そして船は行くの作品情報・感想・評価

「そして船は行く」に投稿された感想・評価

Kirisshy88

Kirisshy88の感想・評価

4.8

このレビューはネタバレを含みます

この作品は1983年でフェリーニ晩年の作である。1980年代前半と言えば、エンタメ系のレンタルビデオが隆盛し、世界的に映画館が消滅していった時代。

この映画はモノクロトーキーがカラーになっていき、まるで映画の幕開けと進歩を語るように物語がはじまる。クラシックの数々の名曲、あるいは歌劇の形式(映画以前の表現形式)も交えて、有名歌手の故郷への葬送が船内の歌劇団の混乱とともに語られる。結局、故郷への道半ばで船は戦争に巻き込まれ、宿命のように沈没してしまうのだが、最後にフェリーニ自身と撮影現場を写していることから、映画危機の時代に晩年のフェリーニ個人の映画への複雑な思いを表したようにも思われる。ヴェルディ『運命の力』が度々流れ『ああ我が故郷』が歌手の葬送に使われていることから、映画の望郷と運命、葬送が裏のテーマであるのかもしれない。映画の源流であるオペラを通して、〈映画〉を葬送しようとしたのだろう。船は沈没するが、それでも歌手たちは歌い続ける。映画制作スタッフたちも同じように・・・
楽曲を知れば監督の意が読める名作であるように思う。

男性歌手が沈没する船の中に残り、亡くなった女性歌手をトーキー映像で回想するシーンではピアノによる『運命の力』が静かに『月の光』に転じている。このシーンとピアノソナタによる最後の映画撮影風景は、あまりに切なく美しい。

先日、興味をそそられていたのにも関わらず大阪の映画祭ということもあって観ることが出来なかった『ラブリー・マン』をTIFF2016で鑑賞することが出来た。
予想通り私好みの作品だった。
その中で、大好きな曲の1つが流れる。
とてもメジャーな楽曲なので過去に様々な作品で使用されているのですが、その使われ方が私が知りうる作品群の中でベスト3に入れても良いぐらいの素晴らしさだった。
そして本作品はそのベスト3にランキングされている作品の1つ。

『道』『カビリアの夜』以外で私が繰り返し鑑賞しているフェリーニ作品は、『甘い生活』でもなく『8 1/2』でもなく『フェリーニのアマルコルド』でもない。
『フェリーニの道化師』と本作品♪
もう大好きな作品。
ダラダラ書いても仕方がないのでズバリ、フェリーニ流最高のレクイエム。
人間歳を重ねるとふと、どうしょうもなく胸が苦しくなるような人生の黄昏時に遭遇する。
まさにこの作品がフェリーニにとってのそれではないかと…
両親、N・ロータ、L・ビスコンティ、隆盛を誇ったチネチッタなど…フェリーニと縁があったもの全てを切なく寂しく懐かしい思いで顧みながらも、最後は何があろうと自らの残された人生をこれからも精一杯映画作りに費やそうと鼓舞しているかのような笑えるラストシークエンスが逆に泣けてくる。

~追記~
この作品でグラスハープの存在を初めて知って感動しました。
Aki

Akiの感想・評価

4.3
冒頭のサイレント→トーキー→カラーへの移行が面白いし、終始オペラ調であってくれれば大傑作足り得ただろうが残念ながらそうはならず。しかし、緩やかに舟揺れし続けるカメラが偉いし、サイの悪臭が観客にまで伝わってくるほど臭そうなのも良い。セルビアの難民たちと乗客たちの境界がカーテン、ロープ、階上/階下といった形で現れているがそれはともかく、ラストのセルビアの青年が手榴弾を投げてから、セットの扱いや音楽がやたらダイナミックになるし、種明かしされるセットの豪華さには笑ってしまった。佳作。DVDは音割れしていたのでブルーレイで見たら評価変わりそうな。
年取ると可愛らしい映画を撮りたくなっちゃうんだろうかねぇただただ心地いい感じ。
「フェリーニの老いを感じる」と評されることの多い作品ながら、この老いは良い老い方だと思う。
各人物のキャラの浅さが気にならないほど、粛々とした雰囲気の心地よさがたまらない。
ラストのスタッフの映りこみだって可愛い遊び心だと思うし、さらに抜けた先のオチにはもう笑みが零れる。
秋日和

秋日和の感想・評価

4.0
映画監督と魔術師、という異なる職業をイコールで結びたくなるイタリア映画界の巨匠・フェリーニが63歳の時に撮った作品。「最盛期の力は最早なくなってしまっている」と言われることもしばしばだけれど、自分としてはかの大傑作『フェリーニのアマルコルド』と同じくらい愛おしい一本となった。
音も色も無かった、「何かをフィルムに記録する」役割を担っていた頃の映画を回想するように本作は始まる。カラカラと映写機を回す以外の音は世界に響くことなく、褪せたセピア調の画面はカラーフィルムというものの存在を知らないかのようだった。そんな嘗ての景色に魔術師・フェリーニは色と音をつけてみせ、豪華客船の船出を祝う。
所々、おかしなことがやりたいのだろうけれど、あまり面白くはないですよ……と言いたくなるシーンがあり、やっぱり世評通り微妙な映画なのかなと少し思ってしまったのだけど、いや、そんなことは決してない。月の光に照らされている女と、太陽の光を浴びている男が見詰め合うシーンは途方もなく美しいし、「差別によって引かれた境界線を越えることが出来るのは優しさと楽しさだけだよ」とフェリーニがこっそり耳打ちしてくれるかのような、とびっきり素敵な夜のダンスシーンは観ている間中ずっと幸せな気持ちでいられたし、「出逢い」と隣り合わせにいつも存在している「別れ」を癒してくれるかのようなドビュッシーの『月の光』も本当に心地良かった。
今までずっとビジュアル面にしか注目していなかったのを後悔するくらい、この映画は彼の人間賛歌に満ちていたように思う。フェリーニありがとう。
オルラントかオルトラントか覚えてない。
そのポジションがグッド。
月夜の甲板とグラスの音色。バレバレの船のセットもフェリーニなら許せる。@DVD