィルメックス、朝日ホールにて。
映画祭での邦題は「完全な候補者」。
「少女は自転車にのって」が大好きだった監督の作品なんだけど、今回は少々頭でっかちな感じ。でも選挙活動のシーンはおもしろかった。
お父さんのツアーとその成果は対比なんだろうか?そのへんがイマイチピンと来なかった。ラストの歌うあたりも。
自分が文化的なNGが明確にわかってないせいもあるんだろうな。直接の男女の対話はNGなんだけど、モニター越しならOKというのは前から知ってて、監督の演出はすべてモニター越しなんだそうな。モニター越しならOKという神様のゆるいとこ好き。
泉くん

泉くんの感想・評価

3.0
マンスール監督の新作は無難な映画になっていた。10歳の少女を主人公にサウジアラビアの社会を切り取った「少女は自転車にのって」に比べて、選挙を題材にしたせいか全体的にあざとい作りになっていた。もっとテーマに対して繊細なアプローチができる監督だと思うんだけどな。次作に期待。
可もなく不可もなく 過ぎて何もいえねぇ…
あと意外と音楽映画でもある。
[完全な候補者たちと不完全な映画] 50点

全ての女性候補者が女性の声を代弁してる訳じゃねぇ!という流れは確かに面白かったが、結局は政治ドラマにも親子関係にも姉妹関係にも伝統と革新(主に音楽が使われる)にも踏み込めず、浅いとこでウロウロしている中途半端さがそのまま浅めのエンタメに変わり、その薄っぺらさが終始邪魔で仕方がなかった。"お母さん、元気ですか?車は運転できるようになったけど、そこから先はまだまだ先です"というキキみたいな手紙の朗読でも聴こえてきそうな達観した感じは呆れにも聴こえて、まだ遠い道程を眺めながら、溜め息をついているようだった。それ自体は面白い視点だ。

ラストで主人公に助けてもらったじいちゃんが掌返して褒めちぎるとこ、キモすぎてキレそうだった。そこまでは色々擁護するつもりだったけど、そのシーンをラストに持ってくるあたり、マンスールの幻想でしかないこの奇妙で気味の悪い希望が達観した呆れと一歩ずつ踏み締めていこうという決意に泥を塗る。てか、こんなんでヴェネツィア行けるんすか…"巨匠"の最新作ばっかりだったもんね。
サウジアラビアの映画を私は他に観た覚えがないので、サウジ発の映画を観られただけで満足。アカデミー賞国際映画賞のサウジ代表だっていうから、もっと暗かったり重かったりするのかと思ったけど、笑えるところもあるし、展開もわりとポップで、そういうのがいちいち新鮮だった。あと、主演のミラ・アル・ザフラニさんがめっちゃゴージャス美人。

ストーリーは、町に一つしかない救急病院で働く医師のマリアムが、病院前の泥道の舗装を実現するために地方議員選に出馬するというもの。マリアムには妹が二人いて、結婚式場の仕事をしている次女はノリノリで、三女はぶーぶー文句言いながら、不器用なマリアムの選挙活動を手伝う。三姉妹がキュートで、ダサいPR動画を作るシーンは笑えた。

サウジでは女性の権利がかなり制限されていて、自動車の運転も海外旅行もスポーツ観戦も映画鑑賞もつい最近まで自由にならなかったぐらい。映画の中でも救急搬送されてきたじいさんが、女なんかに診てもらいたくないと言って暴れたりして、極端な男女格差が当たり前に描かれる。マリアムは有能な医師なのに、歌手(父親)の娘としか言われないし。なんでやねん。

さらに、同じ女性からの女性差別も存在する。マリアムが女性限定の演説会を開いても、会場はガヤガヤして誰もまともに話を聞かない。なんとかスピーチを終えて、みんなから拍手をもらっても、その同じ人たちが帰りには「投票は夫に相談してみないと」「投票はできないけど、今日はお招きありがとう」とかって言う。

一朝一夕には動かせない差別意識が厚い壁になって眼前に迫る感じは、映画で観るだけでも結構しんどい。でも、劇中の女性たちが決して暗い顔をしていないのも、同時に心に残った。私は日本にしか住んだことがないし無宗教なので、うっとうしそうな布をまとって歩いて、できないこともたくさんあって、そういうの大変そうだって勝手に思うけど、事実大変なところもあれば、そうでもないところもあるのかも。

民族衣装のアバヤのファッションショーに目を輝かせたり、ラフな格好で女子会に参加したり(こういうのは普段しっかり着込んでいるとその落差で余計に楽しめそう)している女性たちを見ると、深刻に捉えるべき問題なんか何もないようにも見える。映画を暗くも重くも作らなかった監督の思いはそこにあるのかな。勝手に「問題」とか「かわいそう」とか決めつけるのは違うのかもしれない。

映画では、女性の地位向上に向けて、決して大きな前進ではなくて、小さな小さな一歩が描かれる。リアリティを持たせようとしたら、それぐらいしか描きようがないのかなと思うと、やっぱり大変だなって私は思うけど――、まあもういいか。

ムスリムの留学生が出てくる『西北西』がまた観たくなった。西北西に祈りを捧げる姿がすごく美しいんだよ。
フィルメックス。
サウジアラビアの女性医師マリアムが、ひょんなことから地方議会選挙に立候補する。
ハイファ・アル=マンスールが再び母国で撮った作品だが、冒頭で主人公車運転してるし、女性の参政権がモチーフになるのも、7年前の「少女は自転車にのって」から既に隔世の感。
免許解禁も参政権も大きな進歩。
とはいえ現実はまだまだ厳しく、なりゆきで出馬したマリアムも、ネットで学んで選挙運動してるうちに、だんだん本気の改革者になってくる。
面白いのがマリアムのお父さんが歌手で、娘の選挙運動と並行して彼のツアーが描かれること。
そして彼自身も、図らずもある「候補者」となっているのだ。
厳格なワッハーブ派のサウジでは、音楽家に対する原理主義者の偏見も強い様で、父と娘の間にも亡き母を巡って心のわだかまりがある模様。
二人の静かな葛藤が、選挙運動とツアーの終着点で解け合うのは感動的。
いろいろ女性が生きてゆくには面倒も多い社会だけど、「少女は自転車にのって」と本作の間には、確実に変化した部分が見える。
男性優位社会の理不尽を描いても、それを単純に男女対立とは描かず、男性キャラクターが皆おっとりしてて優しいのも複雑な想いを感じさせる。
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