マンチェスター・バイ・ザ・シーの作品情報・感想・評価

マンチェスター・バイ・ザ・シー2016年製作の映画)

Manchester by the Sea

上映日:2017年05月13日

製作国:

上映時間:137分

3.9

あらすじ

ボストン郊外で便利屋として生計を立てている主人公が、兄の死をきっかけに故郷のマンチェスター・バイ・ザ・シーへと戻り、16歳の甥の面倒を見ながら過去の悲劇と向き合っていく―。

「マンチェスター・バイ・ザ・シー」に投稿された感想・評価

panpie

panpieの感想・評価

5.0

このレビューはネタバレを含みます

「マンチェスターバイザシー」
これを見た時に海沿いの街マンチェスターという意味なんだと思った第一印象。
グーグルマップで調べてみたらどうやら〝マンチェスターバイザシー〟という名前の街があるのだ。
人口5000人強の小さな町だそうだ。
そこが今作の舞台。


主人公のリー・チャンドラーは今日も家の前の雪かきをきっちりしている。
ここはボストン。
少し前にやっと雪かきから解放された我が身としては暫く雪は見たくないのだがちょっと懐かしい。
何故きっちりと雪かきをしているかと言うとリーの住まいは半地下で一つしかない明かり取りの小さな窓から日差しが入らないのだ。
窓がそこしかないワンルーム。
陽の当たらない何だか殺風景な部屋だ。

リーは便利屋だ。
担当する4棟のアパートの住人はトイレが詰まっただの浴室の水漏れだの文句たらたらでムカつくお客にも負けじと暴言を吐いて苦情がくる。
仕事が終わった後に飲みに入ったバーで女性に酒をかけられて声をかけるきっかけがあったのに会話を繋げないで終わっちゃうし挙げ句の果てには向かいで飲んでいた男性二人に「俺の事をなんで見るのか」と因縁をつけ殴りかかって行く。
酒乱なの?

そんなある日。
リーに電話がかかってくる。
マンチェスターバイザシーで暮らす兄が倒れたと言うのだ。
慌てて駆けつけるも死に目には会えず兄は1時間前に亡くなったと言うのだ。
兄は離婚して父一人子一人だったのでリーの甥にあたるパトリックに知らせなければならない。

パトリックは高校でホッケーをしていてリーはそこに伝えに行く。
パトリックがリーの処へ行くとコーチが小声でパトリックの友達に聞く。
「本当にあのリー・チャンドラーなのか?」と。
そこで嫌な空気が広がる。
リー、昔何かやったの?

ストーリーは時折過去を織り交ぜ交差しながら進む。
とても淡々と。

最初にまだ小さかった頃のパトリックとリーとジョーの3人で船上で釣りをしている楽しそうなシーンがある。
終始喋っているのはリーなのだ。
現在の様子からは想像もつかない程よく喋っている。
その時「パパより叔父さんの方が好きだろう?」か「サメに襲われたら叔父さんを選ぶだろう?」といった会話が挟まれているがそれが兄がリーを後見人に選んだ理由なのかもしれないと思った。

ジョーはもう自分の死期を悟って愛する息子の将来を思い考えに考えた末の遺言。
さぞかし無念だった事だろう。
高校生になった息子が後何年かで成人するまではきっと見届けたかったはずだ。
あともう少し!
でも死はそんな都合よく訪れない事も分かっている。
もう一つ気にかかっている事は弟リーの事だ。
もう許されてもいい頃だ。
リーも自分自身を許して前に進んでもいい頃だ。
息子と弟。
どちらも同じ様に愛していて心配だ。
ジョーの決断は最適だったと思う。
別れた妻より壮絶な過去を未だ引きずったまま時間が止まっていて何年も会っていない心に傷を負ったままの弟にも再生してほしい。
そんな願いを込めていたに違いない。
後見人はリーしかいない。
こんなジョーのシーンはなかったけれど私も親だからジョーの気持ちが痛い程よく分かった。

弁護士からジョーの遺言を聞いたリーの慌てようもよく伝わった。
ここに住んで自分が後見人としてパトリックの面倒をみるなど絶対に無理だ。
何故無理なのか?
ジョーは引っ越し費用も用意してあり金銭面においても問題ないし便利屋の仕事が上手くいっている訳でもないし何故?
リーは窓の外をぼんやりと眺め過去を回想して行く。

この回想シーンは全く想像していなかったので衝撃的で体が震えた。
リーが家族を思いやった為の事故。
途中でお開きになった為に飲み足りなかったのもアルコールが入っていたから車で買いに行かなかったのもよく分かる。
あんな事になるなんて!
神様!
自分に起きた事のようにリーの気持ちに重ねて観てしまった。
涙も嗚咽も止まらなかった。

取り敢えず後見人を引き受けパトリックと一緒に暮らし始めるのだが葬儀の問題やジョーの所有している船の問題など人が亡くなった後の後始末の多い事がよく伝わって来た。
加えて別れた妻ランディから葬儀に出席したいと電話がかかってくる。
リーは忘れようとしていた過去を突きつけられ強制的に向かわされる事になる。

パトリックが自宅の冷凍庫を開けると冷凍された食品が溢れでてくるのを見てパニックを起こす所も彼の父への気持ちがよく分かるシーンだ。
パトリック役のルーカス・ヘッジズがとても良い。
彼女を家に連れ込んで泊めたりするのにはえ!と思ったけどジョーは泊める事を了承していてそこは男親なんだなと。笑
それを後見人になったリーもそのまま受けとめていていきなり父親面する訳でもなくパトリックの辛い気持ちをやっぱり1番分かっていて許しているんだなと。

パトリックが彼女と自宅でデートする間に時間潰しの散歩に出たリーがばったりランディと会うシーン。
ここも揺さぶられた。
ランディも前には進んでいるけど過去の気持ちの整理がついていなかった。
私もきっとランディと同じに過去を片隅に追いやって今に進んでいるからリーにばったり会ってしまって心の準備もなく気持ちが溢れ出たのではないかと。
私だけじゃなく大人には多かれ少なかれ辛い過去の出来事が大なり小なりあってそれに無理矢理蓋をして生きている大人が圧倒的だと思う。
そこにいちいち引っかかっていたら今はないし引きこもってしまうだろう。
気持ちを切り替えて生きる事に決めたランディに共感してこのシーンも涙が止まらなかった。
今でもお互いを想い合っている二人だがもう戻れない。
切ない。
人は強いけど弱いんだな。

遺品の銃を売って船のモーターを買い換えパトリックと彼女とリーはクルージングに出かけるシーン。
はしゃぐ若者達を見てリーの表情も柔らかく緩む。
リーはマンチェスターバイザシーに心の準備もないまま半ば強制的に向かわされまだ塞がっていない瘡蓋を何度も剥がしながら少しずつ過去に向き合って行く様が痛い程沁みてくる。

ラストのリーの決断にはびっくりさせられたがきっとまだリーには時間が必要だったんだ。
ボストンの新居に部屋をもう一つ増やさないととパトリックに話すシーンがいい。
とてもリアルな決断。
ここで後見人になる様なら普通のハリウッド映画であって脚本賞は受賞しないだろう。
というか私の中ではやはり今作は作品賞なんだけど!(ToT)
アカデミー賞ノミネートされた中で私には今作が1番沁みた。


久しぶりに泣きすぎて疲れた映画だった。
ネタバレにならずには書けなかった。
書きながら今も涙が溢れる。
こんな辛い経験はした事はないけど観ていて心が潰れそうになりリーにもランディにも異常な程感情移入して観てしまった。
リーの深い傷の瘡蓋が完全に塞がる事はないだろうけどこの帰省が心の棘を少し抜いてくれた事と願ってやまない。
きっとパトリックはリーの新居を訪れるに違いない。
訪れて欲しい。
きっと彼女と二人で。
リーもランディもパトリックも少しずつ前に進んで行ける事を切に願った。
マンチェスターバイザシーの風景が美しく悲しい。
素晴らしい作品だった。
Itsuki

Itsukiの感想・評価

4.0

心が壊れた人間なんて実際は見たことない。なのに、あぁこれがそうか、と納得がいくくらいリアリティのある演技でした。たとえ生きていても心は空っぽで、死んだところで何一つ変わらないような表情。素晴らしい演技だと思います。

ストーリーも切なく儚いんですが、自分と向き合い、心を暖めてあげながら一歩づつ回復していく様が丁寧に描かれています。過去の事件で心に大きな傷を負った主人公のリー、父を失い叔父であるリーが後見人となったパトリック。他人に興味などなくなったリーとつかみどころのない男であるパトリックの、たどたどしい、ぎこちない距離の縮め方がなんとも言えない切なさと温かさを生んでいました。最後は自然と涙が出ました。内容以上に骨太な作品でした。
淡々と進んでいく。おしこめることも折り合いをつけることもできないまま、淡々と進んでいく。好きなことに理由はないように嫌いにならなければならない理由をつくりだす必要もない。淡々と進んでいく。そこに死があり、生があり、消えるものはない。スーパーマンにはならないその他大勢は、車で1時間15分と釣り船で精いっぱいの世界の中で人生をはじめ、おわらせる。
アカデミー賞、主演男優賞、脚本賞のダブル受賞も納得の映画でした!

現在と過去が交互に入れ替わりながらストーリーが進んでいくのですが、現在の暗い表情で何を考えてるのか分からないリーと、過去の明るく楽しそうに毎日を過ごしているリーの差がとにかく激しい。

亡くなった兄は息子も心配… 闇を抱えた弟も心配だからこそ後見人にしたのだろうけど… 結局、リーは過ちを犯した街で暮らす事に耐えられず逃げる選択をしたけれど、誰にも彼を責められないと思います。

最初のボートでリーと甥がはしゃぐシーンと、ラストのボートで釣糸をたらしながら微妙な距離感の二人のシーンの対比も良かったなと思う。
eshu

eshuの感想・評価

4.2
乗り越えられないんだ。
すまない。

こないだアルバニアで、マザーテレサの像を指してガイドさんが言ったの。「神は乗り越えられない試練を与えない、彼女はそう考えていたそうです」

本当に?ほんとにほんとに?
そうなんだろうか?

矢を射ることも、火を放つこともしない。けれど許せないを通り越して…憎んでるのに?

それもいつか?

乗り越えられないんだ。それが一生続いても良いと言って。この思いを抱えて生きてるだけで良いと言って。試練はただ降って来ただけで神も仏も関係ないと言って。

乗り越えられない。
それをわかってほしい。

それじゃダメかな。
カッパ

カッパの感想・評価

4.5
いい映画。
 脚本賞や主演男優賞にノミネートされた映画ですが、自分は駄目でした。
 まず、ケイシ―・アフレックですが、もともと極度の役作りで役に挑むタイプではなく、いわゆる「性格俳優」タイプの人なので、ざっくり言うと「セインツ~約束の果て」や「トリプル9」「インターステラ―」など私が見た中だけで判断すると、いつものケイシーと同じでした。(悪くはないのですが)彼の主演する映画は、なんかモヤッとする感じの作品が多い気がします。
 脚本についてですが、主人公の過去に何があったのか?というのが、観客の興味の中心になると思うのですが、途中で事件の全貌をフラッシュバックで、説明してしまいます。そのため、それ以降は主人公の行動の理不尽さが、意外性を呼び起こすことがなくなり、急速に画面が失速していきます。
 それと、最後のほうの「写真立て」は、常套手段ですが、伏線の小道具として使うべきだと思いますし、前半で「写真」そのものを見せるべきだと思うのですが、奇妙なことにこの映画では、2度目のシーンを含めて(家族もしくは娘の)「写真」を一切見せないのです。娘たちが姿を見せるのは、回想シーンと幻覚を可視化した終盤の奇妙なシーンだけなのです。ここは、全く腑に落ちない演出でした。
 監督(兼脚本家)のインタヴューから、いわゆるハリウッド的な映画の要素を避けたことが伺えるのですが、全体的に、中途半端で、冗長です。最近の良くないハリウッド映画の傾向=ステレオタイプをあえて外す意図で結局ある種のステレオタイプにはまっている映画の一つと言えると思います。(最近では「スリービルボード」がこれにあたると思う。)
面白くはない、辛い映画。ただ、観ることができて本当に良かった。
ケイシー・アフレックは、ギリギリの演技とても凄いです。
英国ではないことを、鑑賞後に知る。
公開当初から至る所で話題になっててきになってたやーーーつ

兄元嫁と弟元嫁、髪型髪色同じで紛らわしいんすけど
xavingne

xavingneの感想・評価

4.7
ある場面から、急に感情移入できるようになった。
リーは優しすぎる。愛が深い代わりに、一度心を閉ざしたらかたくな。
自分が今まで見た映画で一番現実味があって、どこかで必ず起きてるような話だから、重かったけど、寒々とした雰囲気ではなかった。温かみさえ感じた。
サントラ良かった。また見たい。
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