老いた野獣の作品情報・感想・評価

老いた野獣2017年製作の映画)

Old Beast/老兽

製作国:

上映時間:110分

3.2

あらすじ

荒くれ親父のラオヤンは事業に手を出しては失敗し、ギャンブルを繰り返す懲りない日々。3人の息子は父に似ず堅気の生活。そんなとき病弱な妻が倒れ…。台頭する内モンゴル映画界期待の新鋭チョウ・ズーヤンのデビュー作。

「老いた野獣」に投稿された感想・評価

糸くず

糸くずの感想・評価

3.6
第30回東京国際映画祭にて。アジアの未来部門スペシャル・メンション受賞。

演出・脚本・演技に無駄がなく、完成度が高いことは間違いないが、身勝手で粗暴で自堕落な老人の醜態を延々と見せられるのが辛い。演じるトゥメンの顔は魅力的だが、それだけではキツいものがある。

妻が倒れても、風俗に行き、愛人の家でいちゃつく。友人から預かったラクダを肉屋で解体してもらい、愛人に「牛肉」として渡す。妻の手術費をくすねて、友人のために乳牛を買う。息子たちに痛めつけられた腹いせに、裁判所に訴え、息子たちを犯罪者にする。家族を思って行動する瞬間もあるが、だいたいは自分勝手な行動で家族に迷惑ばかりかけている。

こんな人間に「共感」あるいは「感情移入」するのはかなり難しいと思うので、この父親の物語は単に父と家族の関係を描くこととは別の目的があるのだと考えざるをえない。わたしは、この老いた父親は無茶苦茶なやり方で急激な成長を遂げたあとに急激な老いを迎えるであろう中国の皮肉に満ちた肖像画であると思う。というより、そう考えないと、この不快で愛し難いキャラクターを主役にした映画を作る意味が理解できない。

このように無理矢理こじつけたところで、面白くなるかというと、それもまた微妙だけども。
東京国際映画祭「アジアの未来」出品作品。コンペティションでは藤本明緒監督の「僕の帰る場所」と作品賞を争ったが、「スペシャルメンション」が授与された。「スペシャルメンション」というのは、「審査員特別表彰」というものらしいが、審査員が受賞作品と遜色ないと認めた作品に与えられるという。残念ながら「僕の帰る場所」を観ていないので、優劣はつけ難いが、自分はこの作品はたいへん優れた作品だと思った。

初めて観る中国は内モンゴル発の作品。内モンゴルのオルドスという都市が舞台になっている。監督の言によれば、10年くらい前まではこの地はバブル景気で沸いていたが、いまは建築途中のビルが廃墟のように建ち並び、急速な都市化で空洞現象が起きているという。作品のなかでも草原の向こうに高層ビルが林立する映像が登場し、極めてそんな社会状況を反映した作品になっている。

主人公は、かつては羽振りが良かったが、いまはすっかり落ちぶれて、毎日を自堕落に送る初老の男性。それでも気持ちはまだ昔のままで、妻が倒れたというのに、愛人や風俗を渡り歩き、雄々しく毎日を送っている。知人のラクダを預かったことで、ちょっとしたトラブルが生じて、子供たちが調達した妻の手術費用にまで手をつけてしまう。はっきり言って、わがままでどうしようもない父親なのだが、どこか憎めない魅力的な部分もある。対して子供たちは、そんな父親を反面教師のように育ち、堅実な生活を送っている。物語は、この父親と子供たちの対立がやや滑稽で面白く、それを軸にして内モンゴルで起こっている社会の変化も描かれていく。砂漠の緑化で遊牧民がラクダを売らなければいけない状況なども、物語のなかでさりげなく語られる。

とにかく内モンゴルという、あまりふだん目にしたり、話を聞いたりしない地域の話で、街の風景を眺めるだけでも好奇心をそそられた。そのなかでまさに「野獣」のような古い世代の男と、極めて小市民的な新しい世代の子供たちの対立は、どうしても「老いた野獣」のほうに肩入れしてしまう。またこの不良親父がサングラスをかけバイクを駆って街をクルージングするシーンが妙に絵になっているので、完全に興味は親父のほうに行ってしまのだ。めったにお目にかかれないこのような内モンゴルの作品に触れられるのもこうした映画祭の良いところだ。
Oriya

Oriyaの感想・評価

3.6

このレビューはネタバレを含みます

自分勝手で妻も子どもも顧みず自由に生きる父親には本当にイラつくばかりだった。
けどそんな父親も自分を育ててくれたわけで、家族だから憎くてでも憎めきれない。
家族問題は本当に難しい。
自分が同じ立場になったらどうするのかそればかり考えてしまった。
時代が変わり、価値観も変わる。
それは家族内でもすれ違って行く。
自分が家庭を持ち子どもをもったとき、年老いても子どもたちと共通の価値観が持てるのだろうか。
TIFF8本目。
身勝手で高慢な老害クソジジイに家族が振り回され続ける。しかし、そんなジジイでも血は繋がっているわけで。
あの爺さんはこれから家族に妬まれ憎まれ続けて死んでいくのかもしれない。しかし、彼はどこかで妻を愛しているからこそ最後の行動な訳で、麻雀しようが若い女と寝ても、手術代を盗んでも、父子であることは変わらないんだよなあと。
kirito

kiritoの感想・評価

3.1
【ヤンおじさんのバイク】

最近『老害』という言葉をよく聞く。
その意味は…『自分が老いたのに気づかず(気をとめず)、まわりの若手の活躍を妨げて生ずる害悪。』と定義されるらしい。

本作、老いた野獣(老害)は、周りの若手の活躍を阻害するわけではないが、かなり勝手なことをする。

例えば、寝たきりの妻の介護もせず麻雀に通ったり、情婦と寝たり…
なかなかの野獣先輩ぶり。
それでいて外面がちゃっとよかったり、後輩には見栄をはってみたり…

そんな父を許せない子供達は自分たちで母の手術金を工面するが、それすらもこの野獣にもってかれてしまう。

一言で言えば、この主人公はいわゆるクソな人間。
けれども彼には彼なりの信念があって、考えてることは考えているようだ。

信頼を回復することはむずかしい。
父だから憎むし、父だから心配。
息子だから許せないこともあるし、心配になることもある。

大きく育ててくれたのは親なだけに、老害となってしまったら、どうすべきなのだろう。

2017.10.31
nr

nrの感想・評価

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2017/10/28
東京国際映画祭
TOHOシネマズ六本木ヒルズ
うんこ

うんこの感想・評価

3.9
主人公の「あまのじゃく」さ(平たく言えば)と、それに振り回される家族と観客。しかし、あくまでも観客が焦点を合わせるのは主人公の”老いた野獣”。笑いのセンスと映画製作のセンスの共有部分に立つ面白さがこの作品の魅力。全体的に見てもクオリティが高かった。良作。
金と女にだらしないロックなオヤジ。こんな父親は嫌だと思った。
haomei

haomeiの感想・評価

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17/10/28 TOHOシネマズ六本木ヒルズ
猫

猫の感想・評価

3.0
これは掘り出し物。長編デビュー作にしてはかなり満足度が高かった。

コトを成す瞬間のショットはあえて欠落している。コメディとサスペンスの両義性。
手持ちカメラのアップショット中心で構成されているけど、ちゃんと運動で繋ごうという意志があるし、時折挿し込む街のロングショットにも情感がこもっている。