本作は往年の王道MGMミュージカルなので、ミュージカルシークエンスが素晴らしいのは言うまでもない。 まずは序盤に来る「On the Atchison, Topeka and the Santa Fe」。9分以上ある。 当時のミュージカルではいちばん大きなナンバー、いわゆる「プロダクション・ナンバー」は、ほぼ最後に来る。「雨に唄えば」だって「バンドワゴン」だって「巴里のアメリカ人」だって全部そう。「ラ・ラ・ランド」だって、そこは踏襲してみせた。ところがこれは冒頭に来る。 「摑みはOK!」的にキャッチーなサビから始まる曲が現代はとても多いけれど、ある意味その構造の先駆とも言える。
あと、ジュディがチャリッシ、オブライエンと踊り歌う「It's a Great Big World」。ここでは3人の「シェー!」を見ることができます。赤塚先生の何年前だよ!
終盤の長尺ナンバー、パーティー・シーンでの「Swing Your Partner Round and Round」。ここもかなり長い。 映画史上最大の舞踏会シーンと言われるヴィスコンティの「山猫」にも比肩する! いや、ごめん、言い過ぎた。そこまでじゃない。でも、凄いし、素敵。
あと、MGMミュージカルで忘れちゃいけないのが、細かいギャグね。 本作もいっぱい入っているけれど、序盤「In the Valley」を列車のデッキで歌い終えたジュディが、車内に入ってきてからの無言のシークエンス。トランプしてる人の手札に口出ししたくなったり、少ししかないランチを食べかけたらお腹を空かした子供がやってきて困ったりと、ジュディの可愛い表情だけでとても楽しい。 二挺拳銃でステーキ奪還のため「アルハンブラ」に入っていくジュディも可愛いし、それに感服して背後から「こいつは大したタマだね」とサポートしてくれる脇役の西部男も最高。 バージニア・オブライエンが歌う「The Wild, Wild West」に出てくる灼熱の蹄鉄を摑むところは、最初観た時めちゃくちゃびっくりした。思えば、フレームから外れている間にフェイクに差し替えてるという単純なトリックなんだけどね。
後は、そうだなぁ。ウェイトレスとしての「トレーニング・モンタージュ」。何か「ロッキー」評みたいな言い方になってるけど、「The Train Must Be Fed」ナンバーのことです。ここでので、テーブルの下からのショットにも言及しとこ。 ガラスの上に人物を置いて、下から撮影するのは、古くはルネ・クレールの悪ふざけ「幕間(1924)」があるし、ヒッチコックの「下宿人(1927)」もそう。本作の前年「錨を上げて(1945)」では同じジョージ・シドニーが、アクリル板で作った鍵盤を使って、演奏を下から撮ってる。今でもYOSHIKIのピアノならできるよ! 面白いのは、本作ではそれが花びらみたいに、つまりはあたかもバスビー・バークレーの俯瞰映像みたくなってるところ。 これを私は勝手に「逆バスビー・バークレー」と命名したい。略して、「逆バス」。まあ、「逆バク」でもどっちでもいいんだけど。 っていうか、「逆・バス・爆発」、みたいな? あ~あ。だから呑みながら書くと駄文にしかならないんだってば。
ただこれは黄金期のMGMミュージカルですので、内容というよりはミュージカルナンバーと古き良き雰囲気を楽しむ映画。 見所としては、やはりアカデミー賞を獲得したメインナンバー"On The Atchison, Topeca, And The Santa Fe"が素晴らしいです◎ この一曲だけで約9分くらいあるのですが、ついつい引き込まれて時間を忘れてしまうほど。