影なき狙撃者の作品情報・感想・評価

「影なき狙撃者」に投稿された感想・評価

2002年8月3日、鑑賞。

この映画、学生時代から観たかったのだが、なかなか映画館で上映されなかった。
たまたまNHK-BS2で放映されたので、ようやく観た。

朝鮮戦争の元捕虜が、トランプの「ダイヤのクィーンを見ると人殺しする」ように洗脳される戦慄の映画だった。

怖くて面白いジョン・フランケンハイマー監督作品。

町山智浩氏久々の”映画評論集”「最も危険なアメリカ映画」が滅法面白く、本書で取り上げられている映画作品をここんとこ順繰りに観ております。
中には発禁になっているものもあり、その全てを観ることは叶わないが、逆にパブリック・ドメインでYouTubeで観れるものもあったりします。


町山氏の選んだ作品に共通するテーマは、政治、戦争、差別、宗教です。
そして、それを生み出し、雪だるま式に”正義”というマジョリティを形成するポピュリズムの恐怖…

ただ、そのようなテーマを扱った作品ならヘイズ・コードに縛られていた当時のハリウッド作品の中にも沢山あります。

それなら、何が危険だったのか…そして公開後何十年も経った今も尚、危険たらしめるのか…

それは、ある種の”突き抜け感”だと思うんです。
政治の腐敗、戦争の残虐性、黒人差別の理不尽さ、宗教の欺瞞……それらはあくまでも表層の問題であって、この本で取り上げられている作品群は、もっと奥の方…人間の実存にまで食い込んでいきます。”多数派でいたい”というフィリッツ・ラングの「M」に見られるような群集心理の恐怖すらをも凌駕するもの…

…そして今回は「影なき狙撃者」、ついでにジョナサン・デミがリメイクした「クライシスオブアメリカ」を一気に観ました。因みにどちらも原題は”The Manchurian Candidate”(満州の候補者)です。
「影なき狙撃者」のオープニング…50年代アメリカの瀟洒なホテルの会場。大きく切られた窓から陽光が差し込む演台では、上品な中年女性が園芸についての講演を行っている。

ただ、異様なのは演台には何故か数名の兵士がだらしなく足を伸ばして、それを退屈そうに聞くでもなく椅子にへたり込んでいる。カメラは演台からゆっくり時計回りにパンして行き、公演を観ているご婦人方を写す。そしてまたゆっくりとカメラが演台に戻ると、窓はなくそこにはスターリンと毛沢東の巨大な写真が貼られており、講演者はアメリカの中年女性から禿頭の中国人の諜報員に代わっている…

ジョン・フランケンハイマー、いきなりブッこんできます。

あらすじは、書くのが面倒なのでwikのコピペで、ご勘弁の程を。なんならそこらも飛ばしちゃって下さい^^;


《ベネット・マーコ大尉(フランク・シナトラ)率いるアメリカの小隊は朝鮮戦争で中国人民志願軍の捕虜になる。部隊を救ったレイモンド・ショー2等軍曹(ローレンス・ハーヴェイ)は帰国後、英雄として称えられた。しかし、捕虜にされている間に小隊は中朝連合軍を後援するソ連軍のジルコフ(アルバート・ポールセン)らによる洗脳の実験台とされ、レイモンドはトランプでソリティアをするように促され、クイーンのカードを見ると言いなりになるように洗脳されていた。

レイモンドの母親、アイスリン夫人(アンジェラ・ランズベリー)は彼女の再婚相手のアイスリン上院議員(ジェームズ・グレゴリー)を次期大統領にするべく画策していた。レイモンドは出征前、アイスリン議員と対立するジョーダン議員(ジョン・マクギバー)の娘のジョスリン(レスリー・パリッシュ)と恋に落ちたが、アイスリン夫人に仲を引き裂かれていた。二人は再会後、結婚する。しかし、アイスリン夫人はレイモンドにソリティアを勧め、催眠状態になったレイモンドに政敵のジョーダン議員を暗殺するように命令する。ジョーダン議員を射殺したレイモンドは無意識のまま、その場に居合わせた新婦のジョスリンをも殺害する。

レイモンドや戦友の行動を不審に感じたマーコは、恋人のユジェニー・ローズ(ジャネット・リー)の助けも借りて、レイモンドが洗脳にかかっていることを突き止める。マーコから真実を告げられ、洗脳が解けたレイモンドは自分の母親から殺人を命令されていたことを知る。レイモンドの洗脳が解けたことを知らないアイスリン夫人は、レイモンドにクイーンを見せ、副大統領候補に選ばれた夫が大統領候補に繰り上がるよう、党大会で次期大統領候補を暗殺するように命令する。当日、レイモンドは大統領候補の代わりに、アイスリン上院議員とアイスリン夫人を撃ち抜く。その直後にレイモンドは自殺し、物語は幕を閉じる。》

「クライシスオブアメリカ」では朝鮮戦争がイラク戦争に、共産勢力は軍事産業に置き換えられています。

…う~ん、既に俺たちは知ってしまっています。アイゼンハワーが57年前に警鐘を鳴らしていた軍産複合体の危機が現実~コモンセンスになったことを。

それを今更、サスペンス(陰謀)の肝として話を転がされても、”日本では天下りなるものが存在していた!”と吠えるようなもんです。

それと、洗脳にまつわる、あれやこれやですね。

「影なき狙撃者」ではトランプ(カードの方です)…中でも”クィーン”がトリガーとして(後述しますが)これ以上ない程の伏線あるいは、象徴として機能します。

「クライシス~」では、”脳内チップ”…??

洗脳(暗示)も、ふた昔前のマッドサイエンシストが、これ又ふた昔前くらいにパーマ屋さんが使ってたヘルメットを着用して、なにやらごそごそしております。その…洗脳のイメージ(悪夢)が、「セブン」以降、流行りすぎて最早、食傷気味になりつつあるカイル・クーパー仕様のタイポグラフを、フラッシュバックで多様しておりますが。。。もーいーです。

それから(当たり前ですが)配役ですね。

レイモンドの母親をメリル・ストリープが演じてるんですがカリカチュアが過ぎて、「俺たちは天使じゃない」デ・ニーロ症候群を患った痙攣的な演技にしか見えません。

そして更に俺たちはもう見てしまっているんです。

ドナルド・トランプという”役者”を….

ジョナサン・デミ、ポップでハイテンションな作品も作れるんやし、どうせならサタイアとして作れば良かったんじゃないかな、と。

どうせ、今のご時世、映画よりも”笑えない”ブラックコメディ”と化しているんやし。



それじゃ「影なき狙撃者」のアンジェラ・ランズベリーはどうだったのか?というと…それはこの作品の一番深い所と繋がってくるものだと思うんです。

町山氏は本書の中で、レイモンドと母親の近親相姦的な繋がりを、当時の社会的な背景を絡めて解説しております。

「影なき狙撃者」と同じ頃に作られた「サイコ」、「去年の夏突然に」、「不意打ち」を引き合いにして、『50年代アメリカの中産階級、特に郊外の新興住宅地の家庭で、妻たちは、専業主婦の良妻賢母であることを求められ、自己実現も、性的欲求もみたされないまま、家庭に、縛られた。核家族化によって、母親や祖母や先輩の女性たちからの助言も得られないまま孤立した彼女たちは、その捌け口を内側に向けた。自分を顧みない夫の代わりに息子を溺愛し、支配しようとしたのだ。』(原文)

あとは、町山氏お得意のカウンター・カルチャーに話が続いていくのですが….

う~~ん、果たしてそうだろうか?

….….….….

….学生の頃、ユングにのめり込んでた時期がありまして…ユング本を読み漁り、なんでもかんでも”ユング眼鏡”で解釈し分析していた俺に「もっと他の本を読まんかい!」と、あの時友人が諭してくれなけりゃ俺は今頃、UFOと交信したり、曼荼羅をチマチマ描き続けたりしてたかも。。。

やっぱ、唯ひとつの思想、宗教、イデオロギーだけに”所属”してちゃダメってことですな。…そういう意味では全身イレズミだらけの、「プリズナーズ」におけるロキ刑事(ジェイク・ギレンホール)は素敵やね←なんのこっちゃ^^;

あー、また長くなりそー…閑話休題。

ユングで真っ先に思い浮かぶものと言えば”元型”だと思うんですが、これ、笹原和夫のシナリオ骨法や、ジョセフ・キャンベルの物語論と変わらんのですね。

元型ってのは全ての人間の人生、それを投影した物語は、人類に共通する普遍的無意識に還元でき、それを意識によって把握されたものが、神話や伝説などとして記述されている、という考えです。

その中での”母の元型”…これ、無茶苦茶恐ろしいんですね。


ユング心理学じゃ”グレートマザー”と呼ばれているんですが、上の図のように円環構造になってる。
これは、植物が土から生まれ育ち、冬になって枯れること….母胎である土で死と再生が繰り返されることと同義です。
ギリシア神話の少年神アドニス、プリュギアは”穀物神”です。
そして、彼らを愛したのは母なる女神、アプロディーテ、キュベレーです。
そして、少年神たちが他の異性により自立しようとすると、容赦なく殺てしまいます。
厄介なのは、この円環地獄からの脱却です。それを幇助するのが”父親”と”姫”の元型です。
父親は母親の”包括”を”切断”する役目を担ってます。
それはイニシエーションという象徴的な形で成し遂げられます。
その際に生じるのが、”火”です。
カタストロフィをも含めてのエモーショナルな浄化の象徴として、ユング心理学じゃ語られています。タルコフスキーに於ける火も、同じ定義やったとおもいます。

…レイモンドはラスト、弾丸(火)によって、グレートマザーを殺します。

…原作ではレイモンドと母親のセックス描写があるそうですが、規制の厳しかった当時のハリウッドでそんなこと描写出来るはずもなく、クライマックスでのキス…肉親以上の…でカットが切れます。
しかし、アンジェラ・ランズベリーはコードぎりぎりを
逆手にとって、背徳的、悪魔的、そして普遍的なグレートマザー像を完璧に演じ切っております。
その…クライマックスのキスシーンで、彼女はレイモンドに語ります。
”これで、全てが終わるわ。あなたをこんな目に合わせた連中にも仕返しが出来る。世界は私とあなたの物になるのよ。”

彼女は思想信条なとハナからどうでもよく、純然たるグレートマザーだったんです。

そう、これは洗脳の恐ろしさ、コミンテルンの恐怖、ポピュリズムの不条理感…それらを越えた、最もプリミティブな畏怖、恐怖を見事に捉えた作品だと思いました。
キャスティングでいえば主役の、フランク・シナトラ演ずるマーコ大尉は、ヘンテコな格闘技で笑わせてくれますし、レイモンドを演じた、ローレンス・ハーヴェーの、スイッチが入った後…ビフォー・アフター…が天晴れ!なんですな。悩める”ターミネーター”って感じです。

中でも、中共の諜報員のオッチャン。

ソ連の諜報員がやたらと生真面目なのに対し、金子信雄みたいな下卑た笑いと、不謹慎極まるギャグをかましまくります。”資本主義もわるくないねぇ、これからメーシーズに行かにゃならんのだよ。カミさんにこーんな長い買い物リストを渡されてね~」

さすが易姓革命の国の人。

先にソ連が崩壊するわけですʅ(◞‿◟)ʃ
これ普通に傑作でしょ。
フランケンハイマーの演出ほんとキレてるなあ。
パクラ『パララックスビュー』の洗脳描写の寒々しさも良かったけど、ローファイながらの不気味さが漂うこっちもすげぇ。
党大会の緊迫感(汗がすごい笑)も良い。結末はパララックスのほうが奥行きがあって良いかなーと思うけど。

そしてアンジェラ・ランズベリーの怪演。ウォルシュの『白熱』とかアルドリッチの『傷だらけの挽歌』のようなどこか近親相姦的な鬼ママ具合が素晴らしい。
謎の韓国人役のヘンリー・シルヴァも面白かった。はじめジャック・パランスにみえたわ。
Toku

Tokuの感想・評価

3.0
気になった音楽
Theme from the Manchurian Candidate/David Amram
ジョン・フランケンハイマー、、イカツイ名前ですが、男っぽいアクションが得意の監督。「大列車作戦」「グランプリ」「ブラックサンデー」など好きな映画も多い。この作品は見逃していました。

朝鮮戦争から英雄としてアメリカへ帰還した兵士は、実は中ソ軍に捕らえられ暗殺者として洗脳されていた、、。

時は米ソ冷戦の真っ只中だからこそ、ありうる設定のポリティカルサスペンス。
洗脳された兵士は何人かいて、みんな同じような夢に毎夜うなされます。その夢の雰囲気が不気味です。彼らの中で、どうやら一番深く洗脳されたらしい一人が主人公。彼は、それだけでなく家庭環境も複雑で、強烈な母親にも束縛されています。母親は上院議員と再婚し、その男も影で操るような人で、彼は二重に支配されているようです。 このことが、最後に驚くような展開の伏線になっていますが、中盤はちょっとまだるっこしい。そこをもっと削ってシャープにしたら、全体的にもっと面白くなったのにと思いました。
クライマックスの党大会のシーンは緊張感ありました。
朝鮮戦争でソ連の捕虜となった米兵が、洗脳を施され、帰国後に無意識のまま殺人を犯していく冷戦時代のサスペンス・スリラー。ソリティア→ダイヤのクイーン→洗脳トリガーの流れが物語的でキャッチー。中盤で日本の犯罪者の写真を映すシーンで岸信介が出てきたけど、いいのか?洗脳被害者の青年が、最初嫌なやつなんだけど、シナトラとの会話シーンを積み重ねていくうちに、段々悲劇的なキャラクターとして切なく感じられていく手順は、昔の映画の時間の使い方の良さが出ていた。逆に、シナトラとジャネット・リーの絡みは尺を食ってるだけで、効果的じゃなかったよな。
2017.6.17 スターチャンネル(字幕)
tapes201

tapes201の感想・評価

4.0
素晴らしい。フランケンハイマー、やはり凄い。シナトラ御大も渋く抑えた演技で流石の貫禄だけど、ローレンス・ハーヴェイ様、アンジェラ・ランズベリー様にも尽きる。あまりに東側の謀略を描いてるので配給から待ったがかかった所、シナトラ御大が大統領に直談判、という、まるでお伽話のような話が、特典映像で。リチャード・コンドンの原作も読もう、と思ってググったら翻訳が酷い、との評価。うーん。
『影なき狙撃者』ジョン・フランケンハイマー/1962
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デミのリメイク版も嫌いじゃないけど、やっぱりフランケンハイマーのオリジナル版が好き。洗脳のシークエンスが不気味で素敵。
ドン・シーゲルの『テレフォン』やパクラの『パララックス・ビュー』と一緒に観たい作品。
とにかく女を殺すシーンが強烈。
パンフォーカスの衝撃は『市民ケーン』よりレオーネより断然こっち。
イワシ

イワシの感想・評価

3.2
面白かったけど長い。レスリー・パリッシュは物語上重要な役割なんだけど、役割以上に説明的な登場でうんざりする。クライマックスの党大会の場面は、フィルムに生々しい迫力が宿っていて素晴らしい。『パララクッス・ビュー』といい、アメリカの政治集会には何故生々しさが宿るのか。
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