楽園からの旅人の作品情報・感想・評価

「楽園からの旅人」に投稿された感想・評価

norisuke

norisukeの感想・評価

4.0
取り壊しの決まった教会の礼拝堂から、磔刑のキリスト像がついた十字架が外されるシーンから始まる。長年教会に仕えてきた老司祭は、主の宮が冒涜されたように感じ、主の憐れみを求めて叫ぶ。

聖母像も聖画も取り除かれ、がらんとした礼拝堂に不法入国の移民たちが入り込む。この移民たちが礼拝堂を活用して、一時避難の場所として整えていく様子が、ぎょっとする方もいるだろうけれど、観ていて楽しい。ステンドグラスから滴り落ちる雨水を聖水盤で貯めて、ろうそくをかき集めて、雨水を沸かして産湯を準備する。聖歌隊の衣装をシーツに使う。

老朽化して役目を終えた主の宮が、この世の法律で罪人とされた旅人たちの避難場所として生き返る。教会の様々な用具をしまう小部屋で生まれる新しい命。新生児を見て、老司祭がうたうクリスマスの讃美歌が印象的だ。

このように主を礼拝するための宮や用具が、困窮する人々に用いられることを主は喜ばれるだろう。

生涯を神に捧げ、教会に仕えてきた老司祭が虚無に襲われる。善をなすために信仰の道を歩んできたが、信仰はなくとも善行はなせると。福音を伝えることが先か、困窮する人の必要を満たすのが先かは、教会が長く抱えてきたテーマであるが、どちらも必要なのだと思う。

神に近く、飢え渇くこともなかった楽園を追われた人間は、苦難の旅を続けなければいけないが、それでも天の楽園に行ける希望を持って歩むことが許されている。

オンミ監督の伝えたかったことをちゃんと理解できているかどうは心もとないけれど、いろいろなことを想起させられた87分。
いち麦

いち麦の感想・評価

3.0
解体の始まったイタリアの教会で、老司祭はアフリカからの不法入国者たちを匿う。様々な分子を孕んだ旅人たちは社会の縮図。信仰に苛まれた司教自らの独白が痛恨のメッセージを放つ。争いの耐えぬ現世界に宗教の意味を問う。
多くのメタファーを散りばめ演劇的な対話ですすむ辺りは苦手なテイストだったけど、異なる表情を持つ様々な光を取り込んだ美しいカットとそれを包む静寂、実時間と切り離され伸縮された時間軸など見どころは多かった。
犬

犬の感想・評価

3.4


イタリアのある町で、取り壊されようとする教会に、長年にわたり神の愛を唱え続けてきた老司祭がひとり残っていた
そこへアフリカから長い旅をへてやってきた不法入国者の一団が訪れる
やがて身重の女性が出産し、キリストの誕生を思った老司祭は祈りをささげるが、何者かにより不法移民の存在が密告されてしまい……

イタリアの巨匠エルマンノ・オルミが手がけた現代の黙示録

重ための内容
投げかけるものがあります

中でのあれこれ

ラストはなんとも

セリフが少ない
雰囲気ありました
R

Rの感想・評価

3.5
カットを割り過ぎだ。せっかく長回しで撮影したであろう映像を、細かく切り分けて、3カットにも4カットにも短く分けてしまうのか。映像が「見えない」、被写体が「見えない」。張り詰めた緊張感を備えながらも静かに流れる物語の雰囲気と全く合っていない。(どうして少し寄ったのか、どうしてカットを割ったのか、全く意味が分からない)かと思えば象徴的なショットが長めに映される。あまりにもあからさまな映像表現(ライティングも含む)に嫌気が差した。手垢のついた表現ばかりでこれといった映像がなかった。感動させにかからないでほしい。それに伴うクローズアップはいらない。感動は観客の社会的な許容範囲にしか留まっていない証ではないか。『明日へのチケット』という作品はキアロスタミがいないと成り立たなかったのではないか。
潰れかけの修道院がアフリカの難民を受け入れ、と聞くと社会派ぽいが閉鎖的な教会はむしろ舞台装置のよう、外部から光が差し込むと宇宙船みたいに。人物の詳細な背景を明らかにせず話が進んで寓話になる。光、言葉、ショットの的確さ、現存最高強度の新作を生む監督の一人、オルミ

このレビューはネタバレを含みます

内容は難しくてすべてはわからなかったけど、面白かったのは、同じ教会のなかにいるにも関わらず、移民たちと、神父さんとの間にある、距離感。
同じ建物にいながら、彼らは(とくに神父さんは)自問自答する。

印象に残ったのは、神父さんの言葉で、
「わたしが司祭になったのは、善を行うためだ。しかし善を行うのに、信仰は必要ない。善行は信仰に勝る」
という言葉。
なげやりでも、皮肉でもなく、ただ事実として。
このおじいちゃんは、生涯をかけてこのことを考え続けている。泣きながら、苦しみながら。

とても、美しい人だな、と思った。
こういう人を本当の美しい人と言うのではないのかな。。
難しいことはわからないけれど。

ただ、面白くはなかった。
演劇のような感じも好きじゃなかったし、光や影の感じもあまり綺麗だとは思わなかった。
全体的に、なんとなく老人が撮る若者達、みたいな感じがあって、そのせいで、美しさとかが入って来なかった。
若い人からエネルギーをもらって作品を作っているような映画は苦手。そういうの芸術の世界では山ほどあるけれど。
これはただただ、好みの問題だけど。

というか、この監督、はたしておじいちゃんなのかも知らないけれど。。

そして、いってることはちゃめちゃだけど、この映画好きじゃなくても、でもやっぱりこの監督、すごいです。
面白くないなと感じても、見終わったあと、動けなくなる。
なんだろう。映画ででしか起こらない、感動の仕方で、いつまでも胸に残る。
n

nの感想・評価

4.1

このレビューはネタバレを含みます

「善行は信仰に勝る」という台詞がとても良かった。カート・ヴォネガットの「愛は負けても親切は勝つ」に似た、確かな実感と説得力を伴う言葉。

教会とは本来どんな場所なのか、聖職者はどうあるべきか。躊躇なく移民たちを匿い、排斥主義者を一喝した神父さんは何ひとつ見失っていないように思えたけれど、それでも目に見えて弱っていったのは、自らの信仰が危機に瀕していたからなのか、聖職者としての今までの歩みが虚しいものだったと感じたからなのか。世俗に生きる者にはなかなか推し量りがたい心境である。

イタリア映画にはもっと難民や移民が登場してしかるべきなのではといつも思うが、この映画の月明かりに照らされるアフリカの人々の面差しはたいそう美しかった。特に弁護士さんが素敵。
キリスト像は降ろされ、ただの空き家になってしまった教会。それでも信仰は、信仰だけはそこに残っていると信じていた、年老いた司祭。それすら姿を見失ったとしても、希望を捨ててはならない。宗教や偏見を超えたところに、慈愛はたしかに存在していた。
極稀にもう一度見る目的でなく既に見ていた映画を再度見てしまったときは自分の健忘症を疑い絶句してしまうのだけど、この作品に限っては価値観が昔と変わった今再び見たのは正解だったと思う

廃れた教会にアフリカ系移民が訪れ老いた司祭が共同生活を行う話だが、最小限の台詞と全編セットを用いた演劇的演出で独特の味わいが齎されており、テーマにおいても場所をどう使うかは使う人間次第という皮肉と真に必要な人間に使われてこそ価値があるという真理を克明に描写されて、キリスト教徒でなくても染みる作品となっていた

歳を取って若干作風が変わった感があるものの、整然とした演出は確かにエルマンノ・オルミのそれで、小品ながらも彼の根幹にある美学というのが色んな意味で伝わる作品だ
取り壊されたイタリアの教会に違法入国者が大勢集まってきて生活をする。彼らは色々なグループに分かれており、元教会はアフリカやイスラムが抱える問題を寄せ集め、あたかもその地域の縮図のようになってしまう。彼らはそこにいても救われるわけではない。司祭も彼らを救うことはできない。だから元司祭自身も救われない。
キリスト教の歴史と人類の歴史についての希望を問いかける作品。
答えはない。難しい…。
司祭の「善は信仰にまさる」との言葉が虚しく心に残る。
映像は非常に綺麗だった。
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