イルーナ

野生の島のロズのイルーナのレビュー・感想・評価

野生の島のロズ(2024年製作の映画)
4.4
「ドリームワークスの本気」と言わんばかりに大絶賛の本作。
日本国内ではガンダムなどに隠れて上映館数が減らされていると聞きましたが、私の観に行った回はほぼ満員御礼状態でした。
口コミで評判が知れ渡ってきているのでしょうか。

個人的に、ロボット物のアニメ作品には傑作が多い印象があります。
『アイアン・ジャイアント』、『ウォーリー』、『ベイマックス』、『ロボット・ドリームス』……
いずれも、「本来プログラムだけの存在だったはずが、いつしか本当の自我を得て友情や愛情に目覚めていく」というテーマが含まれています。
それだけこのテーマは魅力的なもので、本作はそれをド直球で描いた作品でした。

事故によって無人島に漂着したロボットの中で唯一生き残った「ロッザム7134(ロズ)」。
お手伝いロボットの役目を果たすべく動物たちとコミュニケーションを取ろうとするが、動物たちは弱肉強食の理から外れた存在である彼女を敵視する。
「ロボットなんだからいくら痛めつけても平気っしょ」と言わんばかりに、序盤はロズが動物たちから徹底的に痛めつけられる描写が続く。それはもう不憫に思えてくるくらいに。
というか、カニの歩き方を見て崖を上ったら直後にカニがカモメにさらわれる、カラスが首チョンパになるという具合に、「野生の島」の名は伊達でないという感じで生きることの残酷さを見せつける。
ポッサムの子供は死にまつわるボキャブラリーがやたら豊富だったし、親も(本当は生きてたとはいえ)子供一匹死んだくらいでは大して気にしていなかったりと、どこかドライな空気が漂う。
その最中、事故で転落した先に鴈の巣があって、1個の卵を残して全滅してしまう……
こうしてロズは狐のチャッカリと共に生まれたヒナ・キラリの子育てをすることになるのですが、何と、親代わりのロズは本当の親や兄弟の命を奪い、チャッカリも最初は卵を食う気でいたという、家族と呼ぶには業の深いことになっている!

本能やプログラムは、生物や機械が効率よく生きたり、自衛のために必要なもの。
ところが子育てはイレギュラーの塊のようなもので、これらに縛られていては対応できない。
ましてや種族すら違うロズやチャッカリは完全に手探り状態。それでも、身を粉にしてキラリと向き合っているうちに本能やプログラムを超えるもの、つまり「愛情」が芽生えてくる。
しかし成長したキラリはついに自身の出生の秘密を知ってしまい、アイデンティティクライシスに陥る……
なんですが本作、鴈の長老の言葉できれいなフォローを入れてくる。
もし家族全員無事だったら、未熟児であったキラリは育児放棄されていた可能性が高いだろう。彼が育つことが出来たのは、間違いなくロズとチャッカリのおかげだったと。
実際鳥、特に肉食の鳥って、最初に生まれたヒナ以外は保険扱い。
なので、上の子が無事だった場合、下の子は生まれた時点で詰んでいる。上の子に殺されたり、親に捨てられたりするんですよ……
(ある育雛の動画を見てたら、1羽除いて全員捨てられていって衝撃的だった。ゴミ出しに行くような軽いノリで捨てていく親とヒナの断末魔の対比が忘れられない)
飛べないながらも、キラリにつきっきりで飛行訓練をするロズの姿は健気の一言だし、傷だらけになっていくロズの姿はまるで子供の成長に合わせて老いていく親みたいで痛ましい。
そしてキラリが無事に群れと共に飛び立っていく場面のカタルシスに、我が子の成長を見届けた後の寂しさ。
序盤の蝶の群れが一斉に飛び立っていく所と言い、まさに映像技術の粋を集めた圧倒的表現力で見ていて本当に気持ちいい。
……去年の『フライ!』といい、近年は渡り鳥がトレンドなのか?

ここで終わっていてもキレイなのですが、本作はさらに盛りだくさんな展開を見せてきます。
キラリが渡っていた先はロボットが管理する畑で大銃撃戦に!異常寒波に見舞われた野生の島でロズの家がノアの箱舟状態に!そして、ロボット軍団と動物連合軍の一大戦争!
キラリが新たなリーダーになれたのは、「ロボットに育てられた故にロボットを恐れない」という特性を持っていたから。
嫌われ者だったチャッカリが雑多な動物たちをまとめられたのは、嘘の親戚である物語を語る才があったから。
ロズといい、本作はマイノリティの救済の仕方が上手い!
そして本来食い合い蹴落としあう存在である島の動物たちも、異常寒波を乗り切るため、ロズを守るため、本能を乗り越え団結する展開が熱い!
まあ、休憩しに来ただけの渡り鳥相手に掃討戦を展開したり、ロズ1台のために全面戦争しかけるユニバーサル・ダイナミクス社凶暴すぎん?というツッコミどころもないわけではありませんが。

個人的におおっ!と思った表現は、序盤で動物たちとのコミュニケーションを覚える手段。
それは、その場でしばらく固まって周りの動物たちの言葉を解析し覚えていくというもの。
これなら試行錯誤しながら覚えるのと違って時間節約になるし、「動物がしゃべる」というファンタジーに現実的な理由付けをするという意味でもナイス!と思いました。
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