ファーザーの作品情報・感想・評価 - 241ページ目

ファーザー2020年製作の映画)

The Father

上映日:2021年05月14日

製作国:

上映時間:97分

ジャンル:

あらすじ

「ファーザー」に投稿された感想・評価

認知症を扱ってはいるものの社会派ではなく、サスペンス・ホラー・ミステリーの複合のような映画だった。

殆ど室内のシーンだが、ドア越しのアングルが多くて間取りも部屋の全貌も掴めず、誰の家なのかも判断できない。
それこそアンソニー同様に、自分がどこにいるのか判らなくなる感覚がある。
終始そんなような閉塞感のあるショットばかりだったからこそ、画面いっぱいの緑葉に胸打たれる。
最近流行りの若返りCGを使って昔の父娘の回想でも流せばさぞ泣けるシーンを撮れたろうに、そういった小細工に走らないのも好感。
slv

slvの感想・評価

4.4
アンソニー・ホプキンスの名演技、その説得力の凄みに引き込まれ、揺さぶられ、ずしりとした余韻を残すラストに心打たれる。

老いた父アンソニーと娘アンのやり取りと日々の様子が映し出されるが、それが時間軸もどうなっているのか、何が現実で何が幻想なのかもわからないようなシーンの連なりに困惑し、混乱し、何が何だかわからないという感覚を共有しながら、しだいにアンソニーがおかれている現状と娘アンが抱えてきた苦労や葛藤が明かされていく、この構成が本当に見事。

認知症によりままならなくなっていく日々の記憶、そしてその混乱のさなかにいる当事者が、こんなにも不安で、こんなにも心細い思いをしているのかと知らされる終盤の場面、ある人物に切々と心情を訴えるアンソニー・ホプキンスの名演技とその台詞の全てに心が震え、涙が溢れ、嗚咽を必死に抑えるしかなかった。

あのアンソニー・ホプキンスの姿はずっとずっと心に残り続けると思う。
netfilms

netfilmsの感想・評価

4.1
 娘は険しい表情をしながら足早に歩く。その姿にはどこか苛立ちのような複雑な感情が滲むが、不思議と彼女は父親の姿を確認すると、努めて温和な表情で父と向き合うのだった。アパートの一室は決して貧しくなく、一人暮らしの老人にとって何一つ不自由はない。廊下に飾られた絵画はこの家の主がかつて芸術に明るく、中産階級以上のインテリ層だったことが推察出来る。事実、81歳になったアンソニー(アンソニー・ホプキンス)は窓際で椅子に座りながら、ヨーロッパ製の高価なヘッドフォンでオペラのCDを嗜む。台所の端には幾つもの赤ワインが綺麗に並べられている。娘のアン(オリヴィア・コールマン)が父親の為を思ってヘルパーを付けるが、アンソニーはそれが気に入らず、散々嫌味を言ってはヘルパーを追い出してしまう。映画はそんな父親の本心を娘が探る場面から始まる。父親は神経質な人で、他人に厳しい人間だったんだろうなとすぐにわかる。実の娘の献身的な態度も決して額面通りには受け取らず、当然感謝の言葉が一番先頭に来ることもない。しまいには長女のアンよりも今は疎遠となってしまった次女のルーシーの方が可愛かったとごく当たり前のように呟いて見せる。この憎まれ口を何十年何万回聞いたかわからないが、それでもアンは父親の前で気丈に明るく振る舞おうとする。

 FBI訓練生のインテリ才女の正気を失わせていった『羊たちの沈黙』でアカデミー賞を獲得したアンソニー・ホプキンスが、今度は逆に薄れゆく記憶の中で自身の正気を失って行く。今作が描くのは認知症の進行によって、現実と幻想の境目がわからなくなった老人の恐怖に他ならない。認知症は完全に回復することがなく徐々に進行して行く病気なのだが、認知症の人の言っている内容は全てが妄想ではなく、ところどころ現実に即しているため、親族ならばその断片的な言葉尻にいちいち一喜一憂する必要はないのだが、彼女は父親の歪な発言や記憶の混沌に心底傷つく。アンソニーがほとんど家から出ることがないワン・シチュエーションの作劇は限定された空間に父娘を幽閉し、孤立させるのだが様々な訪問者たちが老人の心にさざ波を作る。アンソニーの心はアンの不在時にも様々な幻視を引き起こすが、その度に苛立つ作品全体のトーンを落ち着かせるような物言わぬ無人ショットの挿入が寂しさを醸し出し、あまりにも不気味だ。シンプルな舞台設計に似つかわしくない複雑な台詞読みと心理描写を巧みにこなすアンソニー・ホプキンスの演技は凄まじく、その行間には健在だった頃の2人の関係や家族の笑い声が聞こえて来るかのようだ。

 アンソニー・ホプキンスと対峙するオリヴィア・コールマンの迫真の演技もまた、崇高な物語を優しく丁寧に読み取る。2人のやりとりは実にシンプルだが、そこに鬼気迫る葛藤があるからこそ、我々はスクリーンに深く感情移入して行く。日に日に衰え行く父の姿に目を背けたくなるような恐怖を感じる娘だが、衰え行く父の手探りの実存もまた過酷で容赦ない。全ての人間に平等に与えられているのが時間だとするならば、時間がもたらす老いや死から我々は何人たりとも決して逃れることが出来ない。
どみ

どみの感想・評価

4.5
前日から予約して仕事終わりに。
めっちゃ良かった。

忘れられる側、ではなくて忘れる側の擬似体験。
伏線まみれのサスペンスやったっけ??って最初は思ってた。我が物顔で闊歩していた家で、徐々にアンソニーが他人になっていく感覚がすごい。なんだか可哀想になってしまった。
フラットとホームの使い分けも納得。
(※flatの単語を知らなかった。大卒とは。)

腕時計、ルーシー(に関わるもの)、パリ渡航、ビンタ、
繰り返されるのは彼の記憶のなかでも印象的なものばかり。断片的な記憶に囚われて余生を過ごすのかな…

最後、自分の名前が間違ってなくて安心した。
「すべての葉が失われてしまう」、忘れるというより当人からすれば失う感覚に近いのかもしれない。
老いは痛ましいね…

冒頭クレジットでMusic Ludovico Einaudiを観てからずっとテンション上がってた。5年前ぐらいにどっぷりハマっていて、自主制作の映画にも使ってたかな。
曲名にDay1とかDay5とかあった気がするけど、ひょっとして体感5日ぐらいなのか!?とか考えてた。また聴こっと。
miwant

miwantの感想・評価

4.1
認知症のアンソニーの視点で進んでいく映画。

観てるこっちも時系列やどの話が本当で嘘かわからんだ。
でも認知症ってこういうことなんだな。
すごく新鮮だった。

おじいちゃんとおばあちゃんを今以上に大切にします。

このレビューはネタバレを含みます

終始居心地の悪い映画だった。掴めたようで掴めず、引き離したようでコチラに迫ってくる。序盤から意味が分からなくて、見終わっても初見の状態だけじゃ分からない部分が多々ある。それでも、今年公開されたジョシュ・トランク監督『カポネ』で面白かった梅毒症状と現実を行き来するサイコ・ホラー的シーンをこの映画は97分ずっとやっていたので楽しかった。
認知症で情報が飛んでいる状態と、観客がポッと物語に入れられてフラットで見れる状態が一致し、主人公のアンソニーと観客の情報量が一致しているのがとても面白い。世界全体が敵に見えてしまうようなそんな構成も見事です。自分が見ているものも嘘なんじゃないかと怖くなった。さっき終わったはずのシーンの数分後、急にそのシーンの続きが始まったり、いつのまにか迷宮に入っていたかのような新鮮な映画体験。映画の楽しさが十分に溢れていた。家や内装が物語を語る。部屋の四角でまとまっている感じやドアなど、インテリアが意図的に整えられている感じが好みです。アンソニー・ホプキンスの堂々たる貫禄を見せつける名演、「全ての葉を失っていくようだ」という台詞の後のアンソニーはオスカー納得。その台詞のあと、窓越しに新緑が生い茂っている木を見せるラストカットを映す辺りまだ希望があることを映し出しているんじゃないかなと思った。
アカデミー賞作品賞候補全て見れた訳ではないが、この作品はレベルが違うなという印象。『ノマドランド』も良い映画だとは思うけど…。
怖かった〜
世に認知症の老人を描いた映画はたくさんあったけれども、本作は認知症になった老人からの視点がメインなんですね。
だから記憶の混同、混濁、事実誤認が数分おきで起きてしまう。

全員が嘘つきなんじゃないか?真実っていったい何なんだ?と、主人公のアンソニーの立場になっても、そして映画を観てる人間にとっても混乱を招きます。

しかもシーンがメインである主観から、娘や介助士側や、第三者のいわゆる「神の視点」の客観にところどころ変わることがある。
これによって、常に「何が正しいかわからない」という状況に落とされました。

この「足場のなさ」が、一種のホラーみたいに感じました。

しかも、認知症老人にとっては「私の言うことは絶対なんだ、正しいんだ」という激しい思い込みがあり、それを否定されると攻撃的になる、実に厄介な状態。

で、映画を観てる最中は、アンソニー・ホプキンスの怪演に夢中になっているのですけれども……
観終わると違う恐怖が起きました。

ひょっとして、歩行者のいる歩道に車で突っ込み、アクセル踏みっぱなしで事故を起こしたのに「ブレーキを踏んだのにかかわらず加速した」と主張する老人とかって。
彼らにとっては、その主張は「正しい」んだ。
主観ではそれしか「真実」じゃないんだ。
そういう脳の構造なんだ。
うわぁぁぁぁぁ、怖えぇ。
mon

monの感想・評価

4.5

『ひとつずつ葉を失っていくようだ』


認知症を患うアンソニーの視点から、認知症を擬似体験するスリラー味のあるヒューマン・ドラマ。
アンソニー・ホプキンスの渾身の演技、納得のオスカーです。


何が起きてるのかわからない、誰が誰かもわからない、大事にしていたはずのものが、次第に自分の中からすり抜けていく。


私や母のことすら忘れてしまった今はいない祖母のことを思い出した。
被害妄想から泣き出したり、会う度にちがう人物のようで、おまけに私に会って「孫だよ」と説明されてもキョトンとした顔をしていた。
まるで幼い少女のように。
本当に、アンソニーの症状は誇張でもなんでもない。


あの頃、私はそんな祖母に会うのが億劫で、満足にお見舞いにも行かなくなった。
母は6年もの間、毎日、足繁く通っていたのに。
忘れられることが寂しくて、忘れてしまう苦しさを考えてあげられなかった過去を悔やむ。
いつか来てしまう未来も怖い。
だけどそのときはきっと、この映画のおかげでもっと優しく向き合える気がする。


失くしたと思っているもの、忘れ去ってしまったもの。
「あなたの中にちゃんとあるよ」って言ってあげたい。
「ビューティフル・マインド」では統合失調症の幻覚、苦しみを映像化して視覚的に統合失調症の症状を観客に見せていたが、本作は記憶がなくなる。記憶がすり替わっていく。などの認知症の症状、苦しみを視覚的に表現している作品。「ビューティフル・マインド」が統合失調症を疑似体験出来る作品だとすると、「ファーザー」は認知症を疑似体験出来る作品。アンソニー・ホプキンス含めて俳優の迫真の演技も相まって認知症の苦しみや怖さが伝わってきてホラー、サスペンス的な要素もある。本人も自覚がなくて悪気もない。周りの人間も必死にサポートしている。いわば「加害者がいない」のが逃げ場がなくて苦しい…高齢化社会が進んでいる実際の日本でもこうゆう事があり得るんだろうし、介護する。介護される当事者両方にもなる可能性は大だし他人事ではないのかも…
正行

正行の感想・評価

4.0
アンソニー・ホプキンスの演技が凄いという前評判だったけど、その演技を引き出すシチュエーション、ストーリー構成、セット、音楽、記憶の薄れを観客にも同期させるサスペンス調の展開、斬新で面白かった。
予備知識が無く観ていたら、良い意味で『世にも奇妙な物語』かと思ってしまう。