てつこてつ

ビューティフルのてつこてつのレビュー・感想・評価

ビューティフル(2007年製作の映画)
3.3
なるほど、確かに「ビューティフル」というタイトル以外は当てはまらない直球勝負なテーマのキム・ギドク原作の、これは、より実験的な映像化作品。

周りの男共を全て魅了するほどの美しい容貌に恵まれた女性の運命を徹底的なまでにダークサイドに堕とすのは、見事なギドク節・・。せっかくなら原作だけでなく、メガホンも彼に取ってほしかった。

芸能人でもないのに、その飛び抜けた容姿から通りがかりの女子高生からはサインを求められ、親友の彼氏からも執拗な誘いを受けるヒロイン。マンションには彼女に固執するストーカーから毎日のように大量な花束が届けられる始末。

ある日、宅配業者を装ったストーカーをうっかり自宅に招き入れた彼女は、あえなく、彼にレイプされてしまう。

それまで処女を貫いてきたヒロインは徐々に精神が崩壊し、取り調べをした刑事からは、「スタイルが良いなら体型を隠す服装をしないとダメだ。君にも落ち度がある」と非情な言葉を突きつけられ、自分を醜く太らせるために公の場で過食と嘔吐を繰り返す、水商売の女性の如くケバケバしいメイクをするなど明らかにその行動は常軌を逸していく。

レイプ事件の際に刑事の補佐をした、ペットで飼っている魚以外には愛情を注げない若い警官は、そんな彼女が心配で仕方ない。そして、最初は警護のつもりで彼女の後を追けているうちに、次第に彼も彼女の美貌の虜となってしまい・・

余計な登場キャラクターを極端に排し、とにかくストーリーはシンプルかつストレート。整形を繰り返す親友は人並みな幸せを、また、公園で出会ったかつては自分も痩せていたという肥満気味の女性も自身の人生に折り合いをつけて生きている姿が描かれているのに、真っ向反対、「天性の美」を持って生まれたヒロインが、この作品内で辿る悲劇の一本道は容赦ない。

このヒロイン役に抜擢された女優チャ・スヨンが、これまた見事にこの難役を体現できる、モデル出身である事は確実と思わせる抜群のスタイルと、スッピンでも輝くような目鼻立ちが整った清楚系の美女で、その抜けるような肌の白さときめ細かさも相まって男心をくすぐる。

精神が崩壊していくという難しい演技には雑な部分も見えるが、この役どころで一番求められるのは、皮肉にも、演技力よりも視聴者を納得させられる'ビューティフル'な容姿を持っていることのほうが遙かに重要なポイントとなるので、その点、見事なキャスティングではある。

ヒロインの魅力に取り憑かれてしまう、ちょっと、坂口健太郎っぽいイ・チョニもナイーヴながらも変態性をはらんだ若い警官役を好演。

キム・ギドクの世界観らしく、ヒロインが食っては吐くという描写はかなりリアルで見ていてキツいし、ポルノグラフィックな描写も登場する終盤のシークエンスは、誠にキム・ギドクらしいエグさに満ち満ちている。エンディングシーンなんて変態趣味以外の何物でもない。

「天性の美」というテーマ一本勝負で取り扱ったこの作品は、偏見と皮肉にまみにまみれた一方的な描き方をしてはいるが、何故か、最後まで眼が離せない魅力、勢いがあった。

ただし、ヒロインの描かれ方に、女性視聴者は嫌悪感を抱く可能性も大。
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