うらぶれた漁村の人気のない昼間。青いラインの入ったバスがゆっくりと到着する。男は左肩にずた袋を提げ、不自由な右脚を前へ前へと差し出す。漁村を抜けて農業地帯に出ると、平屋の前で脚を止める。ここは母親がたった一人でベトナム戦争から息子の帰りを待っていたはずだった。だが母親は死に、ベトナムで脚に爆弾を受け、傷痍軍人となったチンソクは待ち人のいない生家の前に茫然と立ち尽くす。心にも身体にも傷を負った天涯孤独の青年に、村長は妻を取らせようとする。だが片足が不自由な人間にまともな見合い相手などいるはずもない。こうして出会った女は、言葉に吃音がある女スノクだった。見合いの席、チンソクは目の前の女のコミュニケーション不全に苛立ちを隠せぬまま席を立つのだが、スノクの下手糞だが気持ちのこもった歌声に心奪われるのだ。晴れて夫婦になった2人は、スノクの手先の器用さで竹細工の会社を立ち上げる。
ここまでの熊井啓然とした左翼的展開から、物語は思いがけぬ方向へと進んで行く。閉鎖的な村で富を生み出す男と女。しかし男の心はどこまでも晴れることなどなく、ただひたすらに荒んでいた。その心の隙間にチュウォルという名の女が入り込むのだ。白の凡庸な服装を着た妻スノクとは対照的に、チュウォルは赤や黒の派手な衣装で主人公の視線を奪い、誘惑する。竹細工で財を成した主人公が、竹林の中でチュウォルと情事を重ねる場面はあまりにも皮肉で、観ていてぞっとする。男にとっては誇るべき息子も、彼にとっては妻の悪い部分が反映された隠すべき対象でしかない。母親と戦争の呪縛に囚われ、閉鎖的な村で英雄として賛美される男の心は荒み続け、ただただ自堕落で無様な欲望を重ねて行く。良き夫にも父にもなれない男は、歩いていく妻の背中をただ茫然と立ち尽くし、何かの間違いのように絶叫する。それをカメラは絶望的なロング・ショットで据える。夫婦の道行きは、村の繁栄とは不可避なものとしてそこに在る。唯一、リアリズムで据えられた村人たちの無邪気な表情だけが救いとなる。