暗き世相を反映するが如き
悲痛極まる事件は続く…。
杉下右京の正義の光は相棒である
神戸尊の罪の闇すら浮き上がらせ
贖罪の念と共に神戸は疾走る。
悔いなき正しきことをする為に。

2代目相棒神戸尊卒業の時…

「相棒season10」

相棒は世相を反映する鏡であり、そして先を見越す先進性を持つ刑事ドラマであることを更に印象付けたシーズンである。神戸尊こと及川光博さんは元々歌手であり、ツアーを行う事も加味して3年契約であった。それ故この卒業の為、脚本、演出共に練られていたと考えるのが自然だろう。その上でリアルタイムに起きる暗い事件を反映した為、壮絶な鬱回を連発する事になる。ある意味…寺脇が陽の相棒なら及川は陰の相棒となった。この第１話、最終話からくる陰のあるイメージは大きい。また映画にて官房長がいなくなる事もそうだろう。たまきさん不在問題もあり、寄るべなき2人を襲う事件と対照的な救いになる花の里が無いのもそうだろう。

俺は神戸尊を許さないと書かれた遺書から始まる…第１話「贖罪」吉田鋼太郎他豪華ゲストを迎えた冤罪を隠蔽しようとする法曹界の人々を描きながら…ラストは神戸尊衝撃の事実が発覚。罪は罪として裁く杉下右京の正義の下にいたはずの神戸が罪人（罪人）として贖罪と言う十字架を背負わされる衝撃のスタート。そして自らの贖罪を重ね合わせ神戸が冤罪事件を追う第16話「宣誓」。警察内部での歪みを含め最終話へのブリッジとなった。そして杉下右京との別れとなるクローン人間事件を描く最終話「罪と罰」この題名…二人の母が抱く妄執から生まれたクローンに対してのものであり、かつ神戸尊の杉下右京の正義を裏切った罪、そして離れざる得なくなった罰と二重の暗喩となっている。映画版の宿敵長谷川元副総監の出演から別れは非業のモノに感じられてしまうが、神戸尊の信じる後悔なく正しい事を行う事ができたわけであり、それを独り立ちとも見ることはできる。

世相は未だ暗く、上記の罪を背負いし相棒の縦軸に、そのリアルが横軸として物語を紡ぐ為、重厚かつ悲劇いや悲痛なドラマが作り上げられた。第4話「ライフライン」はシーズン9のボーダーラインが不況下の労働者の悲劇なら、こちらは経営者の悲劇である。ゆえに理不尽かつ非人間的な無惨な事件が描かれ壮絶鬱回となった。第8話「フォーカス」は世の中の無関心を描いた社会作品。白昼通り魔が刺した女性、助けを求めても誰も助けない恐ろしさ…を撮影したカメラマンが殺害され…と言う展開。

今シーズン、いや相棒スペシャル回、最高傑作の呼び声も高いのが第10話「ピエロ」。貧富の差、広がり続ける格差からきた自暴自棄とも思える天才青年の犯罪を見事に描き出しました。ゲストは吉田栄作を完全に食ってしまった若き斎藤工。誘拐劇サスペンスとして正に一級品。神戸尊が人質となり、右京さんが伊丹らの協力を得ながら犯人を追うと言うスタイル。子役の活躍もあり、スリルに富んだ見事な出来でした。

定番ですが、マスコミに晒され生活を失う加害者家族と子を失い失意に沈む被害者家族の悲劇を見事捉えた鬱回第2話「逃げ水」。瀬田弁護士として渡哲也さんシーズン7以来の登場。画面が締まりますね。伝統技能の後継者問題に切り込みながらミステリーの力も持つのは女囚サソリでお馴染みの梶芽衣子さんゲスト回第13話「藍よりも青し」。就労留学生の杜撰な扱いも未来をみこした内容でした。また引きこもりと言う新たな家族の問題が噴き出るのは第15話「アンテナ」。萩原聖人さんが米沢さん映画より登場。熱血すぎて使いづらいレベルに…。萩原聖人さんはレアな再登場ですが、毎シーズンごと出てくるのは陣川警部補。ただ陣川回でも暗いのがこのシーズン。第17話「陣川、父親になる」事故加害者遺族が幸せになっても良いのかと言う…テーマでした。

今シリーズ何故か？未来を見据えたのか…科学者が登場する回が多いんですよね。代表は最終話のクローン研究者加賀美こと真野響子さん。流石の演技でした。第7話「すみれ色の研究」でも右京さんの友人であり植物学者に柴俊夫さん。悲劇にならざる得ない病気問題。ただ…娘さんとのシーンで仲睦まじさを見せます。第9話「あすなろの唄」こちらも石油を精製できるプランクトンを研究する博士が出てきます。この方が一番狂気をはらんでましたね。第18話「守るべきもの」は1人の元SPの矜持を描いた回ですが、守る対象が二酸化炭素を酸素にすると言う胡散臭さ抜群の科学者。事件は中々日本ではあり得ない狙撃ネタです。

重たい回が多い故にコメディ回も引き立ちます。第11話「名探偵再登場」。高橋克実さん演じるマーロウ矢木再演。大富豪、いい女、後継者争いには探偵が付き物。今回も特命係を煙に巻く活躍をみせます。前シーズンで墓穴を掘った3人組が再び出るミステリーとしても楽しい「悪友」。神戸尊編では珍しいくらいのコメディです。そして…益戸育江さん突然の降板により、人気キャラが2代目花の里女将として帰って来ました。鈴木杏樹さん演じる月本幸子さんレギュラー第1回、第12話「つきすぎてる女」。もう最高に鈴木杏樹さんのコメディエンヌぶりが発揮されてます。ちょっとうっかりな2代目誕生ですね。

コメディエンヌと言うと第5話「消えた女」。本仮屋ユイカさんが映画版第一作から再演。ともすると大胆な行動をすると右京さんに心配された通りのピンチに…。悪い派遣会社と戦います(^^)。女優さんメインの回はやはり大女優三田佳子さんを迎えた第3話「晩夏」。撮影の雰囲気すら違う正に女優さんメインの純愛ミステリーでした。女優でなくシンガー回なのは研ナオコさんゲスト回、第6話「ラスト・ソング」。こちらも哀しげな歌が印象的でした。

あくまで僕の印象ですが、神戸尊時代の相棒は真面目で世相を映し出す回が総じて印象的となり、明るさより真面目さが前に出ていた気がします。神戸尊自体が真面目な秀才ですからね。キザでカッコつけに見えるのはあくまで外見。内面の生真面目さが右京さんとぶつかるのがネタでしたから。ただ…その分暗めの作品が目立つ訳です。中には演出のテクニックで時系列を弄ってコメディテイストにしたりするチャレンジングな作品もあり、そちらの評価も高いのは事実です。何にせよ、俳優さんの人柄か、警察庁にいる設定故か、再出演してくれることも多く、全相棒と会っている唯一の相棒ですから、今後のキーマンになること間違いなしでしょうね。ラストは全員揃うはずですからね(^^)

• #相棒ワールド

どこか地味な雰囲気はあるものの
相棒おなじみの墓穴３人組·マーロウ探偵·瀬田弁護士·宮村やよい·幸子さん·片山雛子·長谷川元副総監とゲストキャラたちが立て続けに再登場する流れ、
神戸くんが過去のあやまちと向き合うことになる展開、そして特命係から去ることになるなど盛りだくさんのシーズンでやはり何度観ても面白いものは面白い。

冤罪·裁判·時効制度などをテーマにした「贖罪」にクローン問題を取り入れた「罪と罰」はとても考えさせられる内容であり、

元日スペシャル「ピエロ」は相棒のエピソード·太田愛さん脚本どちらの意味でも文句なしの傑作。

櫻井武晴さん脚本の「逃げ水」「ライフライン」「あすなろの唄」「アンテナ」という社会派エピソードや

「ラストソング」「すみれ色の研究」「つきすぎている女」「悪友」と戸田山さん徳永さん古沢さんなどが書く安心して観れるような本格ミステリーや箸休めの役割を果たす正統派エピソードもありバランスもとれていて楽しめる。

二代目相棒・神戸尊が早くも卒業したシーズン10。
1話目にして、土ワイ時代からのレギュラー花の里女将の益戸育江さんが降板。全相棒ファンを絶望させた。(その後の益戸さんご本人の行動は更に我々を絶句させた)
個人的に好きな話は「ピエロ」。正月スペシャルの中では、「バベルの塔」と並ぶ傑作だと思う。
年明けには、「つきすぎている女」で月本幸子が再登場。まさかの2代目花の里女将に就任してしまった。初期から観ているファンにとっては、雷に打たれたような衝撃だった。
最終回である「罪と罰」では、右京と神戸が対立。「相棒」の生みの親である輿水さん曰く、シリーズの最終回は右京と亀山を対立させる構想だったとのこと。亀山は右京と仲良くなり過ぎたため、そのプロットは没となったが、本作に流用されたと推測される。右京と公私ともに良き相棒となった亀山に対し、あくまでも仕事上の相棒であること、お互いに理想とする正義が異なることを最後まで貫き通す神戸の姿勢は、「相棒」の世界観を大きく広げた。
亀山に比べてあっさりと退場した神戸は、その後も度々登場し、右京の窮地を何度も救っている。
近年実施された好きな歴代相棒ランキングでは初代相棒・亀山薫を抑えて堂々の一位を獲得しており、今となってはファンに最も愛された相棒となった。
「君は亀山くんの代わりにはなれません」と言われた神戸は、確かに亀山の代わりになることはなかったが、誰かの代わりになる必要などないことを見事に証明したのだ。