恐怖分子の作品情報・感想・評価

「恐怖分子」に投稿された感想・評価

netfilms

netfilmsの感想・評価

4.4
 朝焼けの見える早朝、けたたましいサイレンを鳴らしながら、パトカーがどこかへ向かう。部屋では一組のカップルがベッドの上にいるが、男は既に眠っており、女だけが小説を夢中になって読み進めている。男は時間差で目覚めると、トイレの鏡と向き合う。開け放たれたベランダでは朝の心地良い風と、徐々に近づいてくるサイレンの音と銃の発射音が不穏な空気を掻き立てる。人間だけでなく、様々な物質を据えたショットの断片が脈絡なく幾重にも連なり、ショットとショットが一連の不穏さを際立たせる。これが才気溢れる今作の導入部分である。次のシークエンスでは、いきなり男が道の真ん中に突っ伏して倒れている。そこにパトカーが到着するが、刑事はある若者の姿を見つけ、ジェスチャーで危ないから向こうに行けと指示を出す。先ほどの若い男は残念そうに渋々応じようとするが、次の瞬間、籠城した部屋から飛び降りた2人の姿を目撃する。どういうわけか警察は最初に飛び降りた女には気付いていない。若い男は警察そっちのけで、足を痛めながらも警察に見つからずに逃げ出した女に一心不乱にシャッターを向ける。

 警察から辛くも逃げ切ったハーフの女には父親がいない。母親は不良娘の顛末にため息をつき、病院から家に連れ戻し、The Plattersの『Smoke Get In Your Eyes』のレコードにゆっくりと針を落とす。だが娘はその歌詞の意味さえも掴めないまま、じっと下を見つめている。冒頭のパトカーのサイレンや発砲音、怯えた犬の咆哮、ガラスの割れる音などの一連の不快な音に対し、うっとりするようなドゥーワップの美しいハーモニーは明らかに対比され、然るべき場所に配置される。ベタ敷きになった音楽は、やがて冒頭の男女の決定的な不和の場面にも被さっていく。無人の殺風景な部屋、揺れるカーテン、外から聞こえて来るサイレン、ふいに鳴る電話、排水管から落下する水、これらの描写がホラー映画の下地として、恐怖を醸成していることは誰の目にも明らかである。しかし今作では幽霊の類も桁外れに巨漢な殺人鬼も遂に出て来ない。物語はホラー映画らしい雰囲気を醸し出しながら、やがて都市に住む孤独な人々を次々に結びつけていく。

 今作において、小説家の妻と医師の夫のカップルというのは最初からほとんど破綻した状態にある。夫婦の間にまともな会話はほとんどなく、お互い目を合わせることもない。夫も妻も相手に遠慮している。夫の会社は係長が心臓病で死に夫はようやく昇進し、重要なポストにつけるかもしれないと過度な期待をする。小説家の妻はスランプ状態に陥り、環境を変えなければ新しい小説が書けない。夫は妻のことを思い、妻のために生活しているつもりだが、妻にとっては夫の心遣いが心底煩わしい。この微妙な夫婦の温度差がやがて悲劇を生むことになる。2人の間には、かつて赤ちゃんを身籠るも流産した苦い思い出がある。妻が夫に涙ながらに夫婦生活の破綻を訴える場面は真に迫る。その後も夫は何とかして妻とヨリを戻そうと何度も接触を試みるが、その度に気のない返事をされる。妻に別れを切り出され、すんでのところまで行った昇進の夢が叶わなくとも、男にはそれでも生きねばならない人生があったはずだ。だが無機質な空間の中で突っ伏して倒れた男の最期の瞬間が無情にも胸に響く。
オレ様

オレ様の感想・評価

4.5
間違いなく良作
じっとりゆっくり蔓延る陰湿さ
どこを切り取っても絵になる画
ラスト繋がる物語
爽快になる間も無く
取り残されるようにエンドロール
こんな小説が読みたい
えりか

えりかの感想・評価

4.0
小さなことから大きなことへ。

医師、作家、カメラマン、不良少女、刑事…と色んな人が出てきます。序盤のなんだこれ?誰の話なんだ状態から最後の持って行き方がすごい。点と点が線で繋がってハッとさせられました。

部屋の壁に貼った何枚もの写真が風でなびく音と映像が素晴らしい。好きです。この作品について思い出す時は、まずこれだろうな。
うわすごいくらいしか感想でないような、言語化できないものすごい何かを見せられてる感がひたすら続いていく映画

ポルターガイストの映像のポルターガイストしてないところを見てる時の感じに近くて、特に日常の世界から逸脱したことは起きないのになにかしらの異様さがその中に同居してる感じがある

カメラがほとんど動かないし、自身で完結するようなショットの間のその連続感のなさ、暗闇での会話とか缶が跳ねるとことか写真の顔が風で揺れるとことかのあの時折ある異様なショットとか、実存的不安みたいな感覚がずっと根底にあるような感じがした だからこそあの自殺からのその霊感から来る嘔吐っていうラストにものすごいインパクトがあった
みき

みきの感想・評価

4.2
すごいんだけど、私にはまだ早かった。
最初イマイチ乗れなかったですが、最後まで観ると良かったです😆✨

登場人物は、小説が書けない奥さんとその旦那、悪い恋人に警察沙汰に巻き込まれて怪我をしてイタ電してる娘、詰られて出て行ったカメラマン等々、色々上手くいかない人物達。それぞれ独立した出来事と人物が、ひたすら淡々と淡々と進んでくので、最初なかなか掴めなかったが、イタズラ電話が小説家奥さんに掛かってから、それら人物達が巧みに絡み始めて面白くなってきました😆
小説家の旦那がキーとなり、思わぬ展開に、、、なんか気の毒😭だけど、そう来たか⁉️な感じです。

シーンの絵がイチイチ決まってるのと、編集の仕方もリズムも才気走ってていいすね。告白したら、次のカットでもう寝てる❤️とか笑、正面向いての語りとか、ちょっと北野武っぽいですが、傑作ですねこれは✨
揺らぐカーテン、はためくスナップ、映像が美しかった

シャオチェンとシャオウェンの部屋のほぼ床にプリングルスが置いてあるの良い。たぶん塩味
mt

mtの感想・評価

4.9
エドワードヤンで外したことない
【もしもし…】

80年代の台北。兵役を目前にした金持ちカメラマンの青年、悩める小説家の妻と次期課長を狙う病院で働く夫、ハーフの不良少女という関わるはずのない4人の人生が交差していく様子を描いたヒューマンサスペンス。

芸術の枠を超えた演出。カメラワークに絶妙なカット割。光と影の使い方で語り、人の生死を呆気なく表現する。最初から最後までどこかネジが外れたような可笑しさと気味悪さ。静寂が恐怖をそそり、一本の電話から悪夢が始まり連鎖する。他人には関係のない不穏な原子が、台北という街の中で交わり、分子となっていく。まさにエドワード・ヤンらしい題材ではあるが、個人的には『台北ストーリー』『カップルズ』同様、ハマりはしなかったのが正直なところ。もし自分が映画監督であれば、死ぬほど参考になる点はあるのだろうけど、まあそうではないので、シンプルに話が合わなかったという点で片付ける。

後の『牯嶺街少年殺人事件』や『ヤンヤン 夏の思い出』は大好きなんだけどね…。

『恋愛時代』と『光陰的故事』は未見なので、ハマるかハマらないか楽しみである。
コンクリートに打ちつける水への光の差し込み方とその反射がもうほぼ見てる世界で嘘だろと思ってたらそんなカットの連続でドッキドキしたけど、よく考えたらクーリンチェ観てから見える世界が変わった訳で、思ってたより影響受けてたことにやっと気がつけた
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